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高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~  作者: 紙風船
第80層 白骨平原 -アスティアルフィールド-

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第36話 ホワイトオーク

 少ない種類の材料から素晴らしい食事を生み出せるという才能は努力の賜物だ。思えばコンビニ弁当やスーパーの割引弁当ばかり食べていた僕は日々の努力を怠っていた。その結果、こうした料理を素晴らしいと思える心を得られたと思うのは開き直りも甚だしいだろうか。


「ご馳走様でした……!」

「いえいえ。いっぱい食べてもらえて嬉しいです」

「これから新しい層に行くのに、あんまり美味しいものだからついつい食べすぎちゃったな……」

「頑張って消化してくださいね」


 僕のレッグポーチから取り出した食材で素晴らしい朝食を作ってくれたアイザに礼を言い、八咫へと向き直る。早々に食事を終えて、何故か立ったままジッとどこかを見ている八咫が僕に気付いて振り返った。


「次はどこへ行くんだ?」

「そうだな……90台の層では悪い印象が植え付けられてしまったから、まずはそれを払拭したいと思っている」

「てことは、まさか」


 八咫は鳥類の癖に鋭い犬歯を見せ、ニヤリと笑った。


「次の層はオーク種の住む層へ向かう」



【禍津世界樹の洞 第89層  白骨平原アスティアルフィールド



 目の前に広がるのは白い草原だ。地平の彼方まで広がっている草の海。ぼやけた背景に見えるのは巨大な何かの頭蓋骨か?


 この草原を進むのかと絶望しながら一歩踏み出すと乾いた破壊音が足元からした。視線を下げると、そこには割れた何かの骨の欠片が散らばっていた。


「死ぬかもしれんね……」

「馬鹿言うな。こっちだ」


 ポケットに手を突っ込んだまま先頭を歩き出した八咫の後ろをアイザと2人で慌ててついていく。


 しばらく進んでも景色は一切変わらなかった。遠くに見える骨ははっきりしないし、足元は何かの骨でいっぱいだ。ひざ下まで伸びた草は時々吹く風に揺られるだけ。一層、これがモンスターだったらまだ退屈しなかっただろう。


「しかしこうも景色が同じだとどっち向いて歩いてるかもわからないな。ちゃんとまっすぐ歩いてるのかもわからん」

「簡単に迷ってしまいますね……」

「私がいれば問題ない。ちゃんと現在地は把握してるからな」


 そうは見えないのだがまっすぐ前を見て歩いているから何だか正解のような気がしてくる。


 八咫の言葉を信じて歩くこと1時間。流石にそろそろ疲れてきた頃、景色に変化が起きた。


「……あれ、何か見える」

「オーク族の集落だ」


 平原と空の曖昧な境目に凹凸が出現した。オークといえば何だろう、好戦的な種族というイメージが強いのだが、このまま進んでも平気なのだろうか。


 多少の不安を抱えながらも僕達は進んだ。やがて凹凸は家屋のシルエットになり、それがはっきりと見える頃には、すっかりオーク達に囲まれていた。


「何者だ?」


 喉元にごっつい槍の先っぽを突き付けられながら『王様です』と言う勇気は僕にはなかった。代わりに両手を上げて戦闘の意志がないことを伝える努力だけはしてみる。


 僕達を囲むオーク達はこの草原と同じ白い肌をしていた。草よりも多少のくすみはあるがこれなら草原に隠れても見つからないだろう。


「随分な歓迎だな」

「我等の集落に近付くのは許さない」

「誰に槍を向けているのか、ちゃんと考えろよ。無礼にも程があるぞ」


 何の説明もなく近寄ってきたら誰だってこうなるだろと心の中で突っ込んでいると八咫が紫炎に包まれ、カラス姿へと変化する。


 それを見たオーク達は目に見えて狼狽え始めた。八咫烏という象徴はちゃんと伝わっていたらしい。手にした武器を放り出してその場に平伏し始めた。あんまりこういう光景は好きじゃないんだがな……。偉くもないのに偉ぶっているみたいで気分が良くない。


「顔を上げてくれ。僕達は別に侵略しに来た訳ではないんだ」

「貴方は……?」

「そこの神様に王様認定された。名は将三郎という。良かったら友好を交わしたい」

「あ、お、俺はホワイトオーク族長老ガーニッシュの息子、ハドラーです。良かったら、俺達の里に来てください」

「ありがとう。是非お邪魔させてほしい」


 立ち上がったホワイトオークのハドラーを見上げる。だいぶでかい。でかいのは身長だけでなく、横幅もだ。無論、それは全部筋肉で、あの細い丸太みたいな槍を扱るだけの筋力はありそうだった。


 顔も精悍な顔つきで、これまで甘い人生でなかったことが伺える。下顎から伸びる牙も鋭く丈夫そうだ。


 身に付けている鎧は……骨の意匠が施された物だ。材質はなんだろうか。白いからこれもまた骨なのかな。


 とにかく見るもの全てが白く、そして強さを感じさせた。カオスオークという悪い例から入門した身ではあるが、一目見て分かる。彼等は邪悪な存在ではない、と。


 ハドラーの案内で草原を進む。八咫は歩き疲れたのか、定位置となっている僕の左肩で座って呑気に欠伸をしていた。


 ホワイトオークの集落は、もう目の前である。

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