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高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~  作者: 紙風船
第60層台 悪辣湖沼地帯 -シニスター-

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第74話 作戦前のオフ日

 イリノテは岩の屋根を持つ町だ。光差す場所は敵からの襲撃の可能性のある危険地帯として住民は常に影の中で暮らしている。日陰や、岩の屋根ということで冷えたイメージがあるが、実際に町を歩くと暖かい。体を動かすとじんわりと汗をかくぐらいには暖かい。

 考えてみれば分かるが、太陽に熱された岩のお陰で気温が高くなっているのだ。岩と言っても屋根にする為に薄い物が採用されているから熱も通しやすい。岩を使ったフライパンの下にいるような、そんな気分になる。ピザとかよく焼けそう。


 イリノテにやってきて3日が過ぎた。町の住民も僕達のことを外敵から客人としての認識が定着したようで、棘のある視線はなく、姿もちゃんと見せてくれている。しかし街並みもそうだが服装も和服によく似ている。お陰様で僕の中では映画村の印象がすごく強い。


 町は碁盤の目のような造りで、迷子になることはあまりないが建物の位置を間違えやすい。アザミの邸宅の位置は見えるから分かるが、商店や食堂の位置はまだちゃんと覚えられていない。と言っても長く滞在する予定はないから覚える必要もないのだが……。


「将三郎殿~、ここにいたでござるか」

「ん、シキミか」


 店先の長椅子に座って何かの葉っぱで淹れたお茶と団子……ではなく串焼き肉を食べていたら屋根の上からシキミが下りてきた。何か用事があるのかと思い、内容を待つが何も言わない。目線は僕が持つ串焼きに固定されていた。


「お腹空いてるの?」

「う、いえ……」


 否定してはいるが目線はジッと固定されている。シキミも里長の妹ということで、結構任務を押し付けられているのはこの数日で何回かやり取りを見ていた。時にはキュウリのような野菜の一本漬けを齧りながら町を駆けているシーンもあった。あの移動量と野菜でこのムチムチボディを維持しているのかと思うと驚きだ。


「すみません、もう一本くださーい」

「はーい!」

「あ、将三郎殿……っ」


 察して注文してあげたが、シキミは申し訳なさそうに眉尻を下げてしまう。そんなシキミへ、ポンポンと椅子を叩いて自分の隣へ座るように促す。遠慮がちに座るシキミだが、どうしたものか。初日はもっと気軽に接してくれていたのに。


「そんなに遠慮しなくていいのに。前みたいに気軽にしてていいんだぞ?」

「うー……日が経つごとに将三郎殿が本当に偉い人だったんだなと思い始めて緊張してしまうでござる……」


 シキミがそう思うのはまぁ、ここ最近はアザミとヘイロン討伐の作戦を話し合っているシーンをよく見ているからだと思う。ここはアザミの里だが、大本では僕の所有物となる。降って湧いた王とはいえ、実際に管理者である神様が決めているのだから従うしかない。とはいえ、その庇護下で自由に生きられるのであれば反抗する理由もない……というのがアザミの意見で、その結果、アザミは僕に対して臣下のような立ち位置で話してくれていた。


 何の警戒心もなく歩いていたところを不意打ちで襲ったが優しく対応してくれた人間から、里の頂点だった姉よりも上の立場の人間へと印象が変化してしまった。王様であることは伝えていたし、理解はしていたが日に日にちゃんと王様をしている場面が目立ってきたのだろう。だから姉の手前、気軽に接していい立場ではなくなってしまったのがシキミとしては難しいところなのかもしれない。


「まぁ、偉い人であることは否定しない。したら八咫にブチ切れられるし。でも僕自身はシキミと仲良くしたいと思ってるんだ。だから前と同じように話してくれると嬉しいな」

「良いのでござるか? 姉様に怒られない?」

「怒られたら一緒に怒られよう。アザミは怖いから、僕は怒り返せない」

「情けない王様でござる……」

「面目ない……」


 シキミの雑魚を見る目も、数秒で笑いに変わる。笑ってくれたことに嬉しくなって僕も笑うが、なんか声出して笑ったの久しぶりな気がする。何だかんだ張り詰めた日常を送っていたから、こういう何気ない笑いがめちゃくちゃ癒しになった。


 運ばれてきた串焼きを2人で食べ、人心地ついたところでシキミから要件を聞いた。


「姉様からヘイロン討伐の日程を伝えに来たでござる」



  □   □   □   □


 この世界、シニスター湖沼地帯の攻略方法は61層から順に進んで各勢力を味方につけて、最終的に69層に潜むヘイロンを討伐するのが目的なのだろう。そうすることで【禍津世界樹】は【世界樹】へと生まれ変わる。

 ダンジョンの姿がこうも大きく変わるのは聞いたことが無いが、ここは今まで目を通してきたメディアから得たダンジョンの様相とはまるで違う。モンスターに知識があり、会話ができる。ひょっとしたらそれは僕が八咫に選ばれた王だからかもと思ったが、配信で見るリスナーの反応は僕と同じだった。


 こうして出会い、共に戦い、強敵を倒してダンジョンに変化をもたらすというのがここでのメインストーリーのようだ。その後、旅を続けることで八咫の住む城へと到達する……つまり八咫は裏ボスで、ヘイロンがラスボスなのだ。

 僕は裏道からやってきてしまったから八咫がラスボスだと思っていたのだが、神であることを考慮すれば裏ボスと言われた方が納得できた。


 実際に仲間と一緒に上から探索してこのダンジョンをクリアしたらカタルシスとかやばいだろうなぁ……。


「おい王様、聞いてるのか?」

「あ、ごめん。聞いてなかった」

「勘弁してくれ……」


 額を抑えるアザミ。どっちが偉いのか分からない。


「もう一度言うぞ」


 アザミが提案した作戦はこうだ。根の麓に住むというヘイロンは雑食性で偏食で悪食だ。毒性が強ければ強いもの程、好んで食べるという習性を利用して、まずは根から離れた場所におびき寄せる。そこには罠がある。毒から精製された解毒剤が散布された湖だ。毒水を浴び、毒肉を食べて生きるヘイロンに真水は逆に劇薬になる。そこで弱ったヘイロンを殺し、このシニスターを掌握する。というのが作戦だ。


 恐らく、これは成功する。殺すこと自体は問題ない。それ自体は実際、僕の力があれば余裕だ。けれどアザミ達には成功体験として作戦は練ってもらって、ちゃんと段取りを踏んで成功してもらう。

 僕が恐らくと言っているのは掌握の段階の話だ。多分だがシステム的にヘイロンを討伐することでシニスター湖沼地帯から毒は排除され、禍津世界樹は世界樹へとなるように出来ている。はずだ。


「明日から作戦開始だ。しっかり準備しておいてくれよ、王様」

「あぁ、任せとけ」


 上手に立ち回ることがこの作戦の要だ。さて、今日はもうゆっくり過ごすとしよう。まずは……風呂だ。

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