能面男のサバイバル、始まる 4
住めば都、などという古い諺なんかもあるように、人間は慣れてくるもんだ
この世界に送られて、一週間が過ぎた
何時までも名も知らぬ世界の傍らの、名前も知らない川岸にテントを張り、何だかんだと一週間である
肉はもう殆ど残っていない…良く持った方だ
干し肉が僅かにある程度、これでは流石に厳しい
「狩り、か」
本能的に避けていたのかもしれない
ホーンドラビットの場合、既に死んでいた
だが、そうそう毎回同じことなど起きる訳もなく…命を奪うという行為に、抵抗が無いと言えば嘘になる
だが、このまま踏ん切りが付かないままだと、保存食である日本から持ち込めた僅かな食料を使う時が来てしまうかもしれない
「まぁ、カップラーメンと缶入りの保存パン位だが」
結局、凌いで二食位しかもたない以上、狩りをするのか、食える植物でも探すか
いよいよ、本格的にサバイバルが始まった気がする
森に入る前に、一度テントで準備を整える
カッパ、斧、ナイフ、ライターに…色々と装備している最中に、ふと気付いた
ホーンドラビットの角…あれからずっとテントの片隅に置いてある
これを何かに…とは言っても、槍位にしか使い道は無さそうだが…折れた部分を見ると、角の途中まで空洞になっていた
外に出て、薪として取ってきていた木を斧やナイフで加工し、空洞に嵌め込み、それから木を下から叩いて、しっかりと差し込む
「…槍…だな、簡素ではあるが」
木の棒をホーンドラビットの折れた角に無理矢理差し込んだだけの急繕いだが、それでも何だか心に余裕が出来た
ポケットにはライター、ベルトにはナイフをレザー製のベルト通しが付いたカバーに差し、後ろに斧を通した
ナイフと反対側に専用の袋に入ったカッパをぶら下げ、お手製の槍を構え、俺は森へと入っていく
いつもの見慣れた場所から更に奥へ…パラコートを腰に結んで、帰れるようにした方が良かったかもしれない
異世界の森は日本に生えている木々に似ており、風景は殆ど変わらず木と草と土、時々枯れた倒木が倒れていたり…木々の間から見える日の光の量が違う位だ
「…帰れるか?」
少々不安になってきた
殆ど真っ直ぐに進んではいるが、やはり迷いそうではある
「…いや、これ以上は絶対にマズイ」
方向感覚がやられ始めている…迷う前に戻ろう
「肉のある内に開拓をもっと進めるべきだったな…まぁ、今更悔やんでも仕方ない、帰ろう」
今日の晩飯は我慢か、簡単な釣り竿でも作って釣れたらそれを食おう
踏みつけた草や土に付いた足跡を辿って、テントへと戻る事にした
初めての探索は、何も得られないままですごすごと帰ってきてしまった
釣竿を作ろうにも針が無かった事にも気付き、何か無いかを探した結果、細々した物を纏めた中に入っていた針金を曲げたクリップが入っていた
少し曲げて釣り針に近い形にしたら、先を石で研ぐ
多少時間はかかったが、返しはないものの先を少し尖らせる事は出来た
「エサか…」
肉は…エサにはならないだろうし、既に無い
となると、やはりミミズみたいなものが良いのだろうが…掘り返しただけで簡単に見つかるだろうか
釣竿を作る作業を中断し、森の中にスコップ片手に入り、適当に掘ってみる
「ミミズがいるってのは、土が良いって何かで聞いたな」
スコップで掘り返した土の中に一匹、モゾモゾ動くミミズがいた
しかし、これがエサになるのか分からんが…取り敢えず、一匹持ち帰って釣りをしてみれば分かるか
スコップに乗せたままミミズを持ち帰り、作った釣り針の片方にパラコートを通して縛る
もう片方にミミズを刺し、取り敢えず川の中に落としてみた
「釣り、なぁ…殆ど経験したことがないな」
会社の先輩に船の人数が足りないから、と人数合わせで連れていかれて、2、3匹釣れたような記憶がある程度だ
その時に捌き方も教わったが…まぁ、それ以来、捌いた魚はスーパーに並んでいる安売りされていた魚だが
ぼんやりと過去の記憶を思い出す…そういえば、人を無理矢理連れてきた先輩は、船酔いでダウンしてやがったな
あの人は本当に…まぁ、もう会うこともないし、そもそも会えないからどうでもいいが
思い出を振り返る時間は、手に伝わる違和感で中断された
勢い良く釣り竿を上げると、何かが針の先に食い付いている
「…なんだ、この魚…」
見たことがない…ブラックバスのような、違うような…そもそも、食えるのだろうか…サバイバル知識にあるのだろうか
「………食えるのか、なら良し」
名前はいまいち覚えられなかったが、食えるらしい
味は知らんし、そもそも塩しか味付けられるようなものが無い
「…内臓は出して、焼いてみるか」
記憶を頼りに脳にナイフを打って絞めてから血抜きをしてみる…血は出てるな、恐らくこれでいけているはずだ
「もう少しやってみるか」
昨日食べてしまったツナ缶の空き缶片手に、再度森へ入る
何ヵ所か掘り返したり石を引っくり返したりとしている内に、五匹ほどミミズを集める事が出来た
川辺に戻ると、また釣りを再開する
エサを取られたりもしたが、同じ魚が三匹手に入った
どれもそれほど大きくは無いが、最初の一匹と合わせて四匹も食えば腹に溜まるだろう
焚き火に火を付け、捌いてきた魚を削った木の串に刺し、近くに立てる
キャンプ動画なんかで良くみる、魚を串打ちして焚き火側で炙る、例のあの光景に少しだけ感動した
焼けた白身の魚を食いながら、明日の事を考える
毎晩のお約束でもある明日の行動予定決めだが…やはり、森の探索だろう
何かを目印を作って移動していけば、恐らくは素人の俺でも迷わないだろう
例えば、地面や周りの木に杭を打ちながらいけば、逆に辿れば帰ってこれる
短距離ならパラコートをテントから近い木に結び、もう片方を持って移動すれば迷わないだろうが、巻き直しが面倒くさそうだ
「分かりやすいのは、杭なんだろうな…そういえば、リュックの中に何かペンみたいなものは無かったかな…」
食い終えた頭と骨と尻尾だけの四匹の魚を地面に埋め、テント内に戻る
乾いたホーンドラビットの毛皮を床に敷いたが、夜の寒さが殆ど辛くなくなる程に暖かい
夏は干してから巻いて保管しよう、などと思いながら、リュックを漁る
「油性の黒と赤のサインペン…何であるんだろうな、しかし」
荷物を嬉々として詰めていた時には恐らく思わなかったんだろう、「いや、いらないだろ」と
そして、それらを減らして食料詰めとけよ、と言いたい
黒はまだしも、赤なら割と目立ちそうな気もするが…杭を刺す時に周りの草も刈れば、何とかなりそうだ
となれば…次は杭を作らねばならない
一旦外に出ると、ハンドアックス片手に木を伐りにいく
適当に伐ってきた木を、自分の手首から肘位の長さに合わせて切る
そうして作った丸太を八つに割り、地面に刺す側を削って尖らせる
反対側には赤いマジックで適当に矢印を描く
行きに矢印をテント方向に向けて刺し、次は杭の方向に…と刺しながら向かえば、帰りも多少は安心出来る
後は、明かりか…この世界に来てから実は一度も付けていないLEDライトの出番だ
これも充電式で、満充電にしてから使っていない、真っ暗になったら使おう
荷物が増えるな…小さいバッグがあれば良かったのだが、そうもいかない
小枝や枯れ葉拾いに肉の保存まで頑張ってくれているビニール袋を久しぶりに使うか
しっかり水分を取って乾かして、折りたたんである
これに杭を印を下にして入れて持ち歩こう
カッパは…いや、もう今回は防寒着を出そう…そろそろ寒さも厳しくなるだろう
某作業着屋さんに売っていた、ちょっと前から話題の防寒着を使おう
チャック式の圧縮袋に詰めておいたソイツは、防水機能も付いてデザインもカッコいい優れものだ
「…そういや、初めて着るな…買って冬を迎える前にこっちに来たからな」
圧縮袋を取り出してみると、パンパンに膨らんでいる…これ、本当に大丈夫なのか?
恐る恐るチャックを開いてみると、圧縮されていた防寒着が解放されて、逃げ場を求めていた
引っ張り出すと、どうやって入っていたのか
分からんサイズの防寒着が出てくる
「どうやってしまってたんだよ…俺…」
恐らくは思いっきり空気を抜きながら小さくし、無理矢理に近い形で入れていたのだろう
「…もう外に解放しておいてやろう…」
寝る時に寝袋の上にでもかければ暖かいだろう…窮屈そうな袋にはもう戻さない事にした防寒着を広げて、他に使えそうな物が無いかを探す事にするが、結局、LEDライト位しか見つからなかった…だが、知らない森を夜間に出歩くのは危険と判断、出発は明日にしよう
結局、夕日が空を染めるまで杭作りに没頭、それから慌てて魚のエサを探しに行き、釣りを終える頃には夜になっていた
さっき釣った魚と同じ魚が三匹釣れただけではなく、違う種類の魚も四匹程釣れ、割と豪華な食事となった
それぞれ捌いて、焚き火で焙って食べる…味付けも何も無いが、それでも充分に腹は足りた
食べ終えた骨はしっかりと埋め、明日の探索に備えて眠ることにした
今度こそ…せめて、食える物は見付けたいもんだ
森の中を自分なりに開拓する事5日、最近気温は確実に下がってきていた
まだ雪はちらついていないし、川も凍ってはいない…が、正直マズい事にはなっている
食べられる実や植物は見付けたが、梯子も何もない身、そう簡単には採取出来ない
このままでは、食料の備蓄が出来ないのだ
「さて、参ったな…」
森の新たな場所の開拓をしながら、少し焦ってきていた
魚を多めに釣って開いて干したり、取ってきた実やらを少しずつ貯めてはいるが、それでも到底追い付けるものではない
動物用に簡単な罠も作っているが、此方も毎回空振りに終わっている
「まさか、動物に会わない、とはな…異世界なんだ、魔物的なのもいそうだが…今まで一度も見ていないな」
森に動物がいないのは何故なのか…それに、身体の栄養が偏っていそうでもある
畑…をやるにも、種がないし、もう冬になるのだろうから、育つ作物も限られるだろう
「詰んだな」
諦めるのもまた人生かもしれない、良くやった方だろう…初心者の、初キャンプ前に死んだ男がサバイバルで半月近く暮らしたのだから
「そう思えば、諦めもつく」
新たな杭を木に打ち込みながら呟いた、まさにその時だった
草むらから何かが飛び出してきた
「っ!?」
反射的にホーンドラビットの角槍を構えると、そこには…
「きゅいぃ…」
ちっこいホーンドラビットがいた
此方を見付けた途端、まだ小さな、三角推のスナック菓子位の角を向けて威嚇してくる
以前美味しく頂いたホーンドラビットは流石にデカかったので、あれに襲われたら…などと思っていたが、このサイズならまだ両手にすっぽり収まる位の、日本でも見掛けていたウサギとサイズが変わらない程だ
「…怯えているな…そりゃそうか、槍構えてるデカイのがいたらな」
しかも、その槍は同族の物ときている
警戒しない野生生物がいたら、お目にかかりたい…カカポなんかを除いて
「うーん…ここは大人しく帰るか、流石に可哀想だからな」
そう思って角槍を下ろそうとした時だ
此方を警戒していたホーンドラビットが突然此方に走ってきた
いくら小さくても、あの角が当たると痛そうだな、刺さらないまでも…
そんな思考は、更なる来客によって吹き飛んだ
「猪っ!?」
物凄い勢いで突進してくる猪が現れた、しかも割とデカイ
「うぉおっ!?」
兎に角必死で真横に避けた…これもサバイバル能力って奴だろうか、猪の突進をギリギリで避け、尻餅を着いた
それと同時に、凄まじい衝突音と共に生木の折れる音がし、尻餅をついている俺の数十センチ前に木が倒れてきていた
「っ!?」
もう叫び声を出す余裕すらない、必死で尻餅をついたまま後退ると、さっきまで自分の足があった辺りに大木が倒れてきていた
「っ…!じ、冗談じゃねぇぞ!」
慌てて立ち上がり辺りを見回すと、折れた木のすぐ近くに猪が倒れている
「…脳震盪でも起こしたのか?」
猪はピクピクと足を痙攣させていた…と、脳内に何か浮かんでくる
「フォレストボア…森の、猪…いや、森以外に猪って生息してるのか?」
兎に角、この猪はフォレストボアという名前らしいが…また漁夫の利を得てしまったようだ、フォレストボアには暫くの間の飯になってもらおう…
足元に落ちていた角槍を拾い、獲物に近付く
「初めてちゃんと、生物の命を奪うな」
少し、躊躇する…が、この時ばかりは俺の感情が殆ど死んでいる事に感謝しよう
冬に向けての冬支度の整って無さからの焦燥感も後押しし、躊躇いは消えた
サバイバル能力と知識が、苦しませずに一撃で仕留める方法まで頭に浮かばせてくる…失血…心臓…なるほど、そういう事か…
日本に良くいる猪と身体の構造は殆ど同じらしい
「…ふんっ!」
槍なんか扱った事など無い俺だが、左前足の後ろ、肋骨の間から心臓を目掛けて突き入れる
手に伝わる皮を裂き、肉を貫き、その奥の何か柔らかい物を、角槍が貫いた
槍の経験も猪をシメる方法も知らない俺の一撃は、確かにこのフォレストボアの致命的な臓器を貫いた、という事が手からも、断末魔と思わしき僅かな鳴き声を上げた事からも分かった
少ししてフォレストボアはその命の灯日が消え、痙攣していた足が力無く落ちた
上手く行った…これもサバイバル能力なのか…槍を引き抜くと、血が溢れ出す
最初の木にぶつかった段階では、もしかしたら長くなかったのかもしれないが…確かに生きていた
「悪いな…せめて、余す所無く頂かせて貰うぞ」
槍に付いた血を振り払い、絶命したフォレストボアを見下ろしていると、突然目の奥に鋭い痛みが走った
「うあッ…!?ぐっ…」
痛みはほんの一瞬…ほんの一瞬だったが、俺は思わず両目を抑え、落ちそうになる膝を地面に突き立てた槍で何とか支えた
「な、何だ…今の…何かの病気の兆候…?」
だとしたら、このサバイバル生活は詰んだ、終了のお知らせ、蛍の光でも流れて閉館して生命の営業時間終了のお知らせだ
『獲得 槍術スキル 1』
「はぁ?」
脳内に急に浮かんだ文字に、思わず声が漏れる
槍術スキルぅ?何だそれは…あ、獲物を仕留めたから経験値入ったよ的な事か?
おいおい、その度にあの激痛喰らうのかよ…勘弁してくれ…まさかあれか、急激に技術覚えた反動、的なことか?
だから脳味噌に負担がかかって…と?
釣りスキルや樵スキルは無かったのに…あれは全部サバイバルスキルって事か?
「…と、兎に角、槍が少し扱える…のか?そんな感じしないが…」
地面に突き立て身体を支えていた槍を引き抜き、軽く振ったり、空中を突いたりしてみる…槍術スキル、本当かよ…初歩の初歩、槍を使ってみたから経験として付きました、って事か?
…ダメだ、異世界事情はいまいち良く分からん
出来ることならあの神様とやらに色々と聞き直したい所だが、そうもいかないだろう
俺のちょっとした疑問にわざわざ神様が干渉してくる訳もなく
「しますよ、送り込んだ責任ありますので」
いや、するんかい
「と言っても、貴方の脳に直接…テレパシーのような感じで、本当に短時間、しかも頻繁には行えませんが」
「えと、ヴぇーリンク、様?さっきの頭痛は?」
あの時、最初にこの世界に来た時に聞いた、あの美しい神様と同じ声が頭の中にだけ聞こえる
「本来、スキルというのは、例えば貴方の先程の槍術の場合、まず槍を持って鍛練する事で経験が積まれ、その後に狩りや魔物との戦闘によって初めて獲得するものです」
「ああ、魔物的なのもやっぱりいるのか…本来は?」
つまり、普通じゃない、と?
「貴方の場合は…まず槍を素材から組み合わせて作った段階で、僅かではありますが経験値は入っていました」
ほう、そんなもんでも経験値は貯まるのか
「ええ、そこから職人は鍛冶スキルに、戦闘職の人は戦闘や鍛練による戦闘スキルへと分かれていくのです」
スキルツリー的なものか
「貴方の前の世界での知識で言うところの、まさにそれです。ですが、自身の行動で自然に分かれていきます、そこに干渉し、選択する力はありません」
「なるほど…基礎の基礎は皆当たり前に最初に手に入るが、自分のその後の生活やら行動で、自然に選択された側に伸びる訳か…普通に1つの事を練習するのと、何も変わらないな」
「その通りです。ですが今回…貴方の場合は、槍を作る、という段階から鍛練や製造での修練を飛ばして魔物…しかも、駆け出しの冒険者や狩人ではまず倒せないフォレストボアを仕留めました」
「…あー…分かるか分かりませんが、つまりあれだ、レベル1の奴がパーティにいる時に、はぐ…経験値高い敵を倒した時のような事ですか?」
「そうです、レベル1のキャラがはぐ○メタルを倒した時のような」
敢えてボカしたのにこの神様…いや、まぁいいか
「そこで、貴方の槍術スキルが初期段階に成長してしまったという訳です」
「しかし、そんなに槍の腕前が成長したとは」
「肋骨の隙間を突いて一撃の元に仕留めていますから、それはそうなります」
「そうなりますか…サバイバル能力スキルで大体の位置が分かっていたからやったら、本当にたまたま出来たんだけどな…」
そう、確かに狙い済まして突き通したが、綺麗に通るとは思わなかったのも事実、偶然とは恐ろしい
「最初はそんなものです、たまたま相手に当たった、たまたま良い物が作れた…それは修練の中での気付きなのですが、貴方は実際に明らかに格上の強さを誇る相手を仕留めてしまった」
「なので、一足飛びに…という事ですか」
一足飛びにスキルのレベル上がったらあの頭痛かよ…レベル1ではぐメタ倒してレベル上がったらどうなってたんだよ
「凄く痛いでしょうね」
神様、シンプルなお答えありがとうございます…そうか、俺は結構酷いことしてたのか
「貴方の槍術スキルは、今は未だ基礎の基礎から一段階戦闘側に向けて伸びただけです。これから鍛えれば、もっと槍術スキルは上がるでしょう。今回のような事がなければ、頭痛も起きません」
「そうなんですか…今後は狩りに使える、という事か」
食材調達の不安が、少し和らいだ気がする
「それではその世界での生活が良い物になる事を祈っていますよ」
ヴェーリンク様からの声が少し遠くなる
「最後に1つ…このまま誰にも会わないまま暮らすのは、大変なのではないかと少し心配しております…それでは…」
気配が消えた…神様に祈られたり心配されたり、随分と勿体ない話だ
兎に角、頭痛の謎は溶けた…一安心だ
病気、脳の病だとしたら、それこそ良い物になる前にエンディングだ
「槍術、か…やったことないよなぁ…」
正直な話、親戚をたらい回しにされていた頃にこう、荒れてしまっていた頃があった
喧嘩もしたし、無免許でバイクとか乗ったり、タバコ吸ったり…恥ずかしい過去だ
会社の上司と同僚のごく一部しか知らない、俺の過去の恥ずかしい歴史
その頃、確かに木刀やら何やらを使った事はある、あるが…槍では無かったな