レベル0の証明、泥まみれの初勝利
三度目となる対峙。森の奥、腐った異臭を放つ巨大な青い塊――スライムを前に、ユウキは不敵に笑った。
かつての恐怖はない。一ヶ月間、血を吐くような思いで薪を割り続け、重い土嚢を背負って走り抜いた足腰が、地面をしっかりと踏みしめている。
手にあるのは、師匠から譲り受けた一本の重い鉄杭。そして、腰にぶら下げた数本の自作の投擲用ナイフ。
「アニメの勇者ならかっこよく魔法でドカンなんだろうけどな。……あいにく、俺はこれが精一杯なんだ」
執念の攻略
スライムが震え、前兆なく粘液を噴射する。
以前のユウキなら、足がすくんでまともに食らっていただろう。
だが、今のユウキは違う。
「遅い……ッ!」
薪割りで鍛えた反射神経が、最小限の動きで酸を回避させる。
ユウキは懐へ飛び込み、あえてスライムのぶよぶよした体の中に、左腕ごと鉄杭を突き刺した。
「ぎ、あああああッ!!」
左腕の袖がジュウジュウと溶け、皮膚が焼ける。激痛が脳を揺さぶる。
だが、ユウキは手を離さない。
スライムの体内に潜む、核。それを、薪を割る時と同じく、一番力の伝わる一点――「芯」で捉えた。
「死ねッ!!」
渾身の力で杭を捻り、押し込む。
その瞬間、巨大な青い質量が、内側から弾けるように霧散した。
勝利の代償
どさりと、ユウキはその場に膝をついた。
周囲にはスライムだった粘液が散らばり、ユウキの左腕は無残な火傷と、溶けた服でボロボロだ。
「……はは、勝った。……勝ったぞ、クソッタレが」
初めて自分の力で掴み取った、泥まみれの勝利。
しかし、期待していたファンファーレも、レベルアップの音も聞こえない。
「……ステータス、オープン」
虚空に浮かぶはずのないウィンドウを、心で念じる。
分かっている。自分はまだ、レベル0だ。
一ヶ月間死ぬ気で努力して、命を懸けてようやくスライム一匹。
異世界ハーレムアニメの主人公なら、鼻歌まじりに一瞬で終わらせるような雑魚に、自分は全力を使い果たした。
「……たかが、一匹かよ」
ユウキはボロボロの腕を抱え、泣き笑いのような表情で空を仰いだ。
勝利の喜びよりも、これから先の道のりの遠さに、気が遠くなる。
だが、その目には確かな火が灯っていた。
「レベル0だろうがなんだろうが……俺は、俺のやり方で進んでやる」
ユウキは、スライムがいた場所に落ちていた、奇妙に光る小さな石を拾い上げた。
それが、次の**「全然可愛くない化け物ウサギ」**への、地獄の切符になるとも知らずに。




