6話 巨大マンモス校
校舎に入ると、中に待っていたのは巨大な門。玄関だろうか、中に続くのは数多の上に続く大階段、往来する幾多の人間。それは生徒もいれば教員などもいる。生徒のマントは白や黒なのでおそらく上級生が先に入学式の準備などで移動しているのだろう。アンジェリーナとソフィリアの二人を見ている上級生がこちらに一瞥を送っているのが一部見える。なんだか注目されているようでソフィリアはおどおどし始めていた。その間、アンジェリーナは上級生を見て興奮していたようで。
「見てみてソフィちゃん!上級生の人たちね・・・!きっとすごい実力者ぞろいなんだろうなぁ」
「は、早くいきませんか・・・?すごく見られてます、お、怒られるんじゃ・・・」
「なんでよ、まぁ早くいくのは賛成ね。もうチャイムなっちゃってるから遅いけど」
アンジェリーナはため息をつきながら玄関横にある教室の割り振り表を見上げる。
ソフィリアとアンジェリーナは同じクラスのB組だった。そのまま2人はB組の教室を目指す。
ソフィリアがバスで見ていた限り、一年生の棟はこの校舎では少なくともなかったはずだ。玄関もある中央区はあくまでアリーナやクラブ活動で使われる施設、教員の職員室など、教室関係はなかった。上空から見たとして中央区の右にあるのが一年生専用の棟。奥が二年。そして中央区の左に三年、その奥に四年。そのさらに中央奥、中央広場を抜けていった先にあるのが5、6年生の棟となる。この二つの学年のみ校舎は一体化しておりその分大きさも計り知れないものとなる。
おそらくこの二学年だけ一体化しているのは年によって退学者が増減するため。人数が少なくなると校舎にも空きが出るためあらかじめこうやって一括りにしているらしい。ただ校舎自体は他学生の校舎とは別格の大きさとなっている。
バスの中と家でこの構図を見たときは鳥肌と不安が止まらなかったものだ。
『あの暗そうな子六年生なんですって』
『あんな奴でも六年生に進級できるんだな』
『し、聞こえるぞ。可哀そうだろ』
『でもあんな人が先輩ってちょっと・・・。どうしてあんな立派な建物で勉強することを許されてるのかわからないな』
「ああああぁぁぁああ」
「ソフィちゃん!?大丈夫?!急にマナ中毒になった人みたいになってるけど・・・!」
「は、すみません。未来の自分を想像すると身震いが・・・」
「?。未来のことまで見据えてるのね、さすがねソフィちゃん」
「・・・・いきましょう」
まずはこの中央区からでなければ話にならない。確かこの大玄関から出ると右に長い渡り廊下があったはずだ。化学準備室の奥に階段があり、そこをのぼると連絡橋がある。そこをつたっていくと右の一年生棟に到達できる。
「こっちです」
「わかった!」
ソフィリアの案内のもとアンジェリーナも後に続く。大勢の生徒と教職員の姿はなく、どこかへと忽然と消えていた。声を掛けられたら完全に頭が真っ白になっていたと思うのでありがたい。だが、となりに世間渡りが上手な娘がいるのであれば、対話は彼女に任せて一人教室に行くのも手だ。
なんて最低なことを考えていると一人の教職員とが二人の前を通り過ぎる。
見た目は茶色っ毛の髪でセンターパート風の髪形が似合う青年ぽい先生だった。リュックのようなものを肩に背負っている。よほど大事なものなのか両手でリュックの肩掛けを握りしめて過ぎ去る。軽く会釈を交わしたが特に何か言われることはなかった。
「今の先生だよね?」
「うん、先生だと思う。怒られるかと思った・・・」
「だね、あっちも結構急いでたみたいだしあたしたちも急ごう」
見逃してもらえたと捉えてここは先を急ぐ。
階段が見えてきた。あの階段を上がればすぐに連絡橋だ。ここまで来たら一年生の教室までそう遠くはないはず。
だが、急ぐ彼女らの足は目の前の光景のせいで止まってしまう。
「な、なにこれ」
階段を上った先の踊り場、紫色の妙な物体がある。見方を変えれば何かの空間が裂かれたもののような、違和感のある物体。中は暗くてよく見えない、禍々しい色のそれは静かにこっちを見つめるように佇んでいる。
なにか、本能的にかなり嫌な雰囲気をあれからは感じた。
じっと警戒してみていると、アンジェリーナがこう言う。
「あれは近道するための空間干渉魔法ね。あれを使ったら遠い場所からもあらかじめ行きたいところに魔法陣を残していたら一瞬で移動できるの」
「でもそれ学校内で使っていいものなんですか・・・?」
あの紫色をした何かが基本的に学校内で使っていいものかと言われてもにわかには信じられない。あんなのがそこらじゅうにうろうろしていたら気味が悪い。
アンジェリーナは少し悩み、考えると首を横に振って否定するジェスチャーをとる。
「この学校もそんな魔法認めてないはずよ、だって空間に干渉する魔法は、かなりのマナを使うから空気中にあるマナすらもその魔法陣に吸い寄せられちゃうの。そんなことしたら大気に浮いてるマナのバランスが崩れるはず・・・・。一回くらいなら問題ないはずだけどね」
にこっと笑って解説を終えるアンジェリーナ。そうこうしているうちに魔法陣で作られた入り口は閉じてもとの踊り場であろう姿にもどった。アンジェリーナは「もう大丈夫みたい」と言って階段を駆け上がり、それにソフィリアも続いた。
階段を上がる最中に段差横に思わず目が行く。二階につながる上のほうの階段の二段目。小さく魔法陣の描かれた模様があった。あれがおそらくアンジェリーナが言っていたものだろう。それも紫色でかかれているもので、気味の悪い違和感をソフィリアは感じた。
連絡橋を渡り、すぐに渡り廊下へ着く。全部でこの校舎は二階建てでこの連絡橋につながっているのが二階だ。一階が1年A組とB組の教室。二階がCとD組だ。なので左右にそれぞれ教室があるがどれも自分たちの教室ではない。一階に降りるためにまた階段を探さなければならない。
だが、階段に関してはすぐ目の前にあった。教室の間に大階段がありそこから下へ直接行けるようだ。ここまでくればソフィリアの案内はいらないようで、アンジェリーナはソフィリアに「階段降りましょう!」といって速足で降りていく。それにソフィリアもおいて行かれまいと食らいついた。