第5節 デート
ロックの涙が収まるのを待って、二人は街へ向かった。
中央アカデミーを中心とするこの学園都市の名は『パンデクテン』と言った。白を基調とした石造りの街並みは、大陸で一二を争う美しさと堅固さを誇り、別名『ホワイトドラゴン』と称される程であった。学園都市として有名な『パンデクテン』は、特に魔法律を利用した魔道具や魔楽器の生産が盛んだった。それゆえ、最先端のアイテムを手に入れようと、大陸中の魔法律家や商人が集まり、一年中、活気付いていた。
「う~ん! やっぱり街に出るとワクワクするね! いっぱい買い物したくなっちゃうよ!」
エステルは、久し振りの街の空気に気分が高揚していた。
「活気があるのは、昔から変わらないな……だが俺は、静かな学園の雰囲気の方が好きだ」
ロックは、人混みが苦手そうだった。人とすれ違う度に、必要以上に神経をすり減らしているのが見て取れた。
「時計店がある通りは、もう少し人通りが少ないから大丈夫だよ」
「だといいんだけどな……」
メインストリートは、学園からこの街の入り口まで真っ直ぐ続いている。その途中にはたくさんの狭い路地があり、地元パンデクテンっ子しか知らないような老舗の店がいくつも軒を連ねていた。二人が目指す時計店も、そんな店の一つだった。
「あ、見て見て! あれ可愛い!」
エステルがおもちゃ屋さんの軒先に並んだ、ドラゴンのヌイグルミを指さす。
「何だ、お前。エリックから乗り換えるのか」
「――!? 違うよ! エリックのお友達にしようと思ったの!」
「あんな色のドラゴンはいないぞ。全く……大体、ドラゴンをヌイグルミにしようとする発想自体がおかしいんだ」
「何でよう? 可愛いじゃない」
エステルがピンクのドラゴンを擁護する。
「そもそもドラゴンは、四大精霊が物質界に降りたった際に、従者として共に現れた上級精霊だぞ? 現在は、物質界に順応しすぎて精霊界には帰れなくなっているようだが……いわば、この物質界で一番、大精霊に近い存在なんだ。それを、敬いこそすれ、ヌイグルミにする神経が分からない」
「敬いながら、可愛がってるんだよ!」
「どういう状況だ」
ピンクのドラゴンに別れを告げたエステルたちは、更にメインストリートを進んでいった。
「そう言えば、お前たち一年生は、今の段階でどれくらい魔法律を使えるんだ?」
ロックがいきなり話を振った。
「え? どれくらいって……前期は光、闇、火、水、風、土の基本六法と、精霊学の基礎を集中的にやったけど?」
「実践はやったのか?」
「えっとねぇ、光と火と風だけはやったよ。後は魔法律の解釈ばっかりで、実践はやってないなぁ」
「じゃあ、今、どんな魔法律を使えるんだ?」
「光の法は『癒しの光』でしょ、火の法は『炎の矢』を習って、風の法は『風の刃』――それだけだね!」
「なんだ、それだけしか使えないのか。もっと、やってるのかと思ってたぞ。魔銃器の使い方は習ってないのか?」
「そんなのまだ習わないよ。二年生に上がってから、選択科目であるだけだよ」
「ダンテは使ってただろう? 魔銃器」
「あ、ほんとだ。でも、授業ではやってないよ」
「独学で習得したという訳か……」
「何でそんなこと気にするの?」
「戦い馴れてそうだったからな。ほら、『ストップ』のとき、魔銃器を抜いてそのままの勢いで撃ってただろう? それでちゃんと狙いが定まっていた。かなり、訓練を積んでるはずだ」
「へぇ、そうなんだ! ダンテってすごいんだねぇ」
「そうだな。あいつは見込みがありそうだ。それに眼がいい。弟子に取るなら、あんなやつがいいなぁ」
「そんなこと考えてたんだ! あ、じゃあ、ユーリ君は?」
「あいつも素質は充分だな。努力もできるタイプだろう。だが如何せん、少し余裕がないな」
「余裕?」
「あぁ、お前には分からないかもしれないが……何て言うか、ちょっと危なっかしいんだ。まぁ、二、三年もすれば落ち着いてくるだろうがな」
「ふ~ん……あ、じゃあさ! 私は? 私は弟子に取ってみたいって思う?」
エステルは、何の気なしに尋ねてみた。
しかし、ロックはその問いに、予想外にも真剣な表情をして答えた。
「その話は、お前が『宿題』を済ませてからだ」
「え……?」
どういうこと――と聞こうとして、エステルは聞き覚えのある声に遮られた。
「こんにちは、お二人とも。デートですか?」
「あ、ケーラーさん!」
声のした方に顔を向けると、そこには満面の笑みを浮かべるケーラーがいた。




