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ハッピーエンドを迎えた映画のエンドロール

作者: 明日朝明日
掲載日:2026/01/08

気がつくと、僕は映画館の座席に座っていた。


いつからここにいるのかはわからない。

ポップコーンもないし、ひそひそ声も聞こえない。

スクリーン上には、物語を終えた映画の温かな余韻だけが残っていた。


その映画の主人公は、昨日も今日も明日も、自らの大切なものを守って守り抜いて、悲劇を起こさず、世界は明日へと進んでいく。

劇的な展開や悲劇的なドラマは起こらずに、どこにでもある幸福なハッピーエンドだった。


そして、エンドロールが流れはじめる。


僕はキャストの名前を見て、目を疑った。

そこに並ぶのは、見覚えのある名前だった。

両親、友だち、同僚、最近何年も会っていない人まで書かれていた。


そうだ。そうだった。


僕は、この映画を知っていた。覚えていた。

これは、僕の人生だった。


そう思ったとき、胸が痛むとも、凪ぐとも呼べぬものに包まれた。

僕は死んだんだ。


なぜ思い出せなかったのかが、思い出せないほどに自然に、当たり前に、それを受け入れることができた。


そのとき、前の列のお客さんが立ち上がって、無言で出口へ消えていった。

別の列の人も、後ろの席の人も同じように、皆、途中で、惜しむ様子もなく、満足げな笑顔で立ち去った。


不思議だったが、たしかに面白みのない映画だ。


やがて客席はほとんどいなくなり、隣に座る女の子だけが残った。

その子は泣いていた。


「どうしたの」と聞こうとした。心配だった。

でも言葉に詰まった。


なぜだか、彼女は僕を見て笑った。


「ありがとう」


それだけ言って、立ち去った。

出口へ立つとき、振り返って深々と頭を下げた。


そのとき、記憶がすべて戻った。


炎や煙に包まれた建物。

崩れ落ちて崩壊する天井。

泣き叫ぶ少女を腕に抱えて、階段を駆け下りた感覚。


僕は消防隊員だった。

あの子は、あのとき助けた子だった。


スクリーンに目を戻す。


エンドロールのあとに、少し映像が流れる。

交通事故から引き上げた男性。

溺れかえっていた少年。

煙の中で、ゆっくり手を引いた年配の女性。


それは全員、座って映画を見ていた人たちだった。

みんな、僕が助けた人たちだった。


スクリーンが暗転する。

もうすぐ終わる、僕の映画が。


しかし、悔いがないと言うと嘘になる。

それでも、この映画はハッピーエンドだと言えると思った。


そして最後に、白い文字が浮かんだ。


続編制作決定


まだ照明は点かない。

非常口の灯りがともる。

後ろを向くと、出口が開いている。


僕は、まだ席に座れている。


この映画が終わったのか、

それとも、次の物語が始まるのか。


それは、まだわからなかった。


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