「暇つぶし」の終わりと、地獄の門
川面に映る自分の顔は、ひどい有様だった。
煤で汚れ、強酸の飛沫で焼かれ、情熱なんて欠片もない、ただの負け犬の顔。
「……はは、なんだよこれ。全然かっこよくねぇ……」
ユウキは泥水を吐き出し、立ち上がった。
頭の中にはまだ、アニメで見た『覚醒シーン』の残像がある。絶体絶命の瞬間に、光り輝く剣を手にして逆転するあの光景。
だが、現実は冷酷だ。
右腕の火傷はズキズキと痛み、自作の武器はゴミ同然に壊された。
知恵があれば勝てる? 現代知識があれば無双できる?
そんなのは、この世界の過酷さを知らない「オタクの妄想」に過ぎなかったのだ。
「……あいつに、勝たなきゃ」
今のユウキを動かしているのは、もはや正義感でも「暇つぶし」でもなかった。
自分を嘲笑った村人への見返し。そして何より、理想と現実のギャップに打ちのめされた自分自身への、猛烈な怒りだった。
捨てたプライド
ユウキが向かったのは、村外れの古びた小屋だった。
そこに住んでいるのは、かつてこの周辺を縄張りにしていたという、偏屈な老猟師だ。
「おい、ジジイ……。いや、師匠」
ユウキは小屋の前に立つ老人の足元に、迷わず頭を下げた。
地面の冷たい土が額に触れる。
「俺に、殺し方を教えてくれ。あいつを……あのスライムを殺すための、本当の力を」
老人は、手に持った酒瓶を傾けながら、鼻で笑った。
「レベル0の小僧が、何を言いやがる。武器の振り方も知らねぇ、足腰もガクガクのナマクラが」
「分かってる! 俺が弱いのなんて、嫌というほど分かったよ! だから……」
ユウキは顔を上げ、赤く充血した目で老人を睨みつけた。
「……死ぬ気でやる。暇すぎて勇者を目指した俺だけど、今は……あいつを倒さないと、死ぬより退屈なんだよ」
地獄の始まり
老猟師は、ユウキの目の中に宿った「執念」を数秒間見つめ、ため息をついた。
「明日から夜明け前にここへ来い。まずは、そのひょろひょろの体を壊して作り直す」
翌日から、ユウキの本当の地獄が始まった。
武器を作る時間は与えられなかった。
朝から晩まで、村の広場を重い土嚢を背負って走り込み、一日に千回の薪割りを命じられた。
手の豆は何度も潰れて、皮が剥け、血で斧の柄が滑る。
それでも、ユウキは止めなかった。
「……まだだ。まだ、あのアニメの主人公みたいに……いや、俺は俺の、泥臭い勇者になってやる……!」
ユウキのステータス画面は、いまだに「レベル0」のままだ。
だが、その数字には現れない「殺気」と「筋力」が、少しずつ、確実に宿り始めていた。




