表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

3話「半間ニナは社会ってヤツを知る」

 会議室は静かだった。


 壁にかけられているポスター。

 パワハラ撲滅キャンペーン。

 上司に怒鳴られている部下のイラスト。

 ああ、まるであれは数分先の私だ。

 この会議室に入った時にはそう思っていた。


 怒号も、叱責もない。


 ただ、プロジェクターに映る数値だけが淡々と並んでいる。


「半間ニナ。社員番号AL-2061。以下、評価詳細について」


 上司の声は抑揚がない。


 グラフが表示される。

 成功率、判断速度、命令順守。


 そして、赤い文字。


 命令逸脱、一件。


 ニナは背筋を伸ばす。


 降格、減給、異動。

 もしかしたら、──処理。


 しかし、高なる鼓動を整える前に、それが淡々と表示される。


「総合評価:B」


 評価:等級に与えられた職務通りに遂行したと評価。

 懸念事項:精神負荷、長時間労働による判断ミスあり。


「‥‥え?」


 思わず声が漏れる。


 てっきり最低評価が来ると思っていた。

 だが、モニターに表示された評価はB。

 つまりは、普通評価。

 あれだけのミスをしたというのに、特にお咎めなしということだ。


 上司は視線すら向けない。


「直近三ヶ月の稼働時間は基準値を超過。等級を超えた高スキル案件の指揮。統計上は想定内だ」


 統計、想定内。


「処分はありませんか」


 自分でも驚くほど率直な問いだった。


「ない」


 即答だった。


「で、でも、取り逃した目撃者については──」

「インターネット、マスコミへの情報工作は別課のスコープだ。うちの課に目撃者ゼロを掲げるKPIはない」

「そう、ですか‥‥」


 それだけだった。

 怒られない。叱責もされない。


 ただ、データとして処理される。


「ただし」


 モニターに新しい項目が表示される。


 今期昇格候補、除外。

 重要案件アクセス権、一時停止。


「休養を推奨する。産業医の面談を受けろ」


 会議は五分もかからなかった。


夜。


 帰宅途中、繁華街のネオンが滲む。


 いつものように騒がしい街並み。


 こんな時間から呑みあける大学生グループ。

 帰路を一目散に目指す会社員。

 ‥‥ビルの入り口に立っている何をしているかよくわからない人。


 誰も、この社会に魔物がいるなんてこれっぽっちも頭にないのだろう。


 結局、ニナがしたミスなんて、大した影響はないのかもしれない。


 半間ニナは


「一時的な不良品」


 として処理された。


 長袖で歩くには少し汗ばむくらいの気温。

 袖を捲った際に、スマートデバイスの腕時計に通知が届くのが見えた。


『人事部より。メンタルヘルス支援プログラムのご案内』


 怒られた方が、まだ良かった。

 少なくとも感情があった。

 ちゃんと話し合えば分かり合えるかもしれない、と。


 だが、そんなことを弁明する機会もなく、全てが機械的に処理された。

 ログには記録された。

 だが、感情だけがどこにも保存されていない。


「私の感覚がおかしいのか。それともこの社会がバグっているのか」


 答えるものはいない。


 ただ、街の喧騒だけが続いている。

 遠くで、鈴の音が鳴った気がした。


ちりん。


 ニナの心臓が、嫌な鼓動を打つ。

 腕時計がしきりにバイブレーションを波打つ。


『緊急事態発生。警戒区域外で魔力反応感知』


 ニナは通知を確認する。


『参集可能な社員は至急現場へ急行せよ』

見ていただきありがどうございます。


ブックマーク、感想、レビューいただけると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ