表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結/書籍化】騎士の夫に隠し子がいたので離婚して全力で逃げ切ります〜今更執着されても強力な味方がいますので!〜  作者: 凛蓮月
リリアちゃんの番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/63

書籍発売記念/この手に残らなかったもの

 

「じゃあ、行ってくる」


 俯くリリアの頭にそっと手を乗せ、温かみを感じたところですぐに離した。

 このままここにいれば離れがたくなりそうだから。


 少し前までは笑顔だったリリアも、段々とそれが消えていた。

 奪ったのは俺だ。そうさせたのは俺だ。

 逃げ続けて考えなしに動いた結果、大切な存在を失い、得るはずだった幸せを逃し、重くのしかかる責任と罪悪感だけが残った。


「リリアちゃん、パパにご挨拶は?」

「……」


 俯いたままのリリアは、家から持ってきていたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、ますます俯いてしまった。これはシーラにリリアの存在を知られたあの日に買ったものだ。

 頑なに話そうとしないリリアに、孤児院のシスターは途方に暮れた表情を浮かべた。


「すみません。また来ます。……この子をお願いします」

「ええ。お気を付けて」


 微動だにしないリリアに後ろ髪が引かれるが、将来せめて普通になれるように今のうちから稼いでおかないといけない、と、ぐっと拳を握りしめる。

 リリアからすれば、わけもわからないうちに父親に捨てられ、母親はいなくなり、故郷から遠く離れた孤児院に預けられてしまった。温かな家はなくなり、幸せから一転してしまったのだ。

 その一因となった自分は、せめてこれ以上悲しませることがないようにするしかできない。

 寂しい思いをさせてしまうのは重々承知しているが、今のうちに稼いでおかないと学び舎に行き始めたときにあっという間に足りなくなってしまう。

 両親が揃った子や、瑕疵なくひとり親になった周りの子らと比べて遜色ないようにしないといけない。

 リリアだけ教科書がなかったら──

 親がいじめの原因になるなんて、と苦いものを呑み込む。


 リリアが私生児でなければ夜は一緒にいて休日は──なんて感傷に浸る資格はない。

 リリアを私生児として誕生させたのは俺なのだから。


 自分のしてきたことが、子どもを苦しめている。

 そんなつもりはなかった、なんて言い訳でしかない。

 リリアには寂しい思いをさせ、我慢を強いている。

 さらに言えば、家族になるはずだったシーラの子に会うこともできない。

 もしも、あの子と一緒に暮らせていたら……

 俺にそっくりな子だった。男の子の名前だった。

 ぱぱと泣き叫び、裁定員にしがみついた姿を思い出して顔が歪む。

 本当ならば、剣の相手をして、基礎体力作りをして、シーラに呆れられながら泥だらけになってはしゃいで──


「……夢だな」


 泥まみれで剣を振るう俺は孤独だ。

 全てこの手からこぼれ落ちていった。

 本当は、全て手に入れていたはずなのに、気づけば全てを失った。


 シーラとあの子との未来も、リリアの笑顔も、全てこぼれてしまった。

 どこかで引き返していたら今とは違う未来を得られたかもしれない。

 シーラと離婚しなければ、シーラをちゃんと愛していれば、一時の気の迷いでシアラに靡かなければ──


 いくつものたらればが浮かんでは苛んでいく。

 故郷にも帰れない。行ける場所なんかない。


 シーラと住んでいた王都の住まいは手放さざるをえなかった。

 少しずつ二人で集めた家具も売り払ってしまった。


『ここに貴族が使うようなソファを置こうぜ』

『えー、くつろげなくない?』

『シーラがいればどこででもくつろげるよ』


 不意打ちを受けた彼女はぷくっと頬を膨らませ、照れたようにウェーブの髪をいじる。

 実際にソファが届くと、座り心地を確かめて満足そうに上機嫌になっていた。


 暖かい日はそのソファで微睡み、寒い日はブランケットをかけて、お気に入りのカップに温かい飲み物を注いで本を読んだりしていた。

 いつか、シーラの手の中には本ではなく、俺との子を抱いてあやして、その光景を微睡みながら見て──なんて、思っていたのに。


 結局俺は誰一人守れなかった。

 愛していたはずの女も、誕生を喜んだはずの娘も、誰一人、幸せにできなかった。


 騎士になった理由も、最初に目指した目標も、この手で握り潰したのは自分自身だ。

 感謝を忘れ、驕り、調子に乗った挙句シーラは冷たい目をして去っていった。

 それだけではなく、彼女を愛し守る男と再婚してしまった。

 俺にそっくりな子は、俺ではない男をパパと呼んだ。


 そう、させたのは、俺自身だ──


 だから、せめてまだ俺を父と思ってくれているだろうリリアだけは……


 ぬいぐるみを抱いて俯くリリアを思い出す。

 寂しい、とも、行くな、とも言わない、小さな子。

 どうすれば、また笑ってくれるだろうか。


 いつかは、一緒に暮らせるようになるだろうか。

 この手からこぼれてしまっても、また、やり直せるときがくるだろうか。


 ぐっ、と拳の中にあるお守りとして残した剣帯の破片を握り締める。

 もう加護はなくなってしまった。

 けれど、これに縋っていくしかない。


 いつの日か、また笑顔が見れるように。

 せめて、俺の血を引く子らが、安心して暮らせるように。



 自分にできることを、やっていくしかない。


アオイ冬子様の描かれたとても素敵な書影が出ましたので、もう一つ番外編をお届けいたします。

下へスクロールしていただきますと、書影をご覧いただけます。

タイトルはツギクルブックス様の公式サイトへ繋がっています。

表紙にも同じくリンクと画像を添付しています。

こちらのリオンを見て着想いたしました。

キャラクター紹介の口絵や挿絵、どのイラストも大変に素晴らしいので、ぜひご覧ください!

現在、おかげさまで好評をいただきまして、楽天ブックスでは在庫切れになっているようです。

Amazonなどの他のサイトでは在庫表示はされていないので、まだ予約は間に合うかな、と思います。

既に通販や書店でご予約済みの皆様、ありがとうございます!

発売まで今しばらくお待ちください。

また、以下のサイトで試し読みもできるようです。

購入を検討中の方もご覧ください。


https://ul.sbcr.jp/TK-TWC4z


現在XでRPキャンペーンなども開催中ですので、公式ホームページやツギクル様のアカウントを覗いてみてくださいね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
自分のことを一因としか思ってないとか、本当なら全て手に入れていたはずと思ってるとかが、さすがあんまり改心がすすんでませんねえ。 そんな数年で劇的に改心がすすむような人間なら、こんなことになるまでやっち…
今更です 尽くして愛してくれたシーラを蔑ろにして、都合良く使い続け 自分に都合良いシアラに手を出し、シーラが望んでいた子供をシアラとの間に作って2重家族して シーラとは勿論、シアラとリリアとの家庭も、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ