狂乱の牙:全然可愛くない「化け物ウサギ」
村に戻ったユウキを待っていたのは、賞賛の声ではなく「呆れ」だった。
ボロボロの腕を引きずり、スライムの核を証拠として差し出しても、村人たちは「たかがスライム一匹に、そこまで無様になるのか」と鼻で笑うだけだ。
信頼はまだ、地の底にある。
「……いいさ。お前らに認めてもらうためにやってるんじゃねぇ」
ユウキは師匠の小屋で、左腕に汚い包帯を巻きながら、スライムが落とした「石」を差し出した。
老猟師はそれを見るなり、顔をしかめた。
「小僧、運がいいんだか悪いんだか……。そいつは『魔素の塊』だ。これが森に落ちてるってことは、生態系が狂い始めてる。次は、もっと『食い気』の強い奴が来るぞ」
遭遇:森の死神
数日後。怪我も癒えぬまま、ユウキは森の異変を調査するために、さらに奥へと足を踏み入れた。
そこで見たのは、アニメでよく見る「可愛いウサギ」とは似ても似似つかない、化け物の群れだった。
体長は1メートルを超え、毛並みはどぶ鼠のように汚れ、何よりその口からは、鋭い乱杭歯が剥き出しになっている。
目は赤く血走り、鼻先からは絶えず腐肉の臭いが漂っていた。
「……嘘だろ。ウサギって、あんなに牙があるもんかよ」
ユウキが後退りした瞬間、ウサギの一匹が信じられない脚力で地を蹴った。
シュンッ、という風を切る音。
「が……っあ?!」
回避が間に合わない。
ユウキの頬を、ウサギの鋭い爪が切り裂いた。
速い。スライムのような鈍重さは微塵もない。
一匹が動けば、周囲に潜んでいた十数匹の「化け物ウサギ」が一斉に赤い目を光らせた。
武器なき逃走
「クソッ、囲まれた……!」
自作の槍を構えるが、相手のスピードに目が追いつかない。
一匹がユウキの肩に飛びつき、肉を食い破ろうと牙を立てる。
「痛ぇっ!! 離せ、この……っ!」
ユウキは無我夢中でウサギを振り払い、森の斜面を転がり落ちた。
背後からは、ウサギたちが立てる「ギチギチ」という不気味な歯ぎしりの音が、波のように押し寄せてくる。
レベル0。
スライム一匹を倒した程度で「強くなった」と錯覚していた自分を、異世界の牙が嘲笑っていた。
「……あいつら、絶対許さねぇ。……次は、逃げねぇぞ」
泥を啜りながら、ユウキは逃げ延びた先で、折れた自作の槍を握りしめた。
スピードに対抗するには、ただの筋トレじゃ足りない。
**「武器に工夫」**が必要だ。




