表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/40

第1節 答え

「へぇ……そんなこと起こってたんだ……」

 ユーリが、エステルの隣の席で感心したように呟く。

 その隣の席には、ダンテも座っている。

「で、今日の四限が、自習になっちゃったって訳だ?」

 時空法の教室はいつもと変わらず少人数だった。変わっていたのは、教師が教壇にいないことと、黒板にデカデカと書かれた『自習』の文字だけだった。

「自習にするくらいなら、休講にして頂きたかったものですな」

 三人の会話を勝手に聞いていたカーライルが、偉そうに口を出す。しかし、話を聞いていたのはカーライルだけではなかった。残りの二人の受講生も、会話に参加しようとはしないものの、内容が気にならないほど鈍感ではなかった。

「自主休講すれば? あんたが何回休んだところで、学力が変化することもないでしょ?」

「――!? 君! 前から言ってやろうと思っていたが、私は年上だぞ! 口の利き方には注意したまえ!」

「前から言ってたけど?」

 ユーリとカーライルが、懲りもせずに言い争いを始めた。


  ガラガラガラッ――


 教壇側の扉が勢いよく開く。

「エステルさん! ダンテさん! ロック先生が目を覚ましましたよ!」

「「えっ!?」」

 エステルとダンテはバッと席を立つと、ケーラーと合流して、エステルの実家へと急いだ。

「ロック! 目、覚めたの!? 大丈夫!?」

 今はロックの寝室となっている祖父の部屋に入ると、ベッドの上には上半身だけ体を起こしたロックの姿があった。

「あぁ、大丈夫だ、心配かけたみたいだな」

 ロックはエステルの方を向き、ニコッと笑顔を見せた。


 あの後、魔力を使い果たしてぶっ倒れたロックは、ケーラーの背に乗せられたままアガット村までたどり着いた。テレサ先生たちだけでなく、村中の住民が腰を抜かしたのは言うまでもない。

 その後、全員で村に一泊した後、馬車で学園まで戻った。負傷した調査隊員の怪我の程度も、思ったよりひどくはなく、全治一週間ということだった。目が覚めた彼は、エステルとダンテを命の恩人だと言い、深く頭を下げた。

 しかし、ロックだけは死んだように動かず、みんなを大変心配させた。ケーラーは大丈夫だと言い張っていたが、エステルはずっと付きっきりで、ロックを看病していた。さすがに見かねたケーラーが、夜の看病を変わり、更に授業に出ることを勧めた。最初は渋ったエステルだったが、その方がロックも喜ぶと言われ、今日は一限からしっかり授業を受けたのだった。


「うわぁん! ロック~~! ごめんねぇ、私たちが一分も遅れちゃったからだよね!」

 エステルが飛びつくと、ロックはそのまま後ろ向きに勢いよく倒れた。

「うおっ! 危ないだろう、頭打つとこだったぞ! それに一分じゃなくて、一分一秒だ!」

 ロックがエステルを引き剥がす。

「細かいよ! もう、でもほんとによかったよ……このまま目を覚まさなかったら、どうしようかと思ったよ」

「魔力を使い果たしただけだ。寝ていれば回復する。『精霊病』でもあるまいし……」

「精霊病……」

 エステルが呟いた。

「それって、ロックのお父さんがかかった病気なんだよね? それに……私の曾おじいちゃんも……」

「……そうだ」

「ロック……私、全部知りたい……! ロックのことも、おじいちゃんのことも……私がこれから何をすべきかっていうことも! 教えてくれるよね!?」

 エステルはロックに詰め寄る。


「あぁ、だがその前に……『宿題』の答えを聞かせてもらおうか」


 そう、今日は月の最終日――すなわち、ロックの『宿題』の締切の日だった。

「一応……考えたんだ。でも、あってるかどうか分からなくて。それにできるかどうかも……」

 エステルは、昨日一日中ロックを看病しながら『宿題』の『答え』を考えていた。閃いたのは『賢者の法』を読み出してすぐだった。とてもシンプルな『答え』だった。ロックが「基本は条文」と言っていたとおりだった。しかし、簡単すぎて逆に拍子抜けしてしまいそうなものでもあった。

「言ってみろ」

 ロックが促す。エステルは、六法を取り出すと、最初の方のページをめくって条文を声に出す。

「『賢者とは、大精霊にその力を認められた者である(賢者の法一条)』。そして『時空の賢者の力は、ブラックホール、タイム、ストップの三つである(賢者の法十一条)』。したがって、この三つの力を得、大精霊に力を認めさせることができれば、賢者になることができる。……違う?」

 エステルが心配そうにロックの顔を伺う。

 ロックは、そんなエステルの顔を見つめ返し、フッと優しく微笑んだ。

「正解だ」

「――!? やったぁ!」

 エステルは飛び上がって喜んだ。『答え』が合っていて、これだけ嬉しかったのは初めてだった。

「おい、だとしたら気になる点があるんだが……」

 エステルとロックのやり取りを大人しく見守っていたダンテが、初めて言葉を発した。

「ん、何だ?」

「今までよ、賢者の力の修得方法なんて、どの本にも書いてなかったはずだ……お前はどうやって、その力を修得したんだよ?」

「あぁ、そうだな……その辺も含めて、これから俺の話をしようか」


 ロックはそう言うと、少し目を伏せて話を始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ