第7節 ウィリアムズの時計店
「わぁ~~~! おいしそう!」
エステルが、キャンディショップのショーウィンドーに張り付き、瞳をキラキラさせる。
「…………」
「ロック! 見て見て! すっごくおいしそう! 前にクレアと来たときよりも種類、増えてるよ~!」
「…………」
「――? ロック、どうしたの?」
「あ、いや……買ってやろうか? その……案内してもらったお礼もしたいし……」
「いいの!?」
「あ、あぁ……」
ロックはエステルの単純さに感謝していた。
「だが、先に時計店に行っても構わないか? 早めに修理に出したい」
「あ、そうだね! ちょっと、忘れてたよ!」
「…………」
二人は、キャンディショップに背を向けると、その真正面にある古びた木製の扉を押した。扉に付いた鐘がチリンチリンと鳴る。
「いらっしゃい!」
店内に入ると、四十代後半の白髪混じりの男性が、威勢のいい声で迎えてくれた。
「実践用の時計をお探しかな? アカデミーの学生さんかい?」
男性は、ニコニコと人の良さそうな笑顔を向ける。
「いや、修理を頼みに来たんだ。これなんだが……少し遅れている」
「こりゃあ……」
男性が目を丸くする。金時計を受け取ると、蓋を開けて銘を確認した。
「驚いた。これは私の祖父の作品だね。……大事に使ってもらっているようだ」
「あぁ……」
「こいつの修理だね? 任せてくれ。これなら多分、十五分もあれば終わるよ。ちょっと、店内でも見て待っててくれるかい?」
「あの……ウィリアムズさんは……」
「ん? 祖父はもう亡くなったよ?」
「あ、いや……ケインさんの方は……」
「あぁ! 親父かい? 何だ、親父に見てほしかったのか! 残念だが、今は材料の買い付けという名の旅行に行ってるよ! どうする? 今度にするかい? まぁ、このアレン・ウィリアムズの腕も信用してほしいところだけどね!」
そう言うと、アレンはハハハッと大口を開けて笑った。
「いえ、お元気かどうか気になっただけです。よろしくお願いします、アレンさん」
ロックはホッとしたような笑顔を見せる。
「そうか! 親父は元気だよ! また顔を見せに来てやってくれよ」
「はい……」
修理の間、ロックとエステルは、アレンの薦めに従って、店内の時計を見て回った。それほど広くはない店内に、所狭しとウィリアムズ親子の作品が並んでいる。
「わぁ、これ素敵!」
エステルの目に留まったのは、バングル型のシルバーの腕時計だった。鈴蘭の繊細な細工が施されている。
「初心者用だな。ふん……時間軸の把握をある程度、助けてくれるようだな」
ロックが時計を手に取り、性能を確認する。
「いや……そうじゃなくて、可愛いよね?」
「お~い! 修理、終わったぞ!」
店内にアレンの声が響く。
「確認してくれ」
アレンはロックに金時計を手渡した。
ロックは、少し時計をいじって確認すると、目を細めてほうっと息を吐いた。
「ありがとう。ケインさんに直してもらったときのことを思い出しました」
「そいつぁ、よかった」
アレンは少し照れくさそうに笑う。
「おいくらですか? あ、後、これも一緒に精算してもらえますか?」
ロックは、手に握りしめたままだった鈴蘭の腕時計を差し出す。
「え!? ロック、それ買うの? いいなぁ!」
「…………」
「ハハハッ! じゃあ、お会計は二万三千ベリルだね! そのままでいいかい? それとも、一応、プレゼント包装しとくかい?」
「そのままで結構です……」
ロックは二つの時計を受け取ると、片方をズボンのポケットに、もう片方を上着の内ポケットに入れた。
「まいど! また来てくれよ!」
二人はアレンの威勢のいい声に背中を押されるようにして店を出ると、そのまま真正面にあるポップでカラフルな空間へと吸い込まれていった。




