悪魔崇拝が蔓延る世に仇なすクリスチャンたち
クリスチャンが書いた、クリスチャンが悪魔崇拝と戦う物語です。あることがきっかけで自殺をしてしまうヒロインのアツ香。目が覚めると不思議な空間にいた。そこで出会った光に触れた途端、アツ香の人生が変わり始める。
東京、この日本という国の中心。
多くの人がいる中この国は今、悪魔崇拝が各地で蔓延っている、最悪の時代を迎えていた。
ある病院の病室。そこに痣だらけの女性がグズッと鼻を啜りながら何時間も泣き続けていた。
「どうして私が」
そう繰り返し呟く女性の近くには黒い影が忍び寄っていた。
東京中心部とも言える渋谷、その街の隅っこに小さな探偵事務所がある。先にこの探偵事務所について説明させてもらうとちょっと変わった事務所で、普通の探偵業はほとんどしなかった。する仕事は─不思議な事件の依頼だけ。
ここにいる探偵は二人の男女。所謂カップルだった。
シワひとつない白いワイシャツに紐タイをしてタイには十字架が描かれていた、この青年は久人という。
「化け物」
その言葉に反応して向かいにいた女性は顔を上げる。その表情は苦虫を噛み潰したようだった。
「次、それを私に言ったら引っ張たくからね、久人。」
ノースリーブのタートルネックにミニスカート、それにロングブーツというあまり探偵には向かない格好をしたショートカットの女性はアツ香。このアツ香という女は少し、いや、かなり特徴的な顔をしていた。瞳はギラッと光る黄色に瞳孔は縦長に伸びていた。左頬には緑色の鱗のようなものが張り付いており、その顔立ちはまるで蛇のようだった。
ここからはアツ香自身の過去の話になる。
まずアツ香は牧師の家庭で生まれた、所謂クリスチャンホームの出身だった。毎日教会の手伝いは大変だったけれど彼女は幸せだった。そう、ある時彼女の父親が友人の借金を誤って肩代わりしてしまうまでは。
教会はなくなってしまうことになった。彼女の大好きだった、大切な教会。
アツ香は教会が取り壊される前にそこへやってきた。大量の毒が入った瓶を持って。
彼女は泣きじゃくっていた、綺麗な長い髪はボサボサで、涙で濡れた頬にへばりついてしまっていたがそんなのお構い無しだった。彼女は最後に神に祈った。
「ああ、愛する私の父なる神様。なぜこのようなことになってしまったのですか。私たち家族が何か罪を犯しましたか。それならば、今から犯す私の罪と一緒にどうかお赦し下さい。この祈り、尊いイエス・キリストの御名によってお祈りします。アーメン。」
そう締めるとアツ香は手に持っていた大量の毒を飲み干した後、意識を失った。
「ここはどこ?」
アツ香は一人ぽつんと柔らかい綺麗な雲の上に立っていた。雲なのかどうかはわからなかったが。
すると誰かがアツ香を呼ぶ。
びっくりして思わず振り返った。その声は知ってるような知らないような不思議な声だったからだ。振り返った視線の先には眩く光る炎のようなものが浮遊していた。
触れるギリギリまで傍による、が、その炎のようなものはただゆらゆらと揺れるだけで特に何も起こらない。アツ香はそっとその光に触れた。
すると、突然その光は目も開けていられないくらいの光でアツ香を包み込んだ。アツ香は一気に光の中に取り込まれ目も開けられずただ畏れ、じっとしていた。
目を開けるとあの、教会でアツ香は倒れていた。頭がガンガンするので反射的に頭に触れると、無い。髪が顎の下あたりからバッサリと切られたように無くなっていたのだ。すぐさま、アツ香は鏡のある洗面台まで走る。そして悲鳴を上げた。髪の長さだけでなく、目や頬にあるもの、まるで蛇のように自分の顔が変わってしまっていた。
久人に出来事の全てを話すと、彼は大いに喜んだ。「これは神様からの救いの印だ!」とか「神様から祝福されて大きな力が働いたんだ」とか。でもアツ香は素直に喜べなかった。「蛇」というと、やはり聖書では悪魔の象徴、あまり良いものとは思えない。アツ香はこの一連の流れが久人の言う通り神からの祝福なのか、それとも罰なのか、わからなかった。
「それでも良い。化け物だって構わない。私は神様の御心に従って生きていく。」
アツ香は神の計画がわからなくてもこの時、神と共に歩むことを決めたのだ。
「連続殺人事件、犯人の手がかり無し。同じボーイズバーのキャストが二人殺害されていて、警察はボーイズバーに何かしらの恨みを持った者の犯行なのではないかと疑っている、だってさ。」
久人が一枚の紙と人物の写真をアツ香の前に差し出す。
「今回の依頼人の方ね、名前はまさゆきさん、か。今殺人事件が起きているボーイズバーのキャストの一人ね。」
「依頼してきた時、その男性、とても震えていたよ。何か恐れていることがあるんじゃないかな。」
アツ香は深く頷いた。
「話を聞いてみる必要がありそうね。久人、あなたの方がコミュ力高いんだからリードしてよね。」
「はいはい、じゃあ行きますか。」
「次に殺されるのは俺だ。」
まさゆきは唇を震わせながらこの一言だけ言い放った。
「んん?どういうことでしょう?できれば詳しくお話を聞かせて貰えますかね?」
まさゆきは目を泳がせながら、まるで背後からでも何かが襲ってくるのではないかというような怯えっぷりで話し始めた。
「俺達……殺された二人と、俺と優太の四人はある女を騙してボーイズバーに金を注ぎ込ませたんだ。特に優太が中心になってさ。でもあの女は……マリーは騙されていることに途中で気づきやがった。それでもう店には来ないと言われてさ。そして俺達は優太の指導で……その、マリーに乱暴をしたんだ。」
「なんてことを!あなた達はマリーさんを殺したも同然の罪を犯したわ!」
アツ香が急に立ち上がり怒鳴りつけるものだからまさゆきも久人も少しびっくりした顔をして一瞬沈黙の空気が流れた。
「わ、悪い事をしたのはわかってるんだ!だからこそ今マリーは、どういう手を使ってるのか知らないが、俺達を順番に一人ずつ殺していってる。」
「なるほど、それでなぜ次があなたなのでしょう?優太さん、という方も残っていますよね?」
まさゆきは少し苛立った様子で言った。
「だから言っただろ!中心になってやってたのは全部優太なんだ!マリーの目的は優太以外の三人を順番に殺していって優太を怯えさせてから報復すること。目的は優太だ。」
アツ香と久人は顔を見合わせる。
わかってる。この事件には悪魔の匂いがプンプンする。
凶器が何か分からない刺された後、そして血は流れていない遺体。マリーという人物が関係していて、更に悪魔が関係しているのならば、彼女と直接面会するのは困難だろう。まずまさゆきを守り、あわよくば、彼女を悪魔の手から救い出せれば。
アツ香は少しの間目を閉じ、短い祈りをしてからまさゆきの方を見た。
「わかりました。まさゆきさん、あなたは今日私たちと一緒にまさゆきさんのアパートに行きましょう。アパートは私と久人が常に見張っています、大丈夫です。必ず解決させます。」
その言葉を聞いて少し緊張が解れたのか、まさゆきの顔に安堵のような表情が浮かぶ。
でも、正直これが正しい答えなのかはわからない。でも私には神様がついている。絶対に悪魔なんかに負けたりしない。
話し合いが終わるとアツ香たちは喫茶店から出てまさゆきのアパートに向かう。それを高いビルの屋上から見つめる影。
「おい、あの男、妙なやつを味方につけてるぜ。どうする、マリー?」
隣にはピンク色の髪をしたボブカットの女性が不敵な笑みを浮かべてただ黙ってアツ香たちを見つめていた。
マリーという人物の写真をまさゆきから事前に見せてもらうことができた。そして、きっとマリーという名前は偽名だろうということがよくわかった。茶色い瞳に真っ白とは言えない肌の色は純粋な日本人だということを表していた。それにしても美人だ。20代前半と思われるその目はまだあどけなさが残っていて長い明るい茶髪は肌の色ととても合っている。
「ここが俺のアパートの部屋だ。」
「ご案内ありがとうございます。ではまさゆきさんは中で……」
「待って!!」
まさゆきがドアを開けようとしてドアノブに手をかけたところでアツ香はまさゆきを思いっ切り吹っ飛ばした。
アツ香は普通の女性だ。大の大人の男を吹っ飛ばす馬鹿力は前は持ち合わせていなかった。この力はあの日、教会で目覚めた時に授かった神の力だった。
「ゴフッ」
ただまさゆきに掛けた力は少し強すぎたみたいだ。少し離れたところまで吹っ飛んでいってしまった。でもその方が良かったかもしれない。まさゆきの部屋から現れたのは悪霊に取り憑かれた男たちだった。五人くらいだろうか、数が多くアツ香一人ではとても立ち向かえない数だ。
一人なら、だけれども。
アツ香は手を組み祈りを捧げた。
「天にいます愛する我らのお父様、どうかこの人たちを悪霊から救うための力を私に授けて下さい。そして、マリーさんも悪から解き放たれますように。アーメン。」
その時、悪霊が鈍器のようなものをアツ香に向かって振り上げる。
アツ香は目を開けると力いっぱい、悪霊の取り憑いた男の頬を引っぱたいた。
今度吹っ飛んで行ったのは取り憑かれた男の方ではなく悪霊の方だった。
アツ香は苦しむ悪霊に向かって言った。
「私たちは神の子です。キリストがそう私たちに告げたのです。あなたは神の子に立ち向かうのですか。」
悪霊は答えた。
「お前は本当に神の子か?まるで蛇のような容姿で化け物ではないか。」
アツ香は悪霊に対して言い放った。
「キリストはこう神の子を定義しています。『信仰により、イエス・キリストにあって神の子です』と。さあ悪霊よ、話すことをやめなさい。キリストの怒りに触れたくないのであれば、地獄へ帰るのです。」
悪霊は苦虫を噛み潰したような顔で呻きながらどこかへと姿を消した。
それを見ていた他の四人の悪霊に取り憑かれた男たちは恐れをなして逃げようとした。
アツ香は焦ってしまい、その悪霊たちを追いかけようと走り出した、途端、
ドスッ!ドスッ!
アツ香の血の気が引いた。何が起こったかわかってしまったのだ。後ろを振り向くと、腰を抜かした久人と、まさゆきとさっきまで悪霊に取り憑かれていた男性が何かに刺された傷跡がついた状態で血が出ることもなく殺されていた。
「ア、アツ香……」
震えた声で久人が二人の遺体を指差す。
「マリーさん……思ったよりずっと悪魔への信仰が強いのね。でも絶対あなたが地獄に引き込まれる前に助けてみせる、イエス・キリストの御名のもとで!!」
そう言ってアツ香は溢れそうになった涙を拭った。
「いらねーよ!お前らの助けなんて!!」
恐怖と怒りで満ちた優太はアツ香と久人を怒鳴りつけた。
「でも!マリーさんは……」
「あー!あー!あー!聞きたくねー!まさゆき1人もちゃんと守れない探偵さんには用はないね!俺は今日も店に出るからな!」
「危険です!ここにいればマリーさんにすぐ」
「どこにいてもあいつは俺を見つけ出すだろ!だったら従業員とか客がたくさんいるこの店にいた方がいい。つーことで店もオープン前なんでお帰りください!探偵さん!」
そう言ってアツ香と久人は優太のいる店から放り出された。
「さて、どうしようか。」
久人は困ったように頭を搔く。
「うーん、久人はまさゆきさんと悪霊に取り憑かれていた男性が殺されるところを見たんだよね?あまり気持ちのいい話じゃないかもしれないんだけどどういう状況だったか教えてくれる?」
久人は少し困ったような、嫌なことを思い出した人の顔をしながら説明し出した。
「うーん、一瞬のことだったから細かくは覚えていないけど……少し寒くなった気がしたな。それから勢いよく先の尖った大きな何かが飛んできたんだ、何か紐のようなものに繋がってた。それが思いっ切り二人を刺して……かと思ったらすぐ引っ込んでどこかに消えたな。」
「寒く……なる……。」
アツ香はハッと顔を上げた。
「ねえ、今なんか寒くない!?」
それを聞いて久人も厳しい顔になる。
「この店から冷気がきてる!店に入ろう!」
「なんかさみぃな。」
そう言いながら優太は他のキャストや従業員とオープン前の準備をしていた。
「ちょっ!ゆかが凍ってるとこあるんだけど!」
他のキャストが叫ぶ。この気候のいい季節にか?と優太は笑いながらそのキャストの元へ行く。
「で、どこが凍ってるっ……て」
見ると先程叫んでいたはずのキャストの全身が凍りついていた。
優太は叫びながらソファにもたれ掛かる。
「おい!誰か!」
助けを求めるも誰の返事もない。周りを見渡してみると一面が凍りつき、その場にいた優太以外の全員が凍っていた。
「どうなってんだよ……!」
そう言ってからふと顔をあげると目の前には髪がピンクの、ボブカット姿の女性、そう、マリーがいた。
優太に一気に緊張が走る。逃げるか?いや、出入口は凍っていて開けられそうにない。ここは話し合いで何とか折り合いをつけよう。大丈夫、一度騙せた相手だ、何とか言いくるめられる。
「よ、よう、マリー。雰囲気変わったじゃん。」
マリーはただ不敵な笑みを浮かべているだけだ。
「あ、もしかして俺を困らせに来たな?やめろよぉ。これじゃあ営業できないだろ?マリーに謝ることもできないじゃん。」
「謝る?」
マリーが口を開く。
「そうそう!俺、お前にいろいろ悪いことしたなって、反省してるんだ。だからちゃんと謝りたくてさ。」
マリーはフフッと柔らかく笑った。
「あなたからその言葉が聞けてよかったわ。」
優太は許してもらえたのだと感じ同じく柔らかく笑う。
「これでなんの躊躇いなくあなたを殺せるもの!!」
「ひえええ!!!」
優太の叫び声と共に凍りついていた扉が開く。アツ香の馬鹿力で扉を力づくで開けたのだ。
「優太さん!大丈夫ですか!?」
「い、今……マリーが……」
アツ香と久人は辺りを見回す。凍りついた店内にマリーさんの姿はない。代わりに悪霊の取り憑いた男が一人立っていた。逃げていった四人の男たちの誰でもない男性だ。
「悪霊よ、その人から出ていきなさい。」
アツ香はその男を睨みつけて言った。
「お前は神か?ただの人間ではないか。弱い人間が俺に勝てると思っているのか。」
「私は神ではない。だが神に祝福され、神に愛される、神の子である。悪霊よ、出ていきなさい。私の手がお前に触れれば聖霊の力によってお前は忽ち地獄へ帰されることになる。」
悪霊はアツ香を嘲笑った。
「やってみるといい。もしできなければ『あなたは隣人に対して偽りの証言をしてはならない』という決まりに反し、お前が地獄に堕ちるだろう。」
アツ香は悪魔を睨みつけた。彼は神の赦しがあることを述べていない。嘘っぱちだ。
「父、子、聖霊の名によってお前は私の言葉を復唱する。」
悪霊はビクッとした。
「天にまします我らの父よ、願わくば御名を崇めさせたまえ。御国を来らせたまえ。御心の天になるごとく、地にもなさせたまえ。我らの日用の糧を今日も与えたまえ。我らに罪を犯すもの、我らが赦すごとく我らの罪をも赦したまえ。我らを試みにあわせず悪より救い出したまえ。国と力と栄とは限りなく汝のものなればなり。アーメン。」
悪霊は必死に自分の喉を抑えたが神の力に抗うことはできず、主の祈りの全てを復唱した。
すると、神を自分の主という祈りを捧げてしまった悪霊は忽ち地獄に戻され、男性は気を失ってしまい、その場で倒れ込んだ。
すぐに男性の方へ行く久人とアツ香。そして久人が祈った。
「天の愛する神様、どうかこの男性の罪を許し、癒しを与えてください。そしてこの人がどんな悪いものからも守られますように。アーメン。」
「アーメン。」
アツ香も久人の祈りを心に描きながら一緒に祈った。
「久人、この人のことよろしく。あと、優太さんも。」
優太は一連の流れを見て震えながらアツ香たちを見つめていた。
するとどこからか声が聞こえる。笑い声と少し怒ったような声。どちらも同じ人の声に聞こえた。
「あははっ!あの悪霊、まんまとあの女に言いくるめられちゃって!おかしいわ!」
「笑ってんじゃないわよ!なんであんな馬鹿な悪霊を使ったの?お陰で私がなんとかしなきゃいけないじゃない!」
優太が震える声で叫ぶ。
「マリーだ!!」
途端に部屋の中が吹雪で覆われる。久人とアツ香は構えて、男性を守った、が、優太がいない。
見ると、出口の方へ走っていた。
「いけない!優太さん!戻って下さい!!」
だが時すでに遅しだった。優太はカチンコチンに凍ってしまっていた。
「くっ!」
アツ香は唇を噛む。すると店のステージの方から声がした。見ると何処よりも一番吹雪が激しく吹いていた。
「守れなかったのが悔しい?でもちょっとだけ安心して。あいつは凍って動けなくなってるだけで生きてるわ。」
そう言い終わると吹雪が止み、ステージの真ん中に一人の女性が現れた。長い明るめの茶髪、綺麗な顔立ち。マリーだ。
「あんたを殺したらすぐあいつも殺すけどね。もう十分に死の恐怖を与えてやったし、地獄に突き落としてやるわ。」
アツ香は哀れみの目を向けて言った。
「マリーさん、なぜそんなことを言うんですか。あなたはもうひとりぼっちになってしまったんですよ。これ以上罪を重ねていけばあなたが地獄へ行ってしまいます。」
「うっさいわね、あんたのその見た目、どうせ私と同じように化け物になったんでしょ。化け物の言うことなんか聞く気はないわ。それに……私は、独りじゃない!!」
そう言うとマリーの体は黒い何かで覆われた、と思った次の瞬間空中に二人の女性、マリーと……ピンクの髪色にボブカットのマリー、そしてステージの真ん中に黒く長い髪の幼い女の子の姿をした、やはりマリーに似た人が立っていた。どのマリーにも黒い角とコウモリの様な翼があった。
「まさか……」
アツ香の額を汗がつたう。
「悪魔が三体取り憑いているの……?」
「よくおわかりね。」
幼い女の子の姿をした悪魔が小さな口を開く。その表情は、無感情だ。
ピンクの髪のマリーはクスッと笑う。その顔と言ったら本当に憎らしかった。
「この人間はね、私たちを求めて三回手首を切ったの。その血から私たちはこの人間の体に入り込んだってわけ。」
「よくも……よくも!マリーさんの弱みに漬け込んで!!この化け物共が!!」
アツ香は怒りに震えた。これが悪魔のすることだとわかっていてもいざ目の前にしてしまうと感情が乱れてしまう。
「だめだ!アツ香!怒ってはいけない、ただ神様に全て委ねるんだ!」
久人の叫びにアツ香はハッとする。そうだ、この仕事は私の仕事ではない、とアツ香は心を落ち着かせた。
「あら、思ったより強いのね。」
「だから言ったでしょ!こいつらおかしな力を持ってるのよ!」
本来の姿のマリーとピンクの髪のマリーがケンカを始める。
「やめなさい。」
そこに幼い女の子が二人を静止する。二人はピタッとケンカをやめた。まるで操られているように。
「殺せばいいだけよ。」
そう言われてさっきまでケンカをしていた二人のマリーは顔を合わせてニヤッと笑う。
「そうね、えっとぉ、誰から殺してあげようかしら?」
「何を言ってるの?私たちならこの場の全員一纏めに殺れるわ。」
「さあ、始めましょう。」
アツ香は構える。何か来る。
すると三人のマリーの翼の付け根からそれぞれ六本の、先が尖った三角柱の物体に、それに繋がった赤いクネクネした紐状の物が出てきた。
「マリーさん目を覚まして!」
アツ香は叫んだが悪魔は笑った。そして三体の悪魔はアツ香めがけて六本の槍を一斉に飛ばしてきた。気を失った男性を背負いながらアツ香と久人は全速力で逃げる。マリーは完全に悪魔の力に溺れてしまっている、悪魔崇拝者だ。祈ってる、でも本人が悪魔から離れる気持ちが全くなければどうすればいいのだろう。取り憑いている悪魔もマリーの気持ちが強いせいか、強力だ。
「聖なる、聖なる、聖なる神様。あなたの御名を賛美します。私の、悪魔にどうしても打ち勝てないこの弱さをどうかお許し下さい。愛する神様、危険が迫っています。どうかマリーさんを助けてください。いつも感謝してあなたの尊い御名によってお祈りいたします。アーメン。」
アツ香は悪魔の攻撃の中神様に強く祈った。すると、アツ香に向かっていた悪魔からの攻撃の全てがピタッと、まるで時間が止まったかのように、止まり、固まった。
「あら?私たち動けなくなっちゃってる。どうしたのかしら?」
「悠長なこと言ってる場合!?まずいわよ!」
アツ香の祈る手の中が突然眩い光で満ちた。
ハッと息を飲む。神様が祈りを聞いた。アツ香は恐る恐る手を開いた。
「うわっ!」
その途端、目が眩む光が空に飛んでいた二体の悪魔を貫いた。悲鳴をあげる悪魔たち。ポーカーフェイスを貫いていた幼い女の子の顔が少し歪む。
「全く、使えない悪魔たち。」
そう言って幼い女の子は両手をバッと上に上げ掌を大きく広げる。すると、光に突き刺された悪魔たちは人の形を無くし、禍々しい黒い炎のようなものになって幼いマリーの両手の中に吸い込まれていった。
「そこの哀れなお嬢さん、見せてあげるわ。本当の絶望を。」
幼い女の子の姿をした悪魔に「お嬢さん」と呼ばれる違和感を感じながらもアツ香はマリーをまっすぐ見る。
幼い姿だったマリーは、ぐんぐんと大人の姿に代わり、髪は元のマリーの明るい茶色になったが目は引きつり不気味に黄色く光っていた。手には長い爪が生え、血のように赤く染まっていて先は鋭利に尖っていた。体は真っ黒に染まり、もはや輪郭しかわからない姿だ。口は裂けて不敵に笑っていた。悪魔の本来の姿が現れたのだ。
アツ香は目を閉じた。戦うしかない。でも絶対神様がマリーを救ってくれる、そう信じてアツ香は目を開き悪魔を睨みつけた後、悪魔がいるステージの上に飛び乗った。
「私と戦う気か、愚かだ。」
アツ香は悪魔を睨んだまま言った。
「愚かなのはどっち?あなたは私の神様に勝てると思っているの?直ぐに地獄に戻りなさい!イエス様の御名前によって!」
そう言い放った途端、アツ香の手の光は剣に変わった。そうか、神の武具だ。
「腰には真理の帯を締め、胸には正義の胸当てを付け、
足には平和の福音の備えをはきなさい。
これら全ての上に信仰の盾を取りなさい。それによって悪い者が放つ火矢を全て消すことができます。
救いのかぶとをかぶり、御霊の剣、すなわち神のことばを取りなさい。」
神様の教えがアツ香の中に響く。
「うおおおおおおおおお!!!!!」
アツ香に剣の扱いなどわからない。ただ神様が共におられたので、アツ香は強く悪魔に対抗できた。悪魔は両手で大きな黒い炎の玉をつくりそれを片手にアツ香を絶望させようと、こちらに叫びながら向かってくるアツ香にぶつけようとした。神の武具とサタンの力に溺れた女の悪魔崇拝の力がぶつかろうとしていた。
「待って!万理華ちゃん!」
悪魔はその声に一瞬気を取られる。その隙にアツ香は神の武具で悪魔を切りつけた。
「うぐぅ!」
恐ろしくなるような悲鳴を上げる悪魔。相当のダメージだったようだ。だがまだマリーと悪魔は離れない。そこに二人の女の子が入ってきていた。アツ香にはわかった。この二人はクリスチャンだ。
「万理華ちゃん、悪魔なんかに負けちゃダメだよ!」
さっき叫んだ女の子が悪魔に取り憑かれたマリーに語りかける。
「うるさい、黙れ。」
そう言い放つ悪魔だがかなり苦しそうだ。どうやらマリーの心が揺れだしたようだった。
「そうだよ、万理華ちゃん、また一緒にバイブルスタディをしようよ。万理華ちゃんの聖書、持ってきたんだよ。」
もう一人の女の子がそう言って少し使い古した聖書をバッグから取り出した。
悪魔の目がその聖書を見た途端、人間の、写真で見たマリーの茶色い瞳の目に変わる。その顔は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「わた、し、は……うっ!」
苦しそうにするマリーと悪魔。その時、神様からお告げが降りて来た。
「万理華の聖書を悪魔の心臓に向かって投げなさい。」
その場にいた全員がびっくりして腰を抜かした。
「え……今のって……?」
最初に口を開いたのは二人の女の子の一人だった。アツ香はその声に我に返り聖書を持っている方の女の子に叫んだ。
「投げてください!今神様が仰った通りに!」
「で、でもこの聖書、万理華ちゃんが大事にしてたもので……」
「投げて。」
みんなの視線が悪魔、いやマリーに集まる。もはや悪魔なのかマリーなのかわからない姿だったがマリーの髪はボサボサで悪魔の方はボロボロだった。
「私の神様がきっと私を正しく裁く。だから投げて。」
そう言ったかと思うと別の姿、髪が整えられて両手で身を守るようにしたか弱そうなマリーに姿が変わった。
「やめて!その聖書を投げないで!あなたが怖いわ!」
悪魔がマリーを引き戻そうとしているんだ。どうすればいい?アツ香は汗だくだった。
「お願い!投げて!!」
また髪がボサボサのマリーに変わる。
久人も大声で叫んだ。
「投げて下さい!イエス・キリストの御名によって!」
アツ香も、叫ぶ。
「イエス・キリストの御名によって!!」
二人の叫び声で決心したかのように聖書を持っていた女の子は聖書を投げようとその手を振り上げる。
「やめろおおおおおおお!!!!」
もはや姿を隠さず悪魔の姿で叫ぶがその声はその場の誰にも届かなかった。
聖書は悪魔の心臓目掛けて投げられた。その瞬間、聖書は先の尖った杖に姿を変えた。
「杖に!」
「変わった……!」
神の御業に驚きを隠せない一同だがその杖の先端はまるで道が作られてるかのように悪魔が動こうが手で覆って守ろうが悪魔の心臓に向かって飛んで行った。
そして悪魔の、マリーの心臓に真っ直ぐ突き刺さった。
マリーは倒れ込んだ。
不思議な場所に来た。空のようで満天の星が広がっているが、辺りは明るい。昼間のようだ。
マリーは起き上がる。すると目の前に眩い光があってマリーの名前を呼んだ。
「万理華」
マリーはすぐに目の前の声のする光が神だとわかった。そして跪き、頭を地につけて蹲りながら言った。
「神様、ごめんなさい!私は、憎しみに駆られ、悪魔などに身を委ねて多くの人の命を奪いました。私は、わ、たしは、あなたを愛しておらず!悪魔を愛してしまいまし、た……!」
マリーはぐちゃぐちゃに泣いていた。ずっと苦しかった、本当はここに戻りたかった。でも自分を傷つけた人たちを許せなかった。
「私は、もう彼らを憎みません。ただあなたの裁きを受けます。」
そういい終わった途端、星たちが流れ星のように飛んできて跪き、蹲るマリーを起き上がらせた。
「立ちなさい、万理華。」
万理華は言われた通り立って顔を上げた。そして、目を見張った。
星がどんどんと光に向かって飛んできたかと思うと光を中心に線を結び大きな十字架をつくった。
「あなたの罪はイエス・キリストの十字架によって許されました。さあ行きなさい。友があなたを待っているから。」
マリーの中から悪魔は全て取り除かれ、代わりに聖霊の炎がマリーに宿った。
「ですから、誰でもキリストのうちにあるなら、その人は新しく造られた者です。古いものは過ぎ去って、見よ、すべてが新しくなりました。コリント人への手紙 第二5:17」
目を開けると友だちが二人、心配そうに万理華の顔を見つめていた。天井は真っ白で点滴がされているのがわかる。病院にいるんだと万理華は朦朧とした意識の中察することができた。
「みんな……どうしたの?」
そこで一人の女の子が万理華をガバッと抱きしめる。
「万理華ちゃん!もう馬鹿なことはしないでよね!」
もう一人の女の子は安心してか、わんわん泣いてしまっていた。
万理華は徐々に今までのことを全て思い出した。
「ごめん、二人ともごめんね。」
万理華は起き上がる、と、二人の男女、アツ香と久人が目に入った。
「えっと……あの、あなた方は」
「探偵をしています。今回は依頼者の要望でこの事件に関わらせていただきました。」
「そう……ですか。」
「今日、詐欺の疑いで優太という源氏名でボーイズバーで働く男を逮捕しました。男は……」
テレビのニュースが病室に鳴り響く。
静まる部屋。万理華のため息で打ち破られる。
「なんか、私ってほんと馬鹿だね。」
そう言って万理華は二人の友人と笑い合った。
それを見たアツ香は立ち上がった。
「では我々は失礼しますね。万理華さん、お大事に。」
「はい!ありがとうございました、預言者様!」
アツ香は目を見開く。預言者様?私が?
「あれ?違いましたか?私が悪魔に取り憑かれていた時、あなたから大きな神様からの祝福を感じたのでそうなのかと。」
アツ香と久人は顔を見合せた後、抱き合った。
「やっぱり君は神様に愛されていたんだ!良かったね、アツ香!君は化け物なんかじゃない、これから神様のために、人のために、働く人間なんだ!!」
「ありがとう……ありがとう!」
アツ香の目には涙が溜まって溢れそうになっていた。
万理華たちも顔を見合せ、二人の幸せを同じように感じていた。
夜の闇の中、複数の警察が倒れていた。
そこに立っていたのは、優太、悪魔の力に溺れ、悪魔に身を委ねた優太の姿だった。
「クククク……ハハハハハハッ!あの女!こんな力を持って俺を殺そうとしてたなんてな!……やってやるよ、お前と同じことをな!!」
長すぎてごめユニコーン
アツ香も久人も一生懸命マリーを救うため、神様に祈る一方、マリーは悪魔の力に溺れ、もはや悪魔崇拝者になってしまっていました。神様の声がマリーに届いたのは神様からの最大のプレゼントと言えると思います。
そしてこれから優太とアツ香たちとの戦いが始まろうとしています。神様からの祝福あれ。アーメン。




