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第10話 ラスボスてどんな姿なんやろか

 壁伝いに慎重に進む。


「結構進んだよな……どんだけ広いんだ? ここ……」


 燭台の火は相も変わらずケミカルな紫色で毒々しい。こうして見ていると燭台の傍には必ず天井を支えるでっかい柱が建っていた。これもまた骨やら悪魔的なものやらと毒々しい装飾が施されていた。


「この柱……入口から数えて何本目だ?」


 思わず柱に手を伸ばしそうになってすぐに引っ込めた。どこでボスが見ているかわからん。迂闊に部屋の中央へ向かって体を出すのは危険だ。


 配信映えはしないかもしれないが、身の危険の方が大事なのでカメラのライトも少し暗くする。まぁ臨場感が出てええやろ……。


 慎重に進む。どれくらい進んだのかは分からない。額を伝う汗を拳で拭い、吐く息は細く長く。踏み出す足はそっと持ち上げ、ゆっくりと下ろした。視線は常に自分の足元、部屋の広間の方、進む方向と忙しなく動いていた。


 幾つもの柱を過ぎ、慎重に慎重を重ね、積み上げていき、その結果……気付けば僕の正面には見慣れた黒い壁が見えていた。


「着いた……っし、よっし……!」


 自然とガッツポーズが出てしまう。こんな綱渡りみたいな道を、僕は終点まで渡り切ったのだ。これを喜ばずにいられようか……!


 だがここからが本番だ。ここはゴールであってスタートなのだ。


「とりあえず、ボスの索敵範囲に入らずにここまで来ることができた。てことは、だ。やっぱりこれで入場して強制戦闘の線は消えた。あと広範囲でのサーチの線も消えた」


 スマホを取り出し、コメント欄と相談を始める。


『まだ索敵エリア外にいるだけでエリアの形状はわからんよな』

『ボスの姿は見えるの?』


 スマホから顔を上げてジッと部屋の中央方面に目を凝らす。だが柱より向こう、燭台の灯火より先は見えなかった。


「駄目だ見えない。カメラは?」


『カメラも駄目。真っ暗』

『安いの使いやがって』

『もっと高いの買え』


「『安物使いやがって』だぁ? しょうがないだろ、金ないんだから。ここから出るまでずっとこれだから我慢してくれ。頂いた投げ銭受け取れたらそれで配信環境整えるので!」


 その為にはやはり生きて帰る以外の手段はないのだが……。


 さて、これからどうするか。


「あー、まずは索敵範囲の形状を特定しよう。扇状なら最高なんだけれど、サークル状だとまずいんだよね。とりあえず広範囲のサークル状ではないことは確かだけど」


 今ある択は扇状と小から中範囲のサークル状だ。僕が生き残る為には扇状を引かなければいけない。


 そしてこれ以外の択を潰すには最奥の壁伝いに歩いて行くしかないのだ。


「駄目だった場合は全力で逃げるしかないのが厳しいところだね……っし、行くか……」


 ここへ来た時と同じようにゆっくり、ゆっくりと慎重に足を踏み出す。いつでも逃げられる体勢をとりながら、一歩ずつ進む。


 コメント欄を見る余裕は一切ない。垂れ落ちる汗すら拭う暇がない。


 額から垂れ落ちた汗が目に入る。汗の塩分が目に沁みる。痛みが引くまでジッと耐え、再び足を前に出す。


「ふーー……ふーー……」


 できるだけ空気を震わせないように、大気に細い穴を開けるような、針の如き吐息。


 ここまできたら配信映えも何もない。ミリ単位で歩を進めて自分の命を守りながら前へ進んだ。


 正直、コメント欄は大荒れだろう。見ている側はつまらない配信画面だろう。


 しかし僕はこうしなきゃいけないのだ。こうしないと死んでしまうのだ。


「はっ……はっ…………はぁぁーーー……」


 そうして歩き続けて何分経っただろう。30分くらいだろうか。僕の中では4時間くらい掛かったような感覚だ。


「生き延びた……生き延びたぞ……!」


 歩き続けた結果、僕は反対側の壁に到着することができた。僕は命をベットした賭けに勝ったのだ……!


 壁に背を預けてその場にゆっくりへたれこんだ。流石に疲れた。剣が大きな音を立てないように座り、ポケットからスマホを取り出す。あんまり見たくないがコメント欄を開いた。


『おめでとーーーーーーーー!』

『よくやった!生き延びた!』

『うおおおおおおおお!!!!』


「は、はは……つまんない画面で申し訳なかったね……でも僕、生き延びたよ……賭けに勝った……!」


 投げ銭とサブスク登録の報告が飛び交う。一人一人お礼を言いたいところだが精神的な高揚が呼吸が追い付かず上手く喋れなかった。


 暫くその場で休憩をする。漸く呼吸が整い、汗が引いたところで口を開いた。


「ふぅ……投げ銭サブスク、ありがとうございます。やっと落ち着いた……さて、これで一旦、中程度のサークル状の択は潰せた。あとは小サイズか扇状か……だな」


 ここまで来たらもう一度ベットしよう。僕は来た道を半分戻る。広間の中心方向、入ってきた出入口の方向を見ると微かに何かが見えるような気がする。


 それに向かって手を伸ばす。ゆっくり、ゆっくり……。


 伸ばした手は次第に指先が痺れてくる。が、腕は下ろさず真っ直ぐに伸ばして歩を進める。


 半ば、僕の中で確信があった。やっぱりボスも通常モンスターと同じで目と耳、種類によっては鼻も使って人間を索敵しているんじゃないかと。

 ここまで来て急に索敵の仕様が変わるとは思えなかった。あの反対側の壁まで辿り着けた時点で、それは殆ど確信していた。


「……っ」


 ゆっくりと進む僕の足が、何かを踏んだ。

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