第7節 炎
「……そんなに見られていると、食べ辛いんだが」
ロックがポトフを食べている間、すでに夕食を済ませた三人は質問の機会を伺って、ずっと彼を見つめていた。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「ポトフ好きなの?」
「あぁ」
「お前、もっと聞くことあるだろう……」
「俺からも聞かせてほしいな。人に隠れてコソコソと……何を嗅ぎ回ってたんだ」
ロックがイラッとした表情を見せる。
「ロックがおじいさんのはずなのに、若作りしてるから、ケーラーさんが不審に思ったんだよ」
「なるほどな。じゃあ、反対に質問させてもらおうか。ケーラー、お前はどうして俺の年齢を知っていた?」
ケーラーがロックをじっと見つめる。しかし、以前のように目をギラつかせることはなかった。代わりに、少し困ったような笑顔を見せる。
「あなたに……会ったことがあるからですよ。思い出せませんか?」
「――?」
「昔……まだ小さかったあなたを背負ったことがあります。とても感動して頂いたのを覚えています。夜のパンデクテンの街は、本当にキレイでしたね?」
「………………あ」
ロックは手に持っていたフォークをジャガイモごと床に落とした。しかしその顔は無表情のままだ。
「ロック、どうしたの? ケーラーさんと知り合いだったの?」
フォークを拾い上げながら、エステルが問う。
「そうみたいだ」
「何よそれ~! 二人とも、今まで忘れてたってことですか?」
「私が気付かなかったのは仕方がないとして、セシルには気付いてもらいたかったものですね」
「いやいや! 逆だろう!」
「でも取りあえず、二人が仲直りできてよかったよ! で、ロックはどうして、そんな見た目なの?」
「……それを言うと『宿題』の『答え』になってしまう」
「「「え……?」」」
「ちょっと! みんな、大変だよ! 二階に来ておくれ!」
突然、緊迫した声が四人の耳をつんざく。声のした方を振り向くと、アンナが階段から真っ青な顔をのぞかせていた。
「アンナ! どうした!?」
四人は一斉にアンナの元へと向かう。
「塔が! 『時空の塔』が、燃えてるんだよ!」
「「「「えっ!?」」」」
二階からは、村から五キロほど離れた場所にある『時空の塔』がよく見えた。炎はまるで意思を持つヘビのように塔に絡み付き、真っ赤に燃え上がっていた。
「どういうことだ!? テレサ先生たちに何かあったのか!?」
ロックが窓から身を乗り出す。
「ロック! テレサ先生たちは、塔にいるの!?」
「あぁ……もう二、三日は塔で調査を続けているはずなんだが……一体、何があったんだ? とにかく、今から塔に向かう!」
「私も行きます」
「俺も行く」
ケーラーとダンテが同行を表明する。
「ああ、頼む」
「私も!」
エステルも二人に続く。しかし――
「お前はダメだ!」
「何でよ!」
「危険だからだ! 頼むから、今は我が儘言わないでくれ!」
「私だって、魔法律使えるよ! 絶対、役に立ってみせる! それに、テレサ先生、いるんでしょ!? じっと待ってなんていられないよ!」
「外を甘く見るな! 死ぬかもしれないんだぞ!?」
「分かってるよ! それでも行きたいの! 役に立ちたいの!」
エステルの目は真剣だった。
ダメだと言われても付いて行く――そんな意志が伝わってくるようだった。
「……なぁ、連れて行ってやってもいいんじゃねぇか?」
「――!?」
思わぬ加勢に、エステルが驚いてダンテを見やる。
「こいつは一度、死ぬかもしれない位の目に遭わせてやっといた方がいいぜ? 今後の教育のためにも」
「私からもお願いします。彼女の命は、私が責任を持って守ります」
ケーラーもエステルの同行に賛成した。
「は!? 正気かお前ら!?」
ロックは、ダンテとケーラーの賛成の意図を計りかねた。しかし、グズグズしている訳にも行かない。
「……そこまで言うなら、こいつも連れて行く。ただし、絶対に死なせるなよ」
「当たり前だ」
「言われるまでもありませんよ」
四人は階段を駆け降りると、さっきまでいた食堂を突っ切って扉まで走っていった。




