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第14章 賢者


「『賢者とは、大精霊にその力を認められた者である(賢者の法一条)』。

 この物質界で、初めて賢者となったのは、四人の大精霊(四大精霊)から直接、教えを受けた十五人の賢者である。光、闇、火、水、風、土、の基本六法に対応する賢者と、霧、雷、竜巻、時空、召還、魔道具、魔楽器、魔銃器、魔技術の発展法に対応する賢者である。……うん、これは知ってる」

 エステルは机に肘を付きながら、つまらなそうに読み上げた。

「そもそも、この物質界は、精霊界に住む四大精霊が創り出したものである。四大精霊は、物質界を支配するために魔法律を定めた。物質界で生まれた人や動物たちは、この魔法律から逃れることはできない。しかし、魔法律には解釈の幅がある。四大精霊は、この解釈の幅をもって、物質界の生き物たちに、一定の自由を与えたのである。ん~~?」

「魔法律を私たちが、使えるようにしたってことだよ」

 二段ベッドの上から、クレアが声をかける。

「あ、そっか。

 物質界の生き物は、魔法律を介してしか世界に干渉することができない。しかし、そもそも物質界の生き物は、魔法律の存在も、その読み方も知らなかった。そこで、四大精霊は、物質界に実体化し、その当時、最も高度な文明を有していた我々『人間』に、魔法律を記した書物(魔法律書)とその読み方を伝授したのであった。これが、約三千年前のことである。ふ~む!」

「もしかして、それも知らなかったって言うんじゃ……」

「い、いや、さすがにそれは昔話としても知ってるよ!」

「……その先を知らなかったのね」

「う……今から読むよ。

 四大精霊は、それから長きにわたり物質界に留まり、賢者が欠けるごとに、新たな人間に魔法律を伝授し、新賢者を生み出してきた。我々人間も、魔法律を授けてくれる四大精霊を敬い崇めてきた。しかし、約千年前、大精霊は全て精霊界へと帰ってしまったのである。ふ~ん……」

 エステルは何となく、大精霊がまだ物質界のどこかに留まっているものと思っていた。

「大精霊が精霊界へと帰った理由は明らかでない。明らかなのは、これ以降、大精霊に直接、魔法律を伝授してもらうことが適わなくなった、ということである。そこで、我々魔法律家が考え出したのが『力の承継』の利用である……」

 朗読の声は徐々に小さくなっていった。

「あの……エステル……」

 クレアが心配して声をかける。

「っ! あ、大丈夫だよ! ちゃんと、理解してるから!」

「別に朗読しなくてもいいんだよ……?」

「……うん。ありがと」


 その後、エステルは真剣に黙読を開始した。

 そこには、『力の承継』の血生臭い歴史が記されていた。

 『賢者の力』を巡って、たくさんの戦争が起こり、罪のない多くの人々が命を奪われていた。

 エステルとて、ここ数百年にわたる戦争の歴史を知らなかった訳ではない。しかし、その根幹に、常に『力の承継』が絡んでいることは全く知らなかった。祖父からは「魔法律家同士の力の衝突」だと聞かされていた。広い意味では間違っていなかったのだろうが、正しく説明してくれた訳でもない。しかも、授業でもこのことは習っていなかったのである。エステルは改めて、祖父が自分に『力の承継』のことを隠していたのだと認識させられた。


「ふ~~~っ」

 エステルは一気に本を読み終えた。

 気が付くと、窓からの光はオレンジ色に変わっていた。

「うっそ! もう夕方!?」

 時計は五時半を示していた。

 あれから、三時間以上も集中していたことになる。

「読み終わった?」

 二段ベッドの上から、クレアが顔を出した。

「あ、クレア……! ごめん! 私、ずっと一人で読みふけっちゃったみたいで……!」 

「気にしないで。よく分かった……?」

「うん。すっごく分かりやすかったから。ユーリ君に感謝しないとね! ……クレアもありがとうね」

 クレアは、エステルが本を読んでいる間、ずっと静かにエステルを見守ってくれていた。

「ふふふ。で、『答え』の方は分かったの?」

「あ……」

 今まで知らなかった『賢者』の歴史に夢中になっていたエステルは、『宿題』のことを全く忘れていた。

「まぁ、まだ時間あるしね」

「うぅ……」

「エステル、他にもやることあるし、今日のところはロック先生の宿題、そこまでにしといたら?」

「――? 何かあったけ?」

「ノート、写さなきゃいけないでしょうが」

「あ~~~~っ!」


 その後エステルは、今日の残りを全て、欠席した三限分のノート写しに費やした。




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