第12節 仲良し
時空法の次は『風の法』だった。
この授業も、エステル、ダンテ、ケーラー共に、同じ時間帯のカリキュラムを与えられていた。そして、クレアもまた同じカリキュラムだった。
先に教室に到着して授業の準備を始めていたクレアは、エステルたちが、教室に入ってくるのを確認すると、クスクス笑いだした。
「クレア、おはよう! って、何笑ってんの……」
「ふふふ、ごめんね。すごいスリーショットだなって思って。三人とも、いつからそんなに仲良くなったの?」
お人形のように可愛らしい少女に、ガラの悪そうな大男と、吸血鬼伯爵――クレアは完全にツボに入ってしまった。
「別に仲良くなんてなってねぇよ、たまたま一緒に来ただけだ」
「ですって、エステルさん。私たちは、仲良くなったつもりだったのに、ひどいですねぇ」
「ほんとですよ~。ショックで死ぬかも」
「……勝手に言ってろよ」
ダンテはそう言うと、三人から離れていつもの定位置へと向かった。
授業中、エステルは昨日の晩のこと、そして今朝の授業のことをクレアに筆談で伝えていた。
クレアは、エステルが一行書く毎に喜怒哀楽を目まぐるしく変化させていたが、思いっきり感情を表にできなくて、とても苦しそうだった。とりわけ、エリック事件の話になると、笑いを堪えるのに必死だった。
地獄のような二限目が終わると、クレアは大爆笑しだした。
「エステル、ほんと、可笑しすぎ……」
エステルはクレアが笑い死にするのではと心配になった。
「もう、笑いすぎだよ。でもさ、昨日結局、ゆっくり考えられなかったんだよね……」
「ふふふふふ」
「もう、ちょっといい加減止めてよ。相談、できないじゃん」
「ごめん、ごめん。でも、話を聞く限り、ロック先生は『宿題』を解いてほしいんじゃないかな? それまでは、肝心なこと話してくれそうにないと思ったけど」
クレアは、ようやく笑いを止めて言った。
「やっぱり、クレアもそう思う?」
「うん、それに『力の承継』なしで賢者になれるんだったら、エステルの悩みってほぼ全部解決するんじゃないの?」
「っ! ほんとだ!?」
エステルはクレアの言葉に光を見出した気がした。
「ありがとう、クレア! 何か、すごく前向きになれたよ!」
「私も手伝うから、がんばって宿題しよう?」
「うん!」
二人はにっこりと笑い合った。
「あ、そう言えば……」
エステルが急に暗い顔をする。
「どうしたの、エステル?」
「クレアって、入学前から『力の承継』のこと知ってたんだよね……?」
「うん、そうだけど……」
「私……ずっと、光の賢者になるんだって言ってたじゃない? そんなとき、クレア……私のこと、どう思ってたのかなって……」
エステルが俯く。
『人殺し』になることを宣言していた――そう思われても仕方がなかったということに気付き、エステルは以前の自分の言動を恐ろしく感じた。
「すごいなって思ってたよ――」
「え?」
エステルは顔を上げる。
「自分と同い年の子が、この世界の運命を背負って、ものすごく大きな決断をしてるんだって、尊敬してた」
「クレア……」
「ふふふ、でも別に何も決断してなかったんだね。尊敬して損したよ」
クレアがクスクス笑い出す。
「も、もうっ! クレア!」
エステルもつられて笑い出す。
「ふふふ、私、笑いすぎてお腹空いたよ、早く食堂行こう?」
「うん!」
二人は、ニコニコ笑い合いながら、いつものように食堂へ向かった。