また来世で
人は、最期に何を願うのだろう。
愛されたいのか。自由が欲しいのか。それとも、誰かと一緒にいたいなのか。
ここに、ふたりの少女がいた。
ひとりは、檻の中で生きることを強いられた子。
もうひとりは、その子を救おうとすべてを捨てた子。
これは、未来も希望も奪われた世界で、それでも”一緒にいたい”と願った、ふたりの最後の物語。
終わりの中に生まれた、ほんの一瞬の救い。
たとえそれが死であっても、ふたりにとってそれは──永遠の幸せのようだった。
闇に包まれた研究所の奥深く、ひとりの少女が血だらけのベッドに静かに横たわっていた。名をミズキといった。
彼女は人の命を弄ぶ、非道な実験の被験者だった。薬物注入、臓器改造…。幾度も繰り返される地獄のような日々に、ミズキの身体は既に限界に近づいていた。実験のせいで時折咳と共に血を吐いていた。
そんな彼女を、たったひとり救い出そうとした少女がいた。名前はひな。
かつてミズキと同じ孤児院で育った、唯一無二の親友であり、きっと、初めて「好き」になった人だった。
ひなはひとりで研究所に忍び込み、夜陰に紛れて施設に放火した。警報が鳴り響き、警備が錯乱する中、彼女はミズキと一緒に走って逃げ出した。火の粉が舞い、瓦礫が落ちる。だが、ひなは決して手を離さなかった。
追ってきた研究員が最後の力を振り絞り、銃を撃った。乾いた音が夜空に幾度か鳴り響く。
弾丸はミズキを庇ったひなの背を何発も貫いた。それでも彼女は走り続けた。崩れかけた裏口から外へ出たとき、ふたりの体力はすでに限界だった。
森のはずれの静かな場所にたどり着くと、ひなとミズキはゆっくりと腰を地面に降ろした。
そこはかつて一緒に育った孤児院だった。廃墟になり、誰も寄り付かない。建物にはツタや草が絡んでいた。ミズキは吐血しながら、震える手でひなの頬に触れる。
「……ありがとう、ひな……私……こんなふうに死ねるなんて、思ってなかった」
ミズキの瞳には、涙と微笑みが浮かんでいた。
長い苦しみの果てに得た、たったひとときの安らぎ。ひなの腕の中で、ぬくもりを感じながら逝けることが、彼女にとっては救いだった。
「せっかく……またミズキと一緒になれたのに………でも、私も一緒にいくよ。私も、もう無理みたい…」
ひなもまた、鮮血に染まりながらミズキの手を握る。冷たくなっていく身体。
朦朧とした意識の中、ふたりは互いを見つめた。
「また、来世で──」
ふたりの唇が、同時にその言葉を紡いだ。
そして静かに、静かに、ふたりの命は夜の闇へと溶けていった。
焼け落ちた研究所の煙が空へと昇る、ふたりの少女はその苦しみからようやく解放された。
──誰も知らない森の片隅で、
ふたりだけの最期が、静かに終わりを迎えた。
2人はまだ、あの場所で静かに手を繋いでいる。
最後までお目通しいただきありがとうございました。
この物語は頑張って頑張って得た結果が望んだような素晴らしく、輝かしいものではなく落胆してしまうようなものでもその時にできる最善の結果は望んだ形にならなくてもいい結果にだけはなる、という意味を少しだけ込めました。報われない努力だってある、人生はそんなに簡単な造りではない、うまくいくものではない、そんなことを思うことは幾度かあったのではないでしょうか。頑張ったのに、努力したのに望まぬ形になってしまった、けれど、望まぬ形でも幸せになる方法はいくらでもある、望まぬ形だったからって諦める理由にならない。そう思えるようになると少し楽になると思うんです。これを読み、考え方の1つとして加えていただければと思います。