老人の弱みをゲット(鬼畜)
第三話です
目を覚ました千優は、まず見知らない白い天井を見て言った。
「知らない、天井だ」
テンプレな言葉を言った千優は、上体を起こした。
その時、老人の声がした。
「お、起きたかのう……」
千優は、その声がした方向をバッと見た。
千優に声をかけた老人は、ルビー色の瞳に足元までとどきそうなほど長く白い髪と髭。
しわしわの顔と、杖にもたれかかって座っている姿はまさに老人といった感じだが、優し気な瞳だけは少年のようである。
そんな老人が、茶色いローブを着て椅子に座りながら千優を心配そうにのぞき込んでいた。
そして、千優が最も驚いたのは老人の額から生えている五センチ程度の角である。
千優は混乱した。
――え、ツノ!?鬼!?食われた?もしかしてドラゴンに食われた!?
――まさかここはあの世……いや、鬼だから地獄!?
とりあえず謝ってしまおうとして……
「「すいませんでした!」」
二人の謝罪とスライディング土下座が完全にシンクロした。
千優が言った。
「僕が地獄に行くまでなんかエラい事しちゃったのは謝ります!でも地獄ってのはさすがにやりすぎじゃないでしょうか!?僕、バスや電車ではお年寄りに席を譲るように心がけてきました!虫も殺さない、おとなしい少年でした!(自分で言う)なので再審を要求します!地獄は勘弁してぇ!」
老人が言った。
「ワシが飼っていたドラゴンを放してしまったのは謝ります!でもドラゴンもストレスたまってたんです!ちょっとした出来心だったんです!ドラゴンの方も反省しています!(本当はしていない)なので『委員会』に報告だけはやめてください!
ドラゴンが殺処分されてしまうんです!ワシも校長という立場から解任されてしまうんですぅ!なんでもするから報告は勘弁してぇ!」
地獄に落ちたくないがために言い訳をする千優と、報告されたくないがために自ら威厳ブレイクする老人。
二人の声が部屋に響き渡る。
老人の言葉に疑問を感じた千優は、おそるおそる質問した。
「あの~、僕ってドラゴンに食われたんですよね?」
老人が不思議そうに言った。
「いや?でもワシの飼っていたドラゴンに連れ去られたんじゃろ?」
二人の認識が違うと感じた両者は、少し話し合った。
それによると、老人はドラゴンを一匹飼っているが、老人が多忙ということもあって近頃散歩に行ってないという。
だが散歩に取れる時間はない。
そこで老人は少しの間、町はずれでドラゴンを放したのだ。
そして帰ってみたらドラゴンが気絶している子供を持ってきたのである。
――やっちまったぁぁぁ!!!
そもそも、ドラゴンを放すのは犯罪に当たるのである。
それに加え少年をさらって来たとあっては、ドラゴンは危険生物として殺処分確定。
老人も今の立場を失うだろう。
なので、ここは少年に謝って口封じをしようとしたのである。
それを知った千優は、倉庫に閉じ込められてからドラゴンに遭遇したことまでを話して、ドラゴンは自分の命を救ってくれたのだと伝えた。
それを知った老人は目に見えて安堵した。
「いや~よかったよホントに!マジで心臓止まるかと思った~」
千優が質問した。
「あの、僕が死んでいないならここはどこなんですか?」
老人が気まずそうに答えた。
「あ~、多分じゃが、君は『世界の穴』に落ちてしまったんじゃないかね?」
次回は説明回です。