倉庫に閉じ込められたら異世界来た!?
初投稿です。
「おおおおぉぉぉぉおぉおおお!!!」
途轍もない風が身体を襲う。
わずかに目を開けるが、風ですぐに目を閉じてしまい何も見えず、耳からは自分の叫び声しか聞こえない。
混乱した頭で霞千優は、この状況に至るまでの経緯を走馬灯のように思い返した。
夕暮れの下校時間、学校から家に帰るため、歩いてゆく高校生たちの端にいる高校二年生の千優は、憂鬱な気分を隠しもせずに幸せが全速力で逃げそうな程のため息を吐いた。
その理由は、一般生徒からしたらむしろスキップでヒャッホウするかもしれないが、千優からしたら、そして彼の家族からしてみればとんでもない悲報なのだ。
その悲報を彼の家族に報告することを考えると、胃がキリキリと痛みだすのを千優は感じた。
言い訳を考えるが全く思いつかずに帰宅した千優は、だれにも帰宅がバレないよう、音を立てずにドアを開いた。
しかし、千優の願いを運命が爆笑で邪魔しているかのように、「おかえり」と、千優としては死神の足音にしか聞こえない声が聞こえた。
おかえりと言った見た目30代前半の女性の名前は霞明優。
肩までのばした黒髪に黒い切れ目は、雪女が如くといった雰囲気である。
そして、名字から分かるように千優の母親だ。どうやら、玄関で千優を待っていたようである。
「た、ただいま……」
千優は、死刑を言い渡された罪人のように血の引いた顔で喉から絞り出すように言った。
そして、明優は右手を出し死刑執行の言葉をはなった。
「で、テストはどうだった?」
千優は少しためらった後、意を決してテストを明優に見せた。
「へぇ、合計で四九十点ねぇ。それで、何位だったの?まさか、一位じゃなかったなんて言わないわよね?
「……あ、あの……に、二位です……」
バン!という音が玄関に響いた。
それは、明優がテストを床に叩きつけた音である。
「……言い訳は後で聞くわ。それよりも、あなた前回も二位だったわよね?あなたは両親を失望させることが趣味なのかしら?」
明優は元々鋭い目をさらに鋭くさせ、辛辣な言葉を次々と繰り出す。
「千優、あなたは一体何時になったら自分が一家の面汚しだと言うことを理解してくれるのかしら?勉強もだめ。運動もだめ。人付き合いもろくにできない。何が出来るのか教えて欲しいわ」
明優の言葉に「はい」としか答えない千優。
否定や反論をしても、無駄だということを知っているからである。
千優がここまで責められるのには、理由がふたつある。
一つ目は、千優の父は日本人の九割は知っている大企業の社長だからである。
だが、それだけならお金持ちの家というだけで、むしろ良かったかもしれない。
しかし、もう一つ理由がある。それは、千優の両親が超が付くほどの完璧主義だからである。
そんな両親は、千優が学年一位でないことが許せないのだ。
実際、両親はどちらも有名な大学を首席で卒業している。
それが、千優が現在ここまで叱られている理由である。
将来、大企業を背負うプレッシャー。そして一位になれないことへの両親の圧力が、千優のSAN値をガリガリ削っているのだ。
明優は、説教し終わった後に「お父さんが帰宅するまで、自分の部屋にいなさい」と言い、夕食の準備をしにキッチンへ向かった。
とりあえず母から逃れた千優は、自分の部屋でベッドに転がり、父から言われるであろう罵倒を想像し、さらに気分が落ち込んだ。
千優の部屋は一般よりも少し広く参考書が山積みになっていること以外は、整理整頓された部屋であるが、布団をかぶると、部屋がとても狭く感じられた。
やがて何十分、もしかしたら一時間以上冬眠したクマのようにしていると、部屋の外から千優を呼ぶ声がした。
男の声である。心臓が破裂すると錯覚するほど、緊張するのを千優は感じた。
ドアを開くと、千優の前に、百八十センチを超える男が現れた。
霞貴志郎、千優の父親である。オールバックにした黒髪に、威圧感のある黒目は、四十歳と思えないほど若く見えた。
千優が控えめに言った。
「お、お帰りなさい……」
その時、パン!という音が響いた。千優の頬を貴志郎が叩いた音である。
そして、貴志郎が突き放すように言った。
「霞家に失敗作はいらん!今日は倉庫で反省しろ!」
そういった後、貴志郎は千優の胸ぐらを掴み、家の外にある倉庫まで引きずっていき、強引に放り投げた。
そして鍵をかけて千優を倉庫に閉じ込めた。
乱暴に投げられたため腰を強く打ってしまった千優は、腰をさすりながら倉庫を見回した。
倉庫の中はかび臭く、ほこりが舞っており、今は冬であることもあって、冷蔵庫並みの寒さだった。
千優は体育座りで寒さを凌ごうとするが、全く凌げていない。
もしかしたらここで凍死するのかなぁ、と半ばなげやりになっていると、急に地震が起こった。倉庫にある物がガタガタと揺れる。
地雷?ちょっと危ないんじゃ?と思っていると、揺れがさらに激しくなった。
その時、地面に亀裂が入り、そこから光が漏れ出る。
「え、え!」
千優は混乱した頭で必死に倉庫の扉を開けようとするが、がっちりと鍵がかかっているようで、びくともしない。
さらに亀裂が広がり、そこから出る光の量も増す。
「ちょっ!これあぶなっ!」
そして、地面からぼこぼこと穴が出現する。
倉庫の中が光に満たされた時、浮遊感が千優を襲う。穴に落ちてしまったのだ。
「だ、誰か助けて!」
必死に叫んで何かに掴まろうとするが抵抗もむなしく、穴に吸い込まれてしまった。
そして、冒頭に話がつながるのである。
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