第10節 時空法(1)
次の日の一限は、時空法だった。
「ケーラーさん!」
エステルは三十分も前から教室で待機して、いつも一番に到着するケーラーを待ち伏せていた。
「あ……エステルさん」
あの後、エステルはすぐに家に引きこもってしまった。クレアが次の日の用意を持って来てくれたときに、ケーラーが話をしたそうだったと聞いたエステルは、早めにケーラーと会わなければと思っていた。
「ケーラーさん、今まで私を守ってくれてたんですよね。ありがとうございました!」
エステルは、元気よく頭を下げた。
「怒っていないのですか? 今まで、黙っていたこと……」
「おじいちゃんに頼まれてたんですよね? それに、怒る程のことでもないです。でも、ケーラーさんは、どこまで私のこと知ってたんですか?」
「あなたのことは、入学時に校長から孫を守ってほしいと頼まれただけです。私はすでに他のアカデミーでも魔法律を修めていましたから、それを見込んでのことだとおっしゃっていました」
「じゃあ、普通の学生なんですか?」
「そうですよ、他にもあなたを守るためだけに学生となっている人がいることは聞いていますが、みんな校長が直接、依頼しているようで、私もよく知らないのです」
「そうだったんですか……うぅ、なんか緊張するなぁ」
「ふふっ、普通にしていれば大丈夫ですよ。校長が雇う人ですから、みんなきっと非常識な監視はしないでしょう」
「う~ん、でもなぁ……おじいちゃんが帰ってきたら、全員教えてもらおうっと」
「それがいいかもしれませんね」
ケーラーはフフッと微笑んだ。
「よう、早ぇじゃねぇか」
次に教室に現れたのはダンテだった。
「あぁ~~~~~~!」
「「――!?」」
エステルの声にダンテとケーラーが何事かと驚く。
「ノート、まだ写してない!」
「お、驚かすなよ、いいよまだ……」
「私は先に写させてもらいました。今は、クレアさんが持っているはずですよ」
「そっか……! ごめんね! 明日には必ず返すから!」
「あ、あぁ……」
ダンテはまだ少しドキドキしていた。
「そう言えば、私、昨日、ロック先生と仲良くなったんですよ!」
エステルが昨日の晩のことを二人に話し出す。
全て話終えたところで、ダンテが呆れたように言った。
「……お前、頭おかしいんじゃねぇの?」
「え、何で?」
「何ではこっちのセリフだよ。何で見ず知らずの男と一晩、過ごしてんだよ……」
「っ! 何にもなかったよ! ダンテ、発想が変態だよ!」
「ハァ!? お前が非常識なんだろうが! お前だけじゃねぇ! アイツも脳みそイカれてんじゃねぇか!?」
「ところで、エステルさん。エステルさんはドラゴンが好きだというのは本当ですか?」
ケーラーが会話に横入りする。
「はい! 大好きです!」
「てめぇ、いきなりどうでもいい話で会話切ってんじゃねぇよ!」
「そうですか、ドラゴンもきっと、エステルさんみたいな人が大好きですよ。いつか会えるといいですね」
「無視してんじゃねぇよ!」
二人はダンテのことを気にも止めず、ニコニコと笑い合っている。
「もう……ダンテ、うっるさいなァ……廊下まで響いてるよ」
ユーリが教室に入ってきた。
心底、うっとうしそうにダンテを睨む。
「俺のせいじゃねぇよ、ユーリ! こいつ等がバカなんだよ!」
「ま、どうでもいいけど? 授業中は静かにしてよね。折角の賢者、直々の授業、集中して受けたいんだよね」
ユーリは、前回の授業ですっかりロックのファンになっていた。
「……お前、プライド高い癖に、あんなガキの授業受けんの気になんねぇのか?」
「別に。それに俺よりちょっと年上な感じするし。おっさんら程、気になんないよ」
ユーリは、エステルやクレアと同じ、今年度最年少の入学者の一人だった。しかも、首席という輝かしい成績での入学を果たしている。
「こっちの白髪はいいとして、俺はまだ二十歳だよ!」
「俺からしたら、おっさんだよ」
「クソガキ……」
「何か言った?」
二人が幼稚な言い争いをしている内に、他の学生も集まってきた。
そしてチャイムが鳴る少し前に、ロックも教室へ入ってきた。