24K Magic
「さて、答え合わせを始めよう。俺の可愛いフィガロ」
「その前に、そのキザったらしい格好やめたら?いつものたくましい悪魔のベルちゃんと話がしたい」
「おお!まだ俺をベルちゃんと呼んでくれるか!!」
ベルちゃんはそう言うと、大きく息を吸い込み始めた。辺りの空気がチリチリと音を立てて鳴り出す。ベルちゃんは口の中がパンパンになったところで息を止める。次第にベルちゃんの顔が膨れて真っ赤になっていき、額に懐かしの大きな二本の角があらわれた。身体中の毛が針金の様になり始め全身を覆う。シャープだった身体つきはどこへやら、ダルダルにたるんだ真っ赤な肌があらわれる。気がつくとそこには、立派な姿の『地獄のシェフ』こと悪魔ベリアルが立っていた。
「さあフィガロ。宿題の答え合わせの時間だ。どうしてオールバック野郎の正体が俺だと解った?」
ベルちゃんは火の息を吐きながら興奮気味に言う。
「さっきも言ったけど解ってたワケじゃないんだよ。ただもしかしてと思ってたけど確信がなかった。消去法で条件に当てはまる奴を探してたら、ベルちゃんか親父しか見当たらなかった」
「じゃあそのお前が拾ったパズルのピースを聞こうじゃないか」
ベルちゃんはトロンとした目でヨダレを垂らしている。
「まずはfmだな」
「フェムじゃねえ!エフエムだ!」
ベルちゃんはいきなり激昂した。
「そう。それ。その呼び方」
「あん?」
「地獄の連中もアマル叔父さんや従兄弟たちも例のヤクをフェムって呼んでた。だがベルちゃんと和久井の坊やだけがエフエムって呼んでる。それが最初」
「続けろフィガロ」
ベルちゃんはバカでかい葉巻を咥えて煙を吐き出す。
「どっちが正式な呼び名か分からなかったけど和久井が売人と話してる時にエフエムと呼んでた。どうしてベルちゃんはその呼び名で呼んでるのかなってほんの一瞬疑った。偶然にしちゃ出来過ぎてる」
「いいぞさすがだ」
「エフエムのぶっ飛び方もヒントになった。コイツはあたしが昔作った林檎の試作品に酷似してた。その試作品の存在を知ってるのは、親父とベルちゃんとお袋だけだ」
「そうだったそうだった!」
ベルちゃんは膝をぱしぱし叩きながら喜んでいる。
「お袋で思い出したけど、アイツが変な病気みたくなってんのもアレ。ベルちゃんの仕業だろ?」
「ほお。なぜそう思う?」
「薬と魔術の両方面で治療してるってアマル叔父さんから聞いた時にさ。アレ?あたし聞いてねえなと思ってね。ベルちゃん何でもあたしに言うのになんで黙ってたんだろうと。おかしいと思ってね。そんな大事なこと。しかもベルちゃんお袋のこと嫌いなのに。アマル叔父さんは地上にいるから何してるか知らなかったんだろうね」
「ははは。そうだよ。あのアバズレ。兄貴のオンナに相応しくねえ。兄貴に早く愛想尽かしてもらいたくてよお。実際。お前も嫌いだったろう?」
「そうだね」
だけどそんなクソ胸糞悪いやり方で貶めろなんて誰も頼んでねえ。
「正体不明の悪魔ってのも引っかかった。つい最近まで地獄にいたあたしと、ずっと地上にいるアマル叔父さん達も知らない悪魔。そんなの旧大戦争以前の奴くらいしかいない。そうなると、もはや親父とベルちゃん以外に思い当たらなかった。後の連中はみんなソロモンの柱になってるからね」
「よく勉強してるな。偉いぞフィガロ」
「だけど色々なことが不明確だった。ほんのついさっきまで。だから一か八か。能力を使った。あたしのStaundをね」
「そして俺がついうっかり反応しちまったワケだ。いやあ。一本とられた!」
台詞とは裏腹にベルちゃんはとても嬉しそうだ。何がそんなに楽しいのか。あたしには全く理解できない。
「なあ。幾つか聞きたいことがあるんだけど良いかな」
「なんだよ。遠慮するな。なんでも聞いてくれよ可愛い姪っ子よ!」
ベルちゃんは活き活きしてる。あんな顔、地獄でも見たことない。
「まずひとつ。なぜこんなことを?」
根本的なことだ。回りくどい。みんなを謀って。くだらない。
「そうだな。理由は色々あるがな。一番の理由は、戦争を起こすことだった」
「!?」
「そんなに驚くなよ。戦争だぞ?もういいだろ?悪魔はずっと我慢した。あんなクソみてえに偉そうな天使どもと仲良くお喋りなんてしてらんねえ。悪魔の権威取り戻す。世界は悪魔の物だ」
「ほーん」
なんだろう。違和感がある。
「じゃあもう一つ」
「なんでもどうぞ」
ベルちゃんはうやうやしくお辞儀してみせる。
「マシロ。分かるよね。アマル叔父さんの末娘だ。アイツにエフエムを渡した時、何も思わなかったのか?」
「あん?どういう意味だ?」
「叔父さんがヤクのエキスパートだとしても、マシロが死ぬかもしれない可能性はあった。そんな危険性を侵してまでマシロにエフエムを使わせる必要はあったか?」
「ふむ」
ベルちゃんはあごひげをクリクリと触りつつ何かを考えていた。これは予期せぬ質問だったようだ。
「うーむ。別に考えてなかったなあ」
「あ?」
だが返ってきた答えも予期せぬものだった。
「だって、アマルの蛇野郎だろ?あのヘタレ。別にアイツの娘がどうなろうと俺の知ったことじゃねえよ」
まるで悪びれる様子もなくベルちゃんはそう言った。
「だいたい、アイツはあのアバズレリリスの弟だろ?兄貴や俺、お前の様に高貴な血は入ってねえのさ。所詮は下衆な悪魔だよ。どうなろうと物事がスムーズに進めばそれでいい」
「じゃあ。別にマシロじゃなくても誰でも良かったわけ?」
なるべく聞きたくない質問だが聞かなきゃならない。
「ああ。そうだよ。だが勘違いするな?俺は別にあの娘がヤク中になるよう仕向けたワケじゃねえ。あのビッチが勝手にやったのさ。笑えんだろ!ゲヘヘヘ!」
ベルちゃんの笑い声がこんなに癇に障って聞こえるのは初めてだった。どうしてだろう。マシロのことだって別に好きじゃない。むしろベルちゃんの方が好きだった。
だけど、あんなボロボロにされたマシロとそれに怒っていたアマル叔父さん。それに対して今、目の前で高笑いをしてるデブ。どっちに同情してどっちに憤るべきか。あたしの心臓はどうしたって素直だ。
「そっか。それだけ聞ければ十分だ」
あたしは穴だらけの身体に最後の力を込めて奮い立つ。
「おいおい。無茶すんな。銀の傷は痛えだろ?」
ベルちゃんは相変わらずニヤニヤしてる。
「ああ痛いよ。だけどやらなきゃいけないことがあるんでね」
あたしの言葉を、ベルちゃんは実に興味深そうに聞いている。
「ほう。なんだいそりゃ」
あたしは目の前で踏ん反り返るクソデブに、天を衝くほど中指を立てて見せつけてやった。
「気に食わないクソ野郎を叩きのめすってことだ」
続く




