第3節 グル
「えぇ~~、それは怪しいよ~! 絶対『答え』知ってるじゃない!」
「でしょ~~!?」
エステルとクレアは、食堂のテーブルに向かい合って、先程のドルバックの態度について分析していた。
「ダンテはね、ロック先生のこととかも含めて、学園中がグルなんじゃないかって言うの! ね、ダンテ!」
エステルは顔を横に向けた。
「…………」
ダンテはなぜか強引に食堂へ連行され、二人の会議に参加させられていた。
「グルって、どういうことなんですか? ダンテさん?」
クレアが尋ねる。
「……学園中が、あの賢者と『力の承継』について、何か隠してるんじゃないかってことだよ」
ダンテが少しふてくされたように答えた。自分より五つも歳の離れた女の子二人と食事を共にしているのが、かなり恥ずかしかったのだ。彼は、知り合いにこの場面を見られるのではないかと思うと、気が気ではなかった。しかし、そんな時に限って、知り合いに見つかってしまうものなのだ。
「あれ? ハハハッ! 何してんの!? ダンテ、両手に花じゃん!」
ユーリがケタケタ笑いながら現れた。笑い過ぎてトレーに乗ったグラスの水が溢れかけている。
「うるせぇな……無理やり参加させられてんだよ」
ダンテがユーリをギロリと睨む。
「アハハハハ!」
ユーリはなお、笑い続けている。
「ユーリ君もご飯今から? だったら、一緒に食べようよ! ダンテの前空いてるよ!」
「ハァ!?」
「あ、そう? じゃ、そうしよっかな、ハハハッ……ほんとウケるよ」
ダンテの抗議も虚しく、ユーリもエステルたちの輪に加わった。
「へぇ~、召喚法のドルバック教授がねぇ……」
エステルの話を聞いたユーリは、少し眉をしかめた。
「ユーリ君も怪しいと思うよね?」
「まあね。でもオレにはさ、隠してるっていうより、エステルさん自身に『答え』を見つけてほしいだけに思えるんだけど」
「私に?」
「うん。だって、そもそも『宿題』なんでしょ? 少なくともエステルさんには、隠すつもりなさそうじゃん」
「そう言われてみれば……」
「色々詮索するより『宿題』に専念した方が得策だと思うけど?」
ユーリはそう言うと、グラスに残っていた水をグッと飲み干した。
「そうだね! そうするよ!」
余計なことを考えなくてもいいと思うと、エステルは気持ちが大分軽くなった。
「で、ユーリ君はどう思う?」
「――? 何が?」
「どうやったら賢者になれるかだよ!」
「え~~~? オレも考えんの~?」
「乗りかかった船じゃん!」
「その言葉、普通、そっちから言う?」
「何か、思い付くこと教えてくれるだけでもいいから!」
エステルが手を合わせてお願いする。
「ん~~~、そうだなぁ。ドルバック教授は方向性は間違ってないって言ったんだよねぇ? 方向性って何なのかな?」
「召喚は無理だって言ってたけど……」
「もしかして大精霊と会うことかな?」
クレアが呟く。
「どうやってだよ。召喚できねぇんだぞ」
ダンテが否定する。
「会えなくても『お告げ』位なら今でも聞ける人、結構いるでしょ。オレも方向性っていうのは、大精霊とコンタクト取るってことじゃないかなって思うんだけど」
そう言うと、ユーリは席をガタンと立った。
「じゃ、オレもう行くから。『宿題』頑張ってよ」
「あ、ユーリ君ありがとう! あと、本も紹介してくれてありがとう! すごく分かりやすかったよ!」
「そう? でも、これからは勉強してるときに話しかけないでね。オレ、思考、中断されるの嫌いなんだ」
「あはは……気を付けるよ」
ユーリが行ってしまうと、その場が少し静かになった。
「ユーリ君って、もっとクールなのかと思ってたけど、結構しゃべってくれるんだね」
クレアが意外そうに言う。
「あいつは別にクールなんかじゃねぇよ。好き嫌いが激しいだけだ」
「私たち、好きになってもらえたのかな?」
「お前……去り際にあんなセリフ吐かれて、よくそんなプラス思考でいられるな。感心するよ」
ダンテがエステルに呆れたような顔を向ける。
「え……じゃあ嫌われてるのかな……」
「嫌われてねぇよ。むしろ、気に入ってる方だろ。俺は、ほんとに感心しただけだ。あいつは誤解されやすいからな。お前くらい能天気だと、誤解すらしねぇんだな」
「ど、どういう意味よ!?」
エステルが顔を真っ赤にする。
「別に? そのままの意味だけど。じゃあ、俺も先に行くから」
ダンテも席を立った。
エステルとクレアだけがテーブルに残される。
「もう~! 何なのよ」
エステルが頬を膨らます。
「褒めてくれてただけだよ」
クレアがクスクス笑い出す。
「そうなのかなぁ?」
「そうだよ」
クレアはクスクス笑いを止めない。
「もう~! クレアも何なのよ~!」
「ごめんね。ふふふっ」
二人は、その後すぐトレイを片付けると、三限目の教室へと向かった。