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1話「半間ニナは諜報軍」

数ある作品の中から興味を持っていただきありがとうございます。

ぜひご覧ください!

「速やかに処理しろ」


 耳に装着したイヤーピースから命令が下される。

 半間ニナは一瞬、言葉の意味を測りかねた。


 目の前には恐怖で動けない女子高生。

 その背後で魔物がビルの外壁を抉っている。


「──それは、魔物を処理しろ、ということでしょうか?」


 確認する声が僅かに震える。

 しかし、耳に響く上司の声は驚くほど冷静だった。


「違う。諜報軍(おまえ)の仕事は魔物討伐じゃない。──『目撃者』を速やかに処理しろ」


 守るべきは、市民か。

 ──それとも、『秘密』か。


 半間ニナは引き金に手をかけた。


 数十分前。


祓魔ふつま軍、突入してください」


 ニナはタブレットを操作しながら淡々と指示を出す。


 雑居ビルへと隊員たちが流れ込む。

 肩には日本貿易会社のロゴマーク。


「目標はカルト信者。魔物召喚の疑いがあります。見つけ次第確保ください」


 今回が初の単独指揮。

 二十五の若手に丸投げするくらいには人手が足りていないのだろう。


「緊張しているか?」


 背後から声。

 振り向くと祓魔軍の鈴木が立っていた。


「‥‥大丈夫です。計画通りに進めるだけです」


 緊張を押し殺すようにタブレットを握りしめる。


「はっ、計画通りに行く現場なんてねぇよ」

「その計画のためにこっちは休日出勤してるんだけど」とは口が裂けても言えなかった。


 ニナはふぅと息を吐きながら、腕時計を見る。

 予定時刻は過ぎている。


 報告が、ない。


「‥‥遅いですね」

「貸せ」


 鈴木がイヤーピースを奪う。


「突入部隊、状況を報告しろ」


 しかし、返答はない。

 鈴木と目を見合わせる。


「ちょっと様子を見てくる」

「‥‥承知しました。お願いします」


 ニナはビルを見上げる。

 外からは異変は見えない。


 心臓の鼓動だけが聞こえている。


 と、イヤーピースからザッとノイズが響く。


「──しろ」

「? 鈴木隊長、もう一度お願いします」

「魔物が召喚された! 至急周辺を封鎖し──」


 次の瞬間。


 ビルの上階から物が弾け飛ぶ音が響く。

 黒い影が落下する。


 地面に叩きつけられたそれはかつて鈴木であったものだった。

 体は食いちぎられたように抉れている。

 そして、彼を食いちぎった捕食者が続けて地面に着地する。


「あ──」


 それは、魔物だった。


 瞬間、ニナの体は警鐘を鳴らす。

 だが、それは自身の命の危険、つまりは魔物がニナを襲うということに対する警告ではなかった。


「え、なにあれ?」


 異変に気づいた通行人が足を止める。

 スマホを構えると、ポンッという間抜けな音を鳴らしながらレンズをこちらへと向ける。


 そう、怖いのは魔物じゃない。


「待って! スマホを置いて!」


 ニナは立ち塞がるように通行人を手で制す。


 それは、絶対に防がなければならない。


「ちょっと触んないで! あんたなに?」

「いいから! お願いだからスマホをしまって!」


 この現代社会に、実は異世界から魔物が召喚されていました、なんてことが知れ渡ったらどうなるか。


 株価暴落、暴動、都市封鎖、この社会が築いた基盤が根本から覆ることになる。


 だからこそ半間ニナはここに立っている。

 この現代社会に召喚されるようになった魔物を一般人から秘匿するために。


 そして、何より──


「ハァ、ハァ。ど、どうしよう。このままじゃ評価ログに──」


 任務失敗、評価低下、降格処理。

 ニナが築き上げてきたキャリアが崩れ去ってしまう。


 だが、そんな思いも無情に、ニナたちの目の前を魔物の爪が横切る。


「きゃあー!!」


 コンクリートの地面は抉れ、遅れて衝撃波がニナたちを襲う。


「とにかく対応をしないと」


 ニナは震える指でイヤーピースを叩く。

 なんとかなれと、願うように声をひねりだす。


「本部、緊急事態です。魔物が市街地に召喚されました。目撃者あり。至急増援を──」


 だが、それはマニュアルの一貫とでも言うように、淡々と下されたのだった。


「──速やかに処理しろ」



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