敗北の積み荷と、壊れたブレーキ
「……5回だ」
ユウキは真っ暗な洞窟の隅で、震える手で壁に「正」の字を刻んだ。
5回戦って、5回とも無様に逃げ帰った。
今のユウキの体は、ひどい有様だ。全身はウサギの爪でズタズタに切り裂かれ、左耳の端は食いちぎられて欠けている。村に戻れば「また死に損ないが帰ってきた」と石を投げられる始末だ。
「はは……あははは……っ!」
暗闇に、乾いた笑い声が響く。
もう、プライドなんてどこにも残っていない。
アニメで見たような、かっこいい逆転劇を期待していた自分はもう死んだ。
あるのは、ただ一つ。
**「あいつらを、俺と同じ目に遭わせたい」**という、泥黒い執念だけだ。
勇者(笑)の終わり
ユウキは、折れた鉄杭と、スライムの死骸から集めた粘液の残り、そして森で拾い集めた「毒を持つ植物」を、執念深く石で磨り潰し始めた。
「勇者? 世界を救う? 笑わせんなよ……」
ユウキの目は、かつてのオタク少年のような輝きを失い、代わりに獲物を狙う獣のような鋭さが宿っていた。
5回負けて、学んだことがある。
あいつらは速い。あいつらは賢い。
なら、正面から戦うなんて馬鹿のすることだ。
レベル0の人間が、レベル1以上の化け物に勝つには、**「人間をやめる」**しかない。
逆襲の準備
ユウキは自分の腕に、あえて浅くナイフを入れた。
溢れ出す血。その匂いに誘われて、洞窟の入り口から「ギチギチ」と歯ぎしりの音が近づいてくる。
「……来いよ。今日は5回分の『お返し』をしてやるから」
ユウキは暗闇の中で、不敵に笑った。
その手には、自らの血とスライムの酸、そして猛毒を塗りたくった「えげつない罠」が握られている。
正義も、慈悲も、ここにはない。
あるのは、一人の男が「暇つぶし」を捨てて、「狂気」に身を投げた瞬間だけだった




