うずく右目
真夜中。草木も眠る丑三つ時。街灯も、家の光もない真っ暗な住宅街。その一角。
誰も来ないような、家と家の間。そこには少年がいた。苦しそうにうずくまり右目を押さえている、少年が。
「くっ…!右目が…右目がーーー!!」
少年は右目を押さえる。
必死に。それはもう目をえぐりそうなほど強く、必死になって押さえる。
やがて、まぶたから赤黒い液体が滴り、床に落ちる。
少年の血だ。爪を立てて押さえていたのだろう。
その血が小さな水たまりを作っている。
それだけ血が出ていても少年はまだ押さえるのをやめない。そればかりか、少年はもっと強く右目を押さえる。
「あぁ……!!かゆい…!かゆいぞ……!!右目が…!右目がかゆいーーーー!!!」
叫ぶのと同時に少年が右目をかきむしり始める。これも、目から血が出るほど。
「くそ…!かゆい…!痛い…!痛い!でも…!止まらない!止められない!!」
右目は真っ赤に充血し、血が滴って、とても痛々しい。
だが、少年はかくのをやめない。
ただひたすらに。必死に。かきむしる。
かゆい、かゆいと呻きながら。
痛い、痛いと叫びながら。
だが、数分後。少年は目をかくのをやめ、まるで何かを求めるように天へ手を伸ばす。
まるで神に救いを求めるように。血に濡れた手をかざす。だが、その手はとても弱々しく、吹けば飛んでしまいそうだ。
だが、それでも伸ばす。
それと同時に少年の口が動く。
最初は口が動くだけで。だが、少しずつ声が出てくる。
「……れか、…ぐ……すりを…」
少年に残された力は少ない。
それでもあきらめずに叫ぶ。
最後の力を振り絞り叫ぶ。
「誰か……!誰かーー!!目薬を…!!俺に目薬を………」
だがその叫びも途中で途切れ、少年の伸ばした腕は力なく地面に落ちる。
そのまま、少年は動かなくなった。
これは、花粉症で命を落としてしまった悲しき少年の物語。






