第11話「行こうっ、ノイリ!!」
迎撃をかい潜り、どうにかハッチから艦内に潜入することに成功した淳一たち。
ハッチはもぬけの殻で淳一たちの他には誰もいなかった。
「それじゃあ私は上に、淳一は右回り、彩奏ちゃんは左回りに進んで」
「「了解!!」」
意気のいい返事を聞き満足したのか何も言わずに唯依は駆け出していった。
「淳一、お前は左から行け」
「いきなりどうしたんだ彩奏?」
唯依が走り去るのを確認してから彩奏が口を開いた。
「何と言うか…そちらの方がよいような気がする。そんな気がするのだ」
「根拠は?」
「女の、いや私自信の勘だ」
「そうか。お前の勘なら頼りになる」
笑いかける淳一に向けて笑い返す彩奏。
何もないハッチに二人の笑い声が響く。
「それじゃあ、彩奏。また後でな」
「あぁ…必ず、必ずノイリを連れて来るのだぞ」
「当たり前だっ!」
そう言うと後ろなど気にしないように走り出す淳一。
後に残る彩奏はその背中を見送る。
「すまない姉上。やはり私は…」
姉のお節介でどうこうするものではない、そう思って彩奏は淳一に託したのだ。
勘であり確信でもあったから彩奏はその背中を見守ることにした。
「…これでいい。これでいいのだ…」
そう一人つぶやいていると淳一が走っていった反対の通路から何かが近づいてくる音が聞こえる。
「しかし、まだだ。まだ、私は負けない。負けられないぞ!!」
勢いよく通路に飛び出し、敵を確認、撃つ。
「そうやすやすと横取りされるほど私は甘くないぞっ!!」
ハッチ入口、彩奏の防衛戦が始まった。
「くっ、リロードが間に合わない」
淳一たちがノイリを探し始めた時と同じく。
外では今も激戦が続いていた。
「いくらSR機関を積んだ武器でもここまで使い続けると…」
永久機関と言ってもまだ未開発な部分が多く、長期運用をするにはやはりそれなりの装置が必要だった。
「あと2丁程あれば代わる代わるで使えたんだけど」
苦笑しながら無いものねだりする歩音。
現に3丁交代に銃を取っ替え引っ替え使っている。しかし、それでも間に合わないぐらいに敵は存在していた。
「こっちも『崩激』は実質使えない状態だしね」
そう言いながら『灼煉』を担ぎながら敵を迎え撃つ遊理香。
『崩激』はSR機関から放出される粒子を超高々度圧縮して撃ち出す仕組みで、破壊力が高い分、消費も激しい。
「まぁこれも、あと少ししか持たないだろうし」
遊理香とおなじように『灼煉』を構える公一が粒子残量を見ながら告げる。
『灼煉』は放出粒子を圧縮して光線状の弾を撃ち出す重機関銃。
実弾でないだけあって反動も少なく、オーバーヒートというものとは無縁であった。
「最悪実弾か……」
ちなみにそれぞれ実弾も装填すれば撃てる構造になっている。
しかし、それはあまりにも効率が悪いのだ。
淳一たちが着ている『レイツェルデュ・アーマー』ならびに敵ロボットには粒子から作られている特殊な層が張られている。
それに対しては実弾はほとんど効果が無いと言っても過言ではなかった。
「そろそろ厳しいかも……」
通信に入るさよの声、第一フェイズの後、再び前線構築のために動いていたがそれもそろそろ限界のようであった。
「そろそろ厳しいよ…淳一早くっっ」
歩音が苦々しい声と共にまた一つ銃弾を放った。
艦橋にて唯依はイルヒィと直面していた。
「やはり君か…いつぶりかな」
過去を懐かしむように声をかけるイルヒィ。
「最後に会ったのが開戦前日…妹にメール送ったあの日以来だ」
睨みながらその問いに答える唯依。
「あの日、あんたは言ったよね。こんな風にならないように自分が必ず阻止すると」
「…あれは事故だ」
「っ!!そんなわけないだろうがっ!!」
今まで見せたことのないような怒りに満ちた声を張り上げる。
「信じようが信じまいが結局このような結果になってしまった以上これも致し方ない」
唯依に向けて腰から引き抜いた拳銃の銃口を向ける。
「開き直るか…このろくでなしがっ!!」
手にしていたショットガンの銃口をおなじようにイルヒィに向ける。
「あの日の攻撃の時間を君は知っているかい?」
「忘れる訳無い、13時51分―」
「違う、13時53分だ。私たちが攻撃したのは」
吐き捨てるように唯依の言葉に被せるように言う。
「…何が言いたい」
「お互い上の方は何か隠し事をしているのだよ。現に攻撃時刻はこちらも13時51分となっている。探り出すのは大変だったよ」
お互い睨み合いながらしばらく沈黙の時が流れる。
「はぁ…君はホントに頭を使うのは苦手だね」
それを破るかのように苦笑混じりの声をイルヒィが出す。
「…喧嘩売ってる?」
「まさか、君に腕っ節で勝てるとは到底思えないから遠慮させてもらうよ」
「一発だけでも殴らせてくれないかな……」
後ろにどす黒いオーラを出しながら怒りに震える唯依。
「さて、話を戻そう。つまりだね…」
その時、艦全体を大きく揺らす爆発音が轟く。
「おっと、君が無駄話をするから時間が来てしまったよ」
「時間って何の!?」
「悪の幹部の最後は爆発オチがセオリーなんだろ?」
「あんたってやつは…」
あきれたようにげんなり肩を落とす唯依。
「姉上っ!?」
その時、彩奏が艦橋に踏み込んできた。
「姉上……ほぉ、彼女が噂の妹か」
イルヒィが彩奏を値踏みをするように見つめる。
「なかなか美人じゃないか、君と違って」
言うと同時に笑いはじめるイルヒィ。
「妹がかわいいのは否定しないけど今の言い方は気に入らないな…撃つよ?」
ショットガンのトリガーに指をかけながら笑みを浮かべる唯依。
二人の関係を知らない彩奏は困惑しながら二人を交互に見る。
「そろそろ時間か…それではこれで失礼しよう。…あぁ最後に伝えておこう」
そういうと今までの和やかなムードと一転して研ぎ澄ました眼光で唯依を見ながら一つだけ言う。
「全ては娘に託した、だそうだ」
「……なるほどね」
それだけ言うと歩いて部屋をでていくイルヒィ。
唯依もそれを追わずにいた。彩奏も呆気に取られていたがなんとか我に目覚める。
「そうだ、姉上!この艦はもうもたない、脱出しよう」
「そうだね。…淳一たちもきっとうまくやってるだろうしね」
彩奏もそれは思っていたのかそれには意見せず脱出の準備に取り掛かる。
「ノイリッ!!」
一つずつしらみつぶしにドアを開け放ちながら進む淳一。
幸にも敵とは遭遇せずにここまで来れていた。
「くそっ!!ここも違うのか…」
既にどれだけのドアを開けてきたのか思い出せないほど進んできた。
しかし、それでもまだなお、この艦の半分ほどのところであった。
「ノイリィィィィィィッ!!!!」
もう何も考えずただただ叫びながら少女の姿を探しつづける。
しかし、その声に答える者は誰もいなかった。
「なんでだよ…俺が守るって約束したのに」
悔しさをぶつけるように壁を殴る淳一。
先ほど響き渡った爆発音は淳一に残された時間の少なさを伝えていた。
「…まだだ。まだ、全部を探したわけじゃない…こんな所で諦められるかよ」
また一つ壁を殴り、走り出す淳一。ただただ一人の少女の姿を求めて。
そして、ついにその時は来た。
今まで開けてきたドアと何一つ変わりのない同じドア。
しかし、その先には暗く閉ざされた空間があった。
「淳一……さん…?」
その暗い空間に彼の捜し求めていた姿はあった。
「ノイリ…ノイリ!!」
嬉しさのあまりノイリの元へと駆け出す淳一。
しかし、二人の間にはまだ壁があった、それに気づかず淳一は檻の柵の一つに顔をぶつける。
「ごふっ」
奇妙な声を出し、一歩後ろにのけ反る。
「ふふふっ」
そんな姿を見てノイリが笑い出す。
しかし、そんな事を気にせず淳一が言葉を繰り出す。
「ノイリ、俺は」「淳一さん、私は」
淳一が話すと同時にノイリも言葉を繰り出す。
「お前がどんな物を呼び寄せてもいい。お前がどれだけ迷惑をかけてもいい」
「私はやっぱりみなさんと、淳一さんと一緒にいて楽しかった。」
「「だから」」
「お前と一緒にいたい!!!」「あなた方とずっと一緒にいたい!!!」
二人の声がシンクロする。
「ノイリ行こうっ!!」
「はいっ!!」
柵の間からさしのばす淳一の手を掴むノイリ。
その手を掴んだ瞬間ノイリをあの時―淳一の目の前に降り立った時と同じ白く輝く光が包み込む。
次の瞬間、二人の間を阻む柵、部屋が掻き消される。
「ノイリ…お前は…」
「私はですね…アンドロイド。空から来て、そしてみなさんと一緒に生きて行くことを誓った者ですっ!!」
そう言うとノイリは淳一を抱き抱え空へと駆け上がる。
「淳一さん、言ってくれましたよね。私を守ってくれるって」
「あぁ、当たり前だろっ!!」
「その言葉は嬉しい。だけど、守ってもらうばかりは嫌だ。私はみなさんも守りたい、一緒に本当の意味で過ごしたい」
雲を抜け、雲の上、二人を阻む物は何もない所まで来た。
「ノイリ…俺はただお前を守りたいだけだった。だけど、多分それ以上の何かがあったんだと俺は思う。俺は―」
「淳一さん、多分それは今はダメですよ。何と言うか公平じゃない気がします」
「…そう、なのか。…そうかもな」
「そうですよ。それじゃあ行きましょう。みなさんがいる場所へ!!」
「あぁ!!行こうっ、ノイリ!!」
二人は再びみんなのいる戦場へと向かっていった。
こんばんわ、林原甲機です。
みなさんいかがお過ごしでしょうか、自分の学校では今、「はしか」が流行っています。
ヤバいですねぇ……連日それについてのプリント配られていますよ。
そういえば先日、学校の帰りに電車で都市部まで出てきたら、その帰りに人身事故が発生し帰宅が遅くなったんです。
その時ふと思ったことがありました。
ちょくちょくテレビの上の方で「○○駅で人身事故のため○○~○○間の電車が~」みたいなこと書いてあったいつもなら「へぇ~」ぐらいにしか感じていなかったんですが、実際その場にいると感じ方が違うんですね……
テレビとかの怖い所です。
実際にその場にいないと結局他人事。
その場の事を分かった気でいるだけってことを痛感しました。
さて、なんか二つ程ずれたことを書きましたがレールを戻します。
次回、決戦の後。
ノイリと淳一たちとの日々。
それではまた次回、林原甲機でした。