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3話 お互いの気持ち

「ここがA棟で、ここからつながるところが一年生の校舎・・・?地図だけじゃなにがなんだかわかんないな・・・」


 ソフィリアは新一年生に貸与される茶色のローブをまとい、ハープネスへ向かおうとしていた。彼女の家からは通えるレベルの距離ではないため、学園の寮で暮らすことになる。乗りなれたバスの揺れに揺られながらソフィリアは到着するまで地図を両手に見やる。


 目的地手前までバスは到着した。ちなみにこのバスの動力源もマナで動いている。


「長い時間のご乗車お疲れ様でございました。目的地であるハープネス学園前到着でございます。ご降車の際はお足もとにお気をつけてください。本日は特急便 ツバサをご利用いただき誠にありがとうございます」


 聞き飽きた文句を聞き流しながらソフィリアは支払いをさっと済ませ降りる。


「すごい・・・・・」


 バスを降りて目の前に広がるは今まで見たこともないほどの大きな建物だった。

 森の中に隣接するこの学校は総合面積20キロを誇る超巨大マンモス学校。6年制の学校となっており、基本的に卒業するとなったときには22歳以降のことが多く、留年も重なるとそこからさらに卒業できる年齢は遅れていく。なので中には本当に学生なのかと疑いたくなるような生徒もいるみたいで。そこが彼女は懸念点でもあった。


「あう、す、すみません」

「一年生か・・・?気をつけろよ」


 青色のマントとソフィリアと同じ茶色のローブをまとった生徒が颯爽と学校へと入っていく。もはや森の道としか思えないような道になっているが、その奥はきちんと舗道されており、中にどんどん続いて行っている。


 青マントは二年生の印である。一年生は赤、三年は緑、四年は黄色、五年が白で六年が黒だ。なので来年入ってくる一年生は六年が引退した後になり黒色のマントを受け継ぐことになる。


 青マントの生徒はソフィリアに肩がぶつかり、しかめっ面をして去っていった。なかなかに衝撃的な在校生とのファーストコンタクトで内心かなり動揺する。


(せっかくここまで来たんだ。逃げちゃお母さん困らせるし、頑張って受かったんだから精いっぱい頑張らないと)


 色々葛藤して、悶々とした考えはバスの中に捨てていく。ここからは新しい生活だ。一から始めなければいけないが、逆にそれはソフィリアにとってのチャンスでもある。誰も知らない環境で一から人間関係を築いていけばいいのだ。


『あれ、ソフィリアさんって座学の枠で入ったの!?頭いいんだね!』

『ソフィリアさんってどこの出身なの?レグリア!?そんな遠いところからすごいわね。尊敬しちゃう』

『君が一年生のソフィリアさん?僕は五年生の〇〇。有名人だから、あいさつしたくてね。期待しているよ』



「えへへへへ、そんな褒めないでくださいよ・・・えへへ」

「ソフィちゃん何してるの?」

「ぎゃぁい!?」


 妄想の世界に入っていたソフィリアは後方から声を掛けられてあえなく現実世界に引き戻される。後ろを振り返ると、いつも顔を合わせていた優等生アンジェリーナがにこにこと笑いながら立っていた。


「いや、特にその、なんでもないんですけど」

「誰かと話してた?遠隔話法術かなにかしてたの?」

「いや、そうでもなくて、イメトレです自己紹介の」

「自己紹介のイメージトレーニングしてたの?すごい努力家なんだね、ソフィちゃん」


 とてもではないけど褒められてうはうは妄想の中でしていたなんて言えるわけない。そして真っ赤なウソに突き刺さる屈託のない彼女の笑みは、ソフィリアの胸に酷く痛感する。


(すみませんすみませんわたしごときが嘘なんてついてすみません本当に申し訳ありません。あとで死にます)


 心の中で必死に謝るが、それが彼女に響くことはなく、アンジェリーナはすでに別の話題へと移行していた。


 さっきアンジェリーナは遠隔話法術をしていたのかと聞いてきて、そうだと言えればよかったがそうもいかない・・・。彼女はご存じの通りまったく魔法の使えない人間だ。魔法の使えない人間はクレドと呼ばれてあまりいい目には見てもらえない傾向が強い。


「あれ、どうしたのソフィちゃん。遅刻しちゃうよ?」


 そう考えていると、舗装され始める道の手前、まだ茶色の地面の地点でソフィリアの足は止まってしまう。たくさんの生徒は次々と二人を追い抜いていく。


 彼女にはわからないだろう。魔法が使えるのだから。ソフィリアは使えない、まったくだ。自分で選択してここに来たつもりが今になって怖くなってきた。

 父親のような差別的に見る顔を、もしかしたら学校中の人間からされるかもしれない。そう考えると、足が震える。


「もしかして、緊張してる?ソフィちゃん」

「え」


 いつのまにかソフィリアの目の前にまで来ていた彼女は、ただ一言そう言ってにこっと笑う。

 彼女の特徴的な赤い髪っ毛が日光に照らされてきれいに見える。そんな女神みたいなアンジェリーナはこんなことを言って言葉を始めた。その言葉はまるで受験会場の時と同じようなセリフだ。


「あたしね、今日実は学校来るか迷ってたんだ」

「そうなんですか?」

「うん、あたしの家お母さんとあたしの二人暮らしだったから。お母さんだけおいてくる形になって。お母さん病気でね。一人になっちゃうからそれがすごく心配で。朝になって急に怖くなってきちゃった。変だよね!」


 いつものようにニコニコと笑うが、その笑顔は作り笑いだと分かる。わかってしまう。いつも席の前で彼女の言葉、声を聴いていたから。顔は明るいいつものアンジェリーナだが、声は低くかすれているようにも聞こえる。


 ソフィリアは思わず聞き返す。


「なんでそこまでしてここに来たんですか?」

「それはね、あたし魔法薬のお医者さんになりたいの。それでお母さんの病気直して、困ってる子供たちを救う先生になりたい。だからここに来たんだ」


 迷いのない真っすぐすぎる瞳がソフィリアの目をとらえて反射的に彼女は視線をずらす。それが否定的な動作にとられないか心配になり、もう一度視線を合わせるが、すぐに戻してしまう。こんな真剣な話をしてくれているのに、ソフィリアはもどかしい気持ちがあった。

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