泥沼のリベンジ:知恵すら通じない現実
「よし……これならいけるはずだ」
ユウキは、村の鍛冶屋の裏からくすねてきた錆びた鉄の棒を、焚き火で熱して叩き伸ばした。
形は不格好だが、先端は凶器といえるほど鋭い。さらに、村の食堂から「掃除するから」と嘘をついて貰い受けた廃油を、古い布に染み込ませて巻き付けた。
即席の**『火炎発火槍』**だ。
「アニメの主人公なら聖剣を抜くところだけど、今の俺にはこれが精一杯の『魔剣』だよ」
ユウキは火傷の跡が残る右腕をさすりながら、再び森の奥へと足を踏み入れた。
目的はただ一つ。あの巨大スライムを焼き尽くすことだ。
遭遇:二度目の対峙
「……いた」
前より一回り大きくなったような気がする青い質量。
スライムは相変わらず、周囲の草を溶かしながら、ぶよぶよと蠢いている。
「食らえ……ッ!」
ユウキは槍の先に火を灯し、全力で突進した。
オレンジ色の炎が、スライムの体表を焦がす。シュウウッという嫌な音とともに、鼻を突く悪臭が漂った。
「効いてる……! いけるぞ!」
ユウキは確信した。現代の知識、火の力。これこそが攻略法だと。
しかし、その慢心が仇となった。
絶望:想定外の反撃
スライムは熱を嫌がり、体を激しく震わせた。
その瞬間、体内の粘液が**「全方位に噴射」**されたのだ。
「う、わあああっ?!」
火のついた槍は、飛んできた大量の粘液によって一瞬で鎮火。
それどころか、ユウキの全身に強酸の飛沫が降り注ぐ。
服が溶け、肌を焼くような激痛が走る。
「熱い、痛い……! なんだよ、火をつけたら爆発するとかじゃないのかよ!」
ユウキは必死に地面を転がり、火を消そうとしたが、スライムは逃がしてくれない。
巨大な体がユウキの上に覆い被さろうと、影が迫る。
「……っ、クソがぁ!!」
ユウキは武器を捨て、無我夢中で森の中を転がり落ちた。
背後で、木々がスライムに押し潰されるメキメキという音が響く。
敗北:レベル0の限界
再び川原に辿り着いたユウキは、ボロボロになった自分の姿を見て、笑いが込み上げてきた。
「……はは、武器作ってもダメかよ。俺、天才じゃないしな」
武器は折れ、油は使い切り、体は傷だらけ。
村に戻れば、また「あの無能がまた無様に逃げてきた」と嘲笑されるだろう。
知恵を絞れば勝てると思っていた。でも、今のユウキには、その知恵を形にする「技術」も、ピンチを切り抜ける「身体能力」も、圧倒的に足りていなかったのだ。
「……暇つぶしで勇者なんて、無理ゲーすぎるだろ……」
ユウキは、冷たい川の水を火傷した顔に浴びせながら、真っ赤な目で空を睨んだ。
悔しくて、涙が出る。
でも、その目にはまだ、「諦める」という文字は浮かんでいなかった。




