異世界転生・理想と現実の境界線
「……ステータス、オープン」
ユウキは何度目かもわからない言葉を、虚空に向かってつぶやいた。しかし、目の前に半透明のウィンドウが現れることはない。鳥のさえずりと、湿った土の匂いがするだけだ。
「おい、ユウキ! いつまで変なポーズで固まってるんだ。さっさと薪を運べ!」
村の男の怒声が飛ぶ。ユウキは力なく腕を下ろした。
転生して一週間。アニメで見た「チート能力」も「美少女の導き」も、何一つとして現れなかった。
「……おかしいだろ。異世界転生だぞ? 聖剣とか、賢者の弟子とか、せめて初期魔法くらいあってもいいじゃんか」
ユウキは地面にひっくり返った。
最初は「隠された力が目覚めるはずだ」と期待して、村外れの森でかっこいい呪文を叫んでみた。だが、何も起きない。レベルは「0」。筋力も魔力も、元の世界の引きこもり生活でなまりきったままだ。
一週間、ふて腐れて寝て過ごした。だが、この世界にはコンビニもネットも、面白いアニメもない。
あまりにも……暇すぎた。
「……やるか、勇者」
ユウキはむくりと起き上がった。
「待ってても誰も助けてくれないなら、自分で『勇者』になるしかねぇ。アニメの主人公みたいにはいかないけど……まずは、このなまりきった体を変えるところからだ」
第一の試練:武器作りと筋トレ
ユウキは村のゴミ捨て場から、折れたクワの柄と、鋭利な石を拾ってきた。
紐で必死に縛り付け、不格好な「石の斧」を作る。手がマメだらけになり、皮がむけて血がにじむ。
「痛ってぇ……。あいつら、なんで無傷で武器作れるんだよ」
愚痴をこぼしながらも、ユウキは毎日、村の裏山で素振りを始めた。
10回振るだけで息が切れる。筋肉痛で翌日は動けない。
村人たちは「ニートが狂った」と冷ややかな視線を送る。信頼など、微塵もない。
そうして一ヶ月が過ぎた頃。
ユウキの腕に、少しだけ硬い筋肉がついた。
遭遇:巨大スライム
ある日、森の奥で「それ」に出会った。
アニメなら可愛く跳ねているはずの、青い塊。
だが、目の前にいるのは軽自動車ほどの大きさがある、ぶよぶよとした怪物の塊だった。
「ひっ……!」
ユウキの足がすくむ。
スライムが震えるたび、周囲の草木がその酸で溶け、嫌な音を立てる。
「おいおい、あんなの聞いてないぞ……。全然可愛くない……!」
ユウキは震える手で、自作の石斧を握りしめた。
レベル0。仲間なし。武器は石ころ。
ユウキの、本当の意味での「異世界生活」が、ここから始まった。




