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高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~  作者: 紙風船
第90層 紫黒大森林 -ヘルフォレスト-

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第29話 噛み合った神の加護

「だれかーーーーー!!」

「うるさいぞ」

「うわぁ!?」


 グランがひっくり返って助けを呼んだら八咫が真後ろにいた。


「八咫、回復!」

「慌てる必要はない。大方こうなるだろうなとは思っていたからな」


 パチン、と指を鳴らすとグランの体の下に黒い魔法陣が出現する。それがふわりと光るとグランが吐いた血が嘘みたいに掻き消された。治った……ってことでいいのかな?


「しばらくは気絶したままだろう。しかしグランに勝つとはなかなかやるじゃないか」

「あ、あぁ……なんか、噛み合った(・・・・・)って感じがした」


 欠けていたピースが埋まるような、抜けていた歯車が嵌るような、雑に打った点と点が繋がったような……。


 グランとの戦いは正直、怖かった。あんな分厚くてでかい剣を振り回されたらおしっこちびってもしょうがないだろう。


 だけどあの最初の一撃。


「あ、これは避けれるなって思ったんだ」


 純粋に靴の力を使った速さなら左右どっちかに走れば大丈夫そうだなって。


「それは何故そう思った?」

「え? うーん……グランが突っ込んできて、振り下ろされるのを見て?」

「将三郎は目が良いんだな」

「……いや、そんなことはない」


 言われて気付いたが、別に目が良い訳ではなかった。ギリギリ眼鏡が必要ない程度の視力だ。現代人的には良い方なのかもしれないが、あんな弾丸みたいな突っ込み方を見て避けられる程、視力も深視力も動体視力も良くない。


「無自覚か……いや、だからこそ分かりやすいな」

「なに、どういうこと?」

「浸透してきたんだよ。神の加護がな」


 詳しく聞いてみたところ、八咫が神として僕を王へ導くと決めた時から神の加護は僕の体へ浸透し始めていたそうだ。灰燼兵団宿舎ではまだまだ加護が実感できる程には浸透していなかったが、今回のグランとの戦闘で一気に加護の浸透が加速したらしい。


「まず、将三郎はカラスの視力がどれくらいか分かるか?」

「いや? 鳥目なんて言葉もあるくらいだからそんなによくないんじゃないか?」

「ふ、馬鹿め」


 シンプルに罵倒された。


「一般的にカラスの視力は人間の約5倍と言われている」

「5倍!? それはちょっと言い過ぎじゃない?」

「おまけに夜目も利く。動体視力も良い。その辺のニワトリと一緒にされては困るって話だな」

「はぇー……その目が、僕に?」

「私の加護の一つだな」

「一つ? まだあるの?」


 目だけでも凄いことだ。コメント欄を見るとカラス博士たちが如何にカラスの目が凄いかを長文で語っていた。人間には見えない色を見るだとかなんだとか……僕の能じゃ処理しきれないから虹もまだ7色しか見えないだろう。


「あの蹴り。何故蹴りを出そうと思った?」

「できそうな気がしたから……かな? 靴のこともあったし、あの脚力を蹴りの力に転化できれば多少のダメージは出せるかなって。こうなるとは思わんかったが」

「ふむ……格闘技経験もない一般凡人である将三郎が……」

「一般凡人ってなんだよ。せめて一般人って言え。誰もが格闘技経験者だと思うなよ?」

「一般凡人が蹴りを出そうという思考に至った原因。それもまた加護だな」


 ついには僕の固有名詞が一般凡人にされた。


「なんで蹴りなんだ?」

「鳥に手はない」

「……」

「……」

「……えっ、それだけ?」

「そうだが?」


 しょうもない理由だった。しょうもない理由が神様の力で加護へと昇華し、それを一般凡人に与えてみたところ、とんでもない力になっているだけだった。まずい、僕の行動の為の思考が自動的に鳥寄りになってきている。


「まぁ、貴様の手を前足と考えればパンチの力も上がるかもしれんな。その時は四足歩行になるが」

「あんまり一般凡人を馬鹿にするなよ。やるときゃあやるんだぞ僕は」

「ふん。グランを倒してはしゃいでいるのかもしれんがな、私に言わせれば甘い。ただの蹴りで体一つ消し飛ばせんようでこの先どうする? まったく、情けない」

「消したらこの先困るんだよ、馬鹿野郎。一般凡人であることに僕は誇りを抱くね!」


 八咫とギャーギャーしょうもないことを言い合っていた。その騒ぎを聞きつけてか、アイザ達が集落からやってきた。それで倒れてるグランを見つけて、八咫が言わんでもいいことを話し、最悪のタイミングで目が覚めたグランと僕は、並んでアイザからお叱りを受けたのだった。




 戻ってきた中央広場で作戦の擦り合わせを行った。各部族から出た要望も含めて、調整を行い、作戦が失敗した時のことも改めて考えた。


 その話し合いの中で変わったことがあった。


「王よ、儂の部族が最初に切り込むのはどうだ?」

「うーん……頼りにはしてるけど、まずは寝込みを襲って数を減らしたい。僕とジェスタ達の隠密部隊なら静かにやれる。それからグラン達には働いてもらいたい。アイザ達の仕事を奪うくらいな」

「がっはっは! 八咫様の道を守護するノート族の鼻を明かせるならこのグラン、存分に剣を振るおう!」


 グランが僕を王と呼んでくれるようになった。認めてもらえたってことかな……とても嬉しかった。


 会議に参加していたジェスタも少し無口なところがあるけれど、徐々に会話が増えてきていた。


「王には後方で待機してもらいたいです……きっと気になって作戦に支障が出ると思うんです」

「いーや、僕も参加する。上が動かないと組織は駄目になる。駄目にならない場合もあるかもしれないけれど、僕は現場を見ないで指示を出せる程頭が良くないからね。それにグランに勝つくらいにはやれるんだ。任してくれ」


 グランに勝ったことで自信に繋がっていった。堂々と意見も言えるようになった。根拠のない言葉よりも、強さという裏打ちされた理由があるだけで人はこうも変わるらしい。八咫に強くなりたいと言ったあの時のこと、後悔する日は来なさそうだ。


「隠密はどうでしょう? このように完全に気配を消せますか?」

「ふふん、馬鹿にするなよ?」


 景色に掻き消されるように姿を隠して一瞬で移動したジェスタの背後へ、フードを被った僕は移動して捕まえてやる。八咫の加護が浸透してきたので【黎明の影(ドーンシャドウ)】の効果は更に上昇した。以前よりも気配を薄れさせ、更に靴の効果で起きる移動の際の音も消せるようになっていた。


「……流石です」

「ふふ、まだまだジェスタ達に教わることは多い。頼りにしてるぞ」

「御意」


 ジェスタとも親交を深めることができた。ナイスコミュニケーション!


「二人共、会議の途中で勝手にどっか行かないでください」

「あ、はい……」

「ごめん……」


 そしてアイザからは怒られっぱなしだった。今日は呆れた目でしか見られていない。バッドコミュニケーション……。

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