Don't know why
「こんなのってないよ。あんまりだ」
タケルは頭を抱えてうな垂れている。愛しの天使サマの股間に自分と同じ、もしくは自分のより立派なナニがついていたのがよほどショックだったと見える。
「いやでもねえタケルさま。そんな事で落ち込んでるのは実際マヌケですよ」
あたしはイラつきを隠せない。
「なんだと?貴様、もしかして知っていたのか!?ガブリエルちゃんがシーメールだってことを!?」
「違いますよバカ。ガブリエルはニューハーフちゃんじゃありません。そもそも性別がないんですよ」
「え!?」
元宗教家とは思えない無知さだ。タケルは驚きを隠さない。
「天使は両性具有なんです。豊満バディかつ、ビッグエレファントを兼ね備えているんですよ」
「なんと‥」
アレの時にはどっちだって楽しめる。いわゆる、一挙両得というヤツだ。あたしが唯一天使を羨ましく思う所だね。
「今どき人間だって性別に縛られて生きてる奴なんざナンセンスじゃないですか。古い考えは捨てて、ガブリエルちゃんと新世界の扉を開いてみたらどうです?」
あたしとしてはなるたけタケルに時間を稼いで欲しい。まだまだ足りない。
「しかしなあ、お前。俺だって童貞じゃないにしろ後ろはまだ処女なんだ。そうそう思い切れないぞ」
真剣に悩んでる顔してるけど、随分とくだらない悩みにしか思えない。恋に種族の壁は無いんじゃないのかよ。
「良いですかぁご主人様ぁ。アレはね。神が自らに似せて創ったモノなんですよ。言ってしまえば天使ってのは神に一番近い存在なんです」
「う、うんまあ」
「順序でいったら天使、悪魔、人間の順に神が創り出した。癪だけど天使ってのは『完璧な試作品』なんです。ちなみに人間は『不完全で完成品』と言われてます」
「じゃあ悪魔は?」
「『不完全な試作品』ですかね」
あたしは案外この呼び方が気に入っている。だからあたしら悪魔は性別があるのに繁殖できないし、感情はあるのに心がない。存在自体がジレンマでできている。
「タケル様は神にお近づきになりたいんでしょう?前に言ってたじゃないですか。それならまず、神に一番近いとされる天使と一発ヤッたって損は無いんじゃないですかい?」
「そ、それはそうかもしれないが‥」
実際そんな事はない。神と仲良くなりたいから天使と寝るだなんて発想はまずまず糞野郎の考えだ。ちょっと考えば解るのに、騙される奴というのはこの「ちょっと」をいつも考えない。
「良いじゃないですか。おちん◯んがあるくらいで何です?オッパイがあるんですから、十分楽しめるでしょう」
「う、ううん。ま、まあねえ。‥ん?ちょっと待て?神が自分に似せて天使を創ったって事は、神にもオッパイとおちん◯ん両方があるって事か!?」
「さて、神を脱がせてみない事には」
あたしもつい、こんな馬鹿な話に合わせて盛り上がってしまった。すぐ上で、お待ちのお客様がいる事をすっかり忘れてしまっていたのだ。
突然、辺りに轟音が鳴り響きタケル達のいた二階の部屋の扉がブチ壊された。
「ねえ!!ダーリーンッ!!まだ待たせるの!?その薄汚い下僕といつまで戯れているつもり?」
それは中世の宗教画家達が見たら一瞬で画材道具を投げ捨て酒浸りにさせてしまうほどに、酷い大天使ガブリエルの姿だった。
正確には醜いというのはその身に纏う雰囲気の事で、身体の造形美という面に関して正に芸術品だった。しかし顔がヤバい。地獄でだってあんな醜い顔した奴は見た事ない。マルスを決めたタケル(整形前)だってもう少しマトモな顔してた。
なんというか、臭そうだ。
「べ、ベイビー落ち着けよ。コイツが急に呼び出すもんだからさ。何かと思って駆けつけたんだ」
無能な上司って奴は自分に不味い事があると光の速さで部下のせいにする。経験あるだろ?
「もう用事はすんだの?」
「もちろんさ。おい!もうくだらん事で呼ぶんじゃないぞ!」
そして部下はそのアドリブに光の速さで合わせないといけない。経験あるだろ?
「申し訳ありませんでしたご主人様。以後気をつけまーす」
「はんっ。妬いてんじゃないのー?悪魔ちゃん」
三大天使が聞いて呆れるくらいのアバズレ発言だ。クソが。しかし今はまだ耐えなきゃ。もう少し時間を稼がないとダメだ。
あたしは優しく微笑みを返してその場をやり過ごした。
「すぐ行くから。ベッドで待っててねベイビー」
「解ったよん。もう爆発寸前だから♡なる早で♡」
タケルの笑顔が物凄く引き攣っているのにガブリエルはまるで気が付いていない。天使というのは良くも悪くも、兎にかく純粋なのだ。
「おい。どーするんだメフィスト。このままだと本当に俺の男としての尊厳が失われかねんぞ!」
「シリませんよそんな事。というか、尊厳なんて小洒落たもの持ち合わせてたんですか?シリませんでしたよ」
「なんだお前。やけにシリにアクセントを付けるじゃないか」
「そうですか?まあ良いじゃないですか。そんな事より早くケツだんして下さい。ケツ論から言うと、もう差し出すか逃げるかの二つに一つなんですから」
「おい。お前やっぱりフザケてるだろ?他人事だと思って」
「いやあなんて言うか、自業自得じゃないですか?天使とニャンニャンしたいって言ったのはタケル様ですからね。あたくしはそれに従っただけです。今更どうするもこうするも無いですよ」
「お前という奴は!」
「どうしたいお二人さん。仲間割れかい?仲良くしなきゃなあ。まあコレでも飲んで落ち着けよ」
何処からか戻ってきた悪魔のマスターが見兼ねて酒を出してきた。奢りとは言え状況が状況だけに酒を楽しんでる余裕は無い。
「あれ?どうしたんです旦那?天使とヨロシクやってたんじゃ?」
マスターはマスターの癖に割と空気が読めない。
「ウルサイ。今それで揉めてるんだ」
タケルは最早悪魔に抵抗が無くなりつつある。ある意味凄い。
「良いかメフィスト。選択肢なんてないんだ。俺は普通に女の子とニャンニャンしたいんだ。新しい扉を叩く必要はない」
「じゃあガブリエルはどうするんですか?」
「仕方ないだろ。諦めてもらうしか」
すると空気の読めないマスターが割って入る。
「いやあ、そいつはいけねえよ旦那。その気にさせそといてトンズラとは、相手が天使でも良くねえ。アンタ、塵になるだけじゃ済まないぜ」
「マスターの言う通りですよ。ああ言うクソ真面目な手合いだと殊更です。裏切られたと解った瞬間、何をしでかすか解らない」
「じゃあどうするんだ」
「まあ‥やっぱり逃げるしかないですねえ」
自分で言っておいてなんだが、この案には賛成できなかった。あの立派な翼から逃げ切れるとは到底思えない。オマケに相手は天使だ。相当しつこい。
「だったら早く逃げよう。善は急げだ」
「待って下さい。そうは言っても何かアシがなきゃすぐ捕まります。何かないか‥」
あたしは絶望的に辺りを見回してみたのだが、これと言って発見があるはずもない。タケルがケツを差し出さない以上、あたしらは3回生まれ変わっても塵にされちまう。何か。何かないか。そう思って頭を抱えていた。
「姉さんも落ち着けよ。そんなに悩んでも仕方ないぜ。一杯やって落ち着けよ」
マスターが煩わしい事この上なかったのだが、好意というのを無下には出来ないのでひとまず酒を煽る。
グラスに映ったマスターの顔を見ていたら、ふと案が浮かんだ。
「よおマスター。アンタ見たところ身体は丈夫そうだな」
「おうよ。これでも地獄にいた時分は、陸上大会で南の代表になった事もあるんだぜ。この脚が自慢よ」
マスターは突然ふてぶてしい態度になる。良いね。筋肉バカだなコイツ。
「へえ。そいつは凄えや。時にマスター。アンタまだ、ウチのご主人様の腹ン中に興味があるのかい?」
あたしは探るように相手の顔を見る。
「ええ!?なんだよ姉さん藪から棒に。まあ‥そりゃあねえ。悪魔としちゃあ、変わった人間のハラワタがどうなってるか、どんな味かは知りてえよなあ」
「そうかいそうかい。事と次第によっちゃ、ご主人様がアンタの欲望の相談に乗ってくれるかも知れないぜ?」
「よせやい。担ぐのは無しだ。本当か姉さん?」
低脳な悪魔ってのはカモになり易い。まあ、悪魔全体が利口じゃないのは確かだけど。
「ねえタケル様。マスターがあたくし達が逃げる手助けをしてくれるそうですよ」
あたしは芝居掛かった調子でタケルに話しかける。
「なに!?本当か!?」
「ええ。ですけど条件が」
「なんだ。金ならないぞ」
「違いますよ。マスターはね、タケル様の腹の内が見たいと言ってるんです」
「なに?どういう事だ?」
ここでタケルが怪訝な顔をしたので、あたしはすかさず耳打ちをする。
「タケル様の豪気な男っぷりに感動したんですよぉ。つまり腹を割って酒でも飲みたいと言ってるんです」
「なぁんだそんな事か、マスター!お安い御用だ!」
「へええ!すげえや!ありがてえ!」
内容の解らないバカ共はすっかり盛り上がっている。バカと一緒だと苦労も多いが、同じくらい扱い易くもある。
「で?どうやって俺は姉さん達の助けになりゃ良いんだ?」
「そうそう。メフィスト、一体どうするんだ?」
バカは何にも考えない。気楽で良いね。あたしもバカになりたい。
「まあ、黙って言う事に従って下さいよ」
あたしはニヤリと笑ってみせた。
砂塵が舞って顔にかかってくる。風で頬が切れそうになるくらい物凄い勢いで走っている。
「メフィストォォォォ!もっと良い方法は無かったのかあああ!」
後ろであたしにしがみ付きながらタケルが大声で怒鳴っている。
「えー?なんですかー?」
「こんな方法以外にぃぃぃ!何かナカッタノカァァ!」
聞こえているがあえて無視をしている。正直あたしもそれどころじゃない。
あたし達は今、バカでかいダチョウの背中に乗って半魔半聖の地を疾走していた。あたしはダチョウの首にしがみ付き、そのあたしにタケルがしがみ付く。ダチョウは必死で走っている。
「姉さん!本当にこれで良いのかよ!こんなんで逃げ切れるのかよぉ!」
ダチョウが偉そうに意見する。先ほどまで、あの小便臭かった酒場のマスターだったダチョウが。
「良いからアンタは黙って走れ。脇目も振らず兎に角走れ。じゃなきゃアンタ、もう一度同じ奴に殺されるハメになるよ?」
あたしはマスターに脅しをかけていたが、内心は自分もかなりビビっていた。
その時何処かで、例の天使がプッツンする音が聞こえた気がした。
続く




