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第7節 ダンテ


「……一体、どういうことなんでしょうか」

 時刻はすでに十二時を過ぎている。二限目の授業が終わり、学生たちが廊下にあふれ出してきた。エステルたちは、まだベンチに座ったままだ。

「『賢者になるにはどうすればいいか』なんて……」

 クレアが眉をしかめる。

 答えは簡単だ。『力の承継』しかない。

「ロック先生は、お父さんを殺してないんだよね。これって、『力の承継』をしてないってことなのかな」

 エステルが呟く。

「おそらく、そういう趣旨でしょうね……しかし、ここ数百年『力の承継』以外で賢者が発生した例を私は知りません……」

 ケーラーも難しい顔をしている。


「おい!」

「あ、ダンテさん」

 エステルがダンテの姿を廊下に認める。ダンテは、大股でスタスタ歩いてくると、三人の目の前で止まった。

「これ」

 ダンテが一冊のノートをエステルの前に突き出す。

「え?」

「いるだろ。さっきの授業のヤツ。……アンタらも」

 ダンテがケーラーとクレアにも一度ずつ目を合わせてくる。


「「えぇ~~~~!?」」


 エステルとクレアが絶叫した。

「何だよッ! いらねぇっつうんなら、別にいいんだぞ!」

「いります! いります!」

 エステルがダンテからノートをひったくった。

「「ありがとうございま~す」」

 エステルとクレアが声を揃えてお礼を言う。

 ケーラーもダンテに向かって優しく微笑み、礼を言った。

 ダンテは仏頂面を変化させなかったが、傍目にも照れているのがバレバレだった。

「……じゃあな、それ、次の時空法の時にでも返してくれればいいから」

 そう言って、背を向けようとする。

「あ! ちょっと待って!」

 エステルが引き止める。

「あ? 何だよ」

「『力の承継』のこと、教えてくれてありがとう。それに、心配してくれてたんだよね? それもありがとう」

 エステルはニコッと笑った。

 ダンテは少し困ったような顔をする。

「別に……心配なんてしてねぇけど。俺は賢者が嫌いなんだよ。賢者に依存してるこの社会も。人殺し肯定してまで、縋りつく価値のある存在だとは思ってない。だから、何にも知らねぇ実の孫にそんなもん押しつけてるバークリーの野郎に腹が立っただけだ」

「そのことなんだけど……何かね、『力の承継』に頼らないで賢者になれる方法があるらしいの」

「ハァ!?」

 エステルは、ロックとのやり取りをダンテに明かした。


「何だよそれ……て言うか、アイツ何者なんだよ……」

 ダンテが絶句する。

「大体、何でバークリー校長の『力の承継』の場面なんて知ってんだよ。あれはそもそも、弟子の調査官しか立ち会わないことになってんだぞ」

「そうなの? 詳しいんだね」

「お前が無知すぎるんだろうが。まぁ、これでアイツが校長と深い関わりがあるらしいってことは分かったな」

「知り合いだったのかな……」

「そりゃ、お前、校長に直接聞けば分かるだろうが。それに、それ以上に聞かなきゃいけないこともあるんじゃねぇのか」

「そんな勇気ないよ……」

 エステルが俯く。

「まぁ……そもそも、校長は今、学園におられないようですしね」

 ケーラーが言った。

「え!? おじいちゃん今、いないの!?」

「はい、そのようです。昨日、調査官の方に聞きました。何でも数日前、いきなり急用ができたと言い出して、数名の調査官と共に出かけたそうです」

「もしかして、テレサ先生も!?」

「いえ、テレサ先生は別件だそうです。任務の内容は教えていただけませんでしたが……」

「何か……色々、不自然なことが重なり過ぎだな」

 ダンテが眉をひそめる。

「ロック先生に聞けば分かるかなぁ……」

「グルだろ。正直に言うとは思えねぇ」

「グルって……別に悪いことしてる訳じゃないと思うんだけど」

「それも分かんねぇな。つーかお前、もっと周りに警戒心、持った方がいいんじゃねぇの?」

「へ?」

「へ? じゃねぇだろ。言っとくけどなぁ、賢者の力欲しがってるヤツなんて五万といるんだぞ。そんで今、一番有力な後継者候補がお前だ。お前が死ねば喜ぶヤツがが五万といるってことなんだぞ」

「そんな……!」

 エステルが泣きそうな顔をする。

「いい機会だから、教えといてやるよ。お前の命守るために、何人もの魔法律家が学生として、ここに紛れ込んでんだよ。……ケーラー、てめぇもそうだろう」

「「――!?」」

 エステルとクレアが、バッとケーラーの方を向く。

「……余計なこと、言ってくれますねぇ」

 ケーラーの目がいつもよりも赤くギラギラと光っている。

「俺からすりゃ、何で教えねぇのかって話だよ。警護が多いのに越したことはねぇんだろうけどよ、危機感持ってんのと持ってねぇのとじゃあ雲泥の差だろ」

「…………」

「ま、そもそも俺には、自分の家族を命狙われるような境遇に置くヤツの気が知れねぇけどな」

 ダンテは吐き捨てるように言うと、エステルの方に向き直り、真っ直ぐ目を見て言った。


「自分で決めろよ」


 ダンテの言葉は、今日聞いたどんなセリフよりも、エステルの心に強く残った。




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