能面男、また一人暮らし(居候)へ 2
あまりにガラン、とした部屋で、俺は思っていた事をゼノやローザに言ってみた。
「昨日、寝る前に考えはしたんだけど、ローザの本を入れる本棚は俺が作るよ」
「それは助かるけど…出来るの?」
「どうかな、やれるだけはやってみる。それと、問題は…ベッドをどうするか、なんだよね」
その問題には、髭をモシャモシャしながらゼノが答えた。
「それはのぅ、昨日ローザと話していてな…ケンタロウ、明日はお前も一緒に街に来て、買い出しを手伝ってくれんか?」
「俺も?まぁいいけど」
「それで、ローザは街に残る。ワシとケンタロウはこっちに帰ってきて、家具造りじゃ。ある程度したら、またワシは街に戻るがのぅ」
「って事は…結構しっかり買い物を考えて買わないと…だね」
そこで俺は、メモに改めて必要な物を書き出し、ゼノとローザに意見を求めていく。
「街で買うものとして…ベッドに敷く布団?マットレス?は必須として…枕だろ、あとはランプにロウソク…油用のでもいいけど、兎に角ランプ。後は…服やらは分からないからなぁ、俺には」
「服はカナコが歩けるようになったら私が付き添うわ。エリーやアーシャでもいいけど、あの子達はファッションがどうとかよりも機能性と耐久性のみで決めてるからねぇ…」
なるほど、本家のGパンとか好きそうだな。アレもすげー頑丈だし。
「ルーシーはどうじゃ?あの子はお洒落そうじゃぞ?」
「うーん…そうね、あの子とディアナも連れて行きましょう。恐らく、ディアナは安く手に入る場所も分かるでしょうし」
これで服は良し、だ。後は…
「机と椅子かな。本を読むのに窓際に、ランプが置けるようにもしたい。あと、服を入れるタンス…いや、クローゼットに引き出し付きがいいか。後は…」
「そうね、私が街にいる間に、カナコと外に出れたら…カーペットとかカーテンを冬用と夏用で揃えておくわ」
「それなら、布関係は任せるよ」
「さてと、そうと決まれば…ケンタロウ、木を伐りに行くぞ」
「オーケー、行こう」
2人して立ち上がると、ローザは「じゃ、お昼ご飯を作っておくわね」と言って、ティーポットとお茶を飲み終えたティーポットを持って、先に台所へと先に歩いていった。
「ゼノ、俺も斧を出してくるから」
「うむ、そうしたらケンタロウのおる小屋前で待ち合わせじゃ」
「オーケー」
久しぶりの伐採だ、斧やノコギリ刃のついたスコップも準備していこう。俺はゼノと別れて部屋に戻ると、道具類の準備を始める。ハンドアックスにスコップに…ナイフは…代わりに、邪魔にはならないからグラディウスも…何かあったらぶっつけ本番だが、槍よりはいけるんじゃないかと思う、恐らく。取り回しの良さと、俺が距離感さえ間違わなければどうとでもなるはずだ。
「ぃよし!こんなもんか」
パラコートはどうしようかと思ったが…細い木なら纏めて運べるだろうし、そもそも剛腕ゼノがいるのだ、心配はないだろう。小屋の扉を開けると、ゼノが丁度此方に向かって歩いてきていた。手には戦斧とは違う、武骨な斧を持っていた。以前、俺が壊れた物を治した物だ。
「それ使うの?大丈夫かな」
「安心せぇ、ちゃんとワシ自身が確認しておる、良い出来じゃ」
名工と呼ばれたゼノにそう言われると、ちょっと嬉しくなる。合流した俺とゼノは、森の中に少し入った所で使えそうな木を探す。するとゼノが「この辺りのは頑丈じゃ、これにするか」と言ったので、木の質が良く分かっていない俺は頷き、伐採を開始する。
目標は、本棚、机、椅子、そしてベッド。ベッドは明日街で購入した布団に合わせて作るとして…取り敢えずは多めに伐ろう。余ったら薪にでもすれば良い。そうして木を伐り始めて改めて思う。ゼノ、速ぇ。俺が1本伐り終わる頃に、もう2本目終わりかけてる…すげぇな、本当に。
「取り敢えず、こんなもんじゃろ」
結局、俺が3本、ゼノが6本を伐採し、枝払いをして、運ぶ…主にゼノが。俺、1本を引き摺って運んでるんですけど…何で引き摺ってるとはいえ、2本同時にいけるんだ…ドワーフすげぇ、マジすげぇ。運び終わったら、改めてキチンと枝を払い家の庭に並べておく。
「後は…家具の大きさに合わせて切るだけじゃな」
「そうだね。その辺はまた後で、かな?」
家の中からローザが出てきたのが見える。昼飯が出来たらから呼びに来てくれたのだろう。ゼノも「そうしようかのぅ」と、地面に斧を置いていく。俺は…一応置いてくるか、色々持ち過ぎて邪魔だし。
昼飯を終えた俺とゼノは、佳菜子ちゃんの部屋になるであろう部屋にいた。
「窓がここだから…机は…」
「本棚は入り口近くが良いかのぅ…とすると、ベッドは…」
この部屋は、診療所の病室よりは広い。ただ、色々と置いていくと…それなりに考えないといけない。ゼノの持ってきた紐で長さを決めたら、そこで切る。ベッドならベッド、クローゼットならクローゼット…と、取り敢えず合わせて切った紐を纏めて置き、分からなくならないようにする。
本棚やクローゼットは、ある程度は俺の記憶で↕️を決めていけるが、椅子と机はそうはいかないという話になり、結局木の皮を剥いでおいて、本棚とクローゼットだけ先に作る事になった。
「ほれ、これじゃろ?」
扉があるので当然あるとは思っていたが、ゼノが持ってきてくれたのは、蝶番だ。工事業界では丁番と呼ばれたりする。海外呼びをするならば…ヒンジとなる。要は、扉やらの開閉をスムーズに行う為の金具だ。蝶番の名前の由来は、開いた状態が蝶々に見えたから…とか。
扉や棚、クローゼットに一昔前のガラケーまで、様々な形や素材の物があるが、ゼノが持っていたのはシンプルな物だ。ただ、これで十分である。
「これで、クローゼットの扉問題は良しとして…」
後は、板の切り出しと、板同士の接合だな。さて、色々考えてはいるが…俺は匠でも無ければ大工さんでもない。なので、何となくのイメージを紙に描き、1度室内へ。ローザの本の大きさを何冊か並べては測る…大体同じ位の大きさなのが分かったので、厚さも…これは区々なのである程度同じになるように調整しながら並べていく…これは、どう頑張っても佳菜子ちゃんの身長に合わせた本棚だと、横に大きくなりすぎてしまうな…となると、踏み台か。
色々悩んでいると日が暮れてしまう、兎に角一列分ギリギリ取れる位の長さを図り、そこから調整していこう。
外に出ると、ゼノはもう取りかかっている…速いな、流石。俺もさっさと板を切り出そう。
底板は、もう分厚く1枚で切り出してしまう。大体…1センチ位か、一気に1枚でいけるなら、それの方が耐久性がありそうだ。紐を釘で打ち、真っ直ぐに張ったら反対も釘で打つ。目算ではあるが、これに合わせて切れば真っ直ぐに1枚の板を切り出せるはずだ。
「…難しいもんだな…」
ゼノから借りたノコギリを使い、横に倒した木に足を乗せ、紐に合わせて切っていく。たまにズレそうになりながらも、何とか真っ直ぐに目的の長さまで切る事が出来た。もう1本、底板の厚さに合わせて切り…漸く1枚、板が切り出せた。
「くぉぁ…慣れない事すると腰にくるな」
まだ始まったばかりだ、次に取り掛かろう。底板の端からちょっと内側に、鐫で3ヵ所、彫って穴を開ける。鑢を使って削ってある程度滑らかにし、底板の両側に同じ穴を空ける。
それから、側面の板を切り…
「ゼノ?まさか…もう終わったの?クローゼット造り」
「ん?あぁ、後はクローゼットの扉の内側に鏡を入れるだけじゃ。鏡は流石に買いにいかんといけないからのぅ」
作ったというクローゼットが見当たらないが…さておき、ゼノは圧倒的な速度で木を切ってい
く。取り敢えず俺は、「こうしたい」という内容を伝えると「分かっておるわい」と返されてしまった。
やはり、俺が1人でやるのは無謀だったのだろうか…というか、最初からゼノ1人の方が早かった、まである。失敗した…己を過信し過ぎた。
ゼノが切り出した側面用の板を底板に合わせ、穴の場所をボールペンで跡を付け、底板の厚さに合わせてその部分だけを残して鐫で削り落としていく。同じ物をもう1枚造り…取り敢えずは良しとしよう。
「こいつを組み合わせるんじゃな?」
「そうしたい…理想が技術が追い付いてないけど」
「何で釘を使わないんじゃ?」
「いや、ほら…万が一失敗して釘が出てたり、時間が経って歪んだらさ、釘が飛び出してきちゃうだろ?そうすると、佳菜子ちゃんも本も傷付く可能性がある」
「ケンタロウはとことん優しいのぅ」
「そんな事ないさ」
「よし!ワシがとっておきの物を作る!ケンタロウ、木材の切り出しを任せるぞ!」
「え?ああ、分かった」
結局、俺が作るよりゼノが作る方が速いので、俺は手を引きゼノに任せる事にした。大工仕事はやはりそう簡単には出来るもんじゃない…ただ、自分でやると言っておきながら、情けないな。
それからのゼノは、それはもう凄かった。一切の迷いなく鐫を入れ、切り、加工を施していく。板を切り出すだけの俺が追い付かない程に速く、ゼノはその合間に端材で踏み台まで仕上げていた。
「…よし、こんなもんでどうじゃ?」
側面、平面の板を全て加工して嵌め込み、最後に天板を乗せて木槌て叩いて嵌め込み…ゼノによる本棚造りは完成、俺はただ…拍手を送る以外に何も出来なかった。
「うむ…強度も良い」
ゼノが手で押して揺らし、最終チェックを終えた。この領域に到達すらのに、俺はあと何年かかるのだろうか。もしかしたら、一生到達は出来ないかもしれない。
「後は…どうした?ケンタロウ」
「いや、自信満々に「俺がやるよ」とか言っておきながらこの様か、と」
「カッカッカ!ワシはのぅ、木も鉄も扱いに関してはまだまだ誰にも負けんわい!」
ゼノは笑いながらから本棚を持ち上げ、「これも軒下に入れておくか」と言うので、「片付けとく」と伝え、辺りに散らばった切った木材の切れ端、木片なんかを集める。大きな物は斧で割ってから纏め、1ヵ所に集めていく。こいつらの行き先は…風呂釜か台所か暖炉行きだ。まだ手を付けていない木は、後でビニールシートでもかけておこう。そうして纏めて、籠に入れて…後で運ぶとして、だ。
「ん…?あれ、ローザもいる」
見ると、軒下にはローザも来ていた。家具の出来でも見に来ているのだろうか?…と、ローザはまず本棚に掌を向けると、目を瞑る。そして…
「何か言って…まさか、詠唱?」
魔法を使う上で、詠唱は重要な要素の1つとされている。そして、高位の魔法使いほど詠唱は短くなり、無詠唱にまで達すると、その魔法を瞬間的に使える、と聞いていた。ローザは特にその能力が高く、ほぼ無詠唱で魔法を発動させられるというが…そんなローザが詠唱…?
と、ローザの体全体が光り出し、それらが肩から肘、そして、掌と順番に流れ集まっていき…本棚を包み込んだ。
「今の、何?」
思わず近付いて聞くと、ローザは少し額に汗を浮かべ、深呼吸をしていた。代わりにゼノが
「ああ、防腐や防虫、耐火なんかも兼ねてのぅ、魔法使いが防御魔法をかけるのが普通なんじゃよ。街中で売られとる木製家具は大体施してある」
と、説明してくれた。なるほど…日本であれば柿渋のエキスなんかを防腐剤代わりに塗ったりするが、この世界にはそれが無い換わりに魔法による防護か付与されるのか。
「ローザ、大丈夫?」
「ふぅ…ええ、大丈夫。久しぶりに全力で防護魔法をかけたからね」
「へぇ…この魔法で、どれくらい頑丈になったの?」
「そうねぇ…ゼノが全力で殴っても耐えるわね、1発なら」
…おいおい、マジかよ。片手で人持ち上げる剛腕ゼノの一撃を、耐える?それ、もう木材じゃなくて、分厚い鉄板レベルなんじゃないか?つーか、ゼノの鉄拳は魔法も一撃しか耐えられないのかよ…ゼノの腕は2本なんだぜ…矛盾の昔話かっての。
「因みに…この底板の裏、ひっくり返さないと見えない部分に防護魔法の刻印をするのが一般的じゃ」
「へー…まぁそうか、デザイン重視したら特に、こういう刻印は気になるのかな?これは…焼き印とはちょっと違うのか、見た目は似ているけど」
触りたい気もするが、止めておこう。ゼノが本棚を元に戻し、「じゃあ運ぶぞ」と言いながら1人で運んでしまった…ああ、俺に手伝えって言った訳じゃないのか。
「ローザ、クローゼットに魔法は?」
「もうかけてあるわ」
「そっか…って、これ何処から入れるんだろう」
入り口は…まぁ何とか通れるだろう。しかし…その後が大変そうだ。
「ああ、それはゼノに任せておきなさい。あの人ならどんな向きでも持っていけるから」
「ああ、確かに…しかし、家具に関しては何の役にも立てなかったな」
「いいのよ、出来る者がやればいいんだから。私だって防護魔法かけたくらいだもの」
「それだけでもかなり重要でしょ…冬の間に少し練習するかな」
あまりにも情けないのだ、自分が。せめて何か、ちゃんとしたものを作りたい。こんなレベルの奴が小屋だのほざいてたんだ、情けなくもなる。
「そうね、生きる時間全ては勉強、ともいうし、貴方がやりたいように学びなさい」
そう言って、ローザは家の中に戻っていった…生きる時間全ては、か…確かになぁ。こんな事なら大工の知人にでも聞いておけば良かったよ、全く。入れ替わりのようにゼノが戻ってくると、スッとそこいらの木の枝でも持ち上げるかのように持ち上げて、行ってしまった…すげぇな、異世界。もう規格外過ぎて何か言う気も悲観する気もなくなったわ。大人しく木片やらを集めて、風呂場に運ぶか…
部屋の配置まで終え、夕食の時間となる。
「のぅケンタロウ…そんなに思い詰めなくていいんじゃぞ?」
昼間の件で、ゼノが心配していた…俺、そんなに思い詰めた顔してたかな…?顔を撫でてみる。
「いや、表情は変わっておらん」
そりゃそうか…こんな事で俺の表情筋が復活する訳もないか。
「気配で分かるんじゃよ…気にしないでいいんじゃ、お主がやってあげたい、という気持ちが大切なんじゃ」
「そう、なのかな…俺には良く分からないけど、ただ、ちょっと情けなかったなぁ、と」
「カナコはそんな事思わんよ」
「いや、佳菜子ちゃんは関係無くてね…いや、まぁいいか」
パンを頬張り、スープで流し込む…これがやとらと美味くて好きだ。スープの味にバターの香りとパンの香ばしさが加わり、めっちゃくちゃに美味い。
「で、明日は全員で街に戻るんだよね?」
「そうじゃな、ベッドの中身を買う。そうしてワシがベッド本体を作る。そうしたら、ワシは街に戻る」
「後は任せるわよ、ケンタロウ。防護魔法でこの家を被っては行くから、何かあったら籠りなさい」
「オーケー、俺は別に命を粗末にしたくはないからな」
「でも、貴方は自分に頓着しなさ過ぎるのよ…」
バレてたか…いや、これから気を付けよう…
「さて、明日は街に戻るんじゃ、速く寝ようかのぅ」
ゼノの言葉を切欠に、ローザは片付けに、ゼノはローザの分の荷造り、俺は…食器をローザに渡したら後、井戸の前にいた。そして、井戸の中にパラコートに洗った石を結びつけて下ろしていく…石が水面に到着した水音が聞こえたので、そのまま下ろしていく…
「ここが、底だな…」
井戸の縁にパラコートを寄せ、井戸の縁の所に引っ掛け…そこでナイフで傷をつける。そのままパラコートを引き揚げ、ナイフで傷を付けた場所で切る。石をパラコートごと切り離し…パラコートを纏めた。これで、ゼノ宅の井戸の深さが分かった。明日、ゼノに渡そう。
◆
翌日、朝から来てくれた馬車に乗り、またフォーテッドの街に戻ってきた。エクスに挨拶し、宿屋前で降ろしてもらい、行者さんにまた後でお願いします、と伝える。
「いやー…儲かっちゃうなぁ」
と、笑いながら了承してくれた行者さんに別れを告げ、目的の場所へと3人で向かう。目的は…診療所、佳菜子ちゃんを短時間でも外出させてもらい、ベッドを選んで貰おうという考えだ。ついでに座高とか分かれば、椅子と机も作ってあげられる…と、思う。まぁ、買っても良いと思うが。
3人は適当に商業エリアを眺めながら、診療所を目指す。途中、「ここに来よう」「ここも寄ろう」等と言いながら、店をピックアップしていく。
「さて、到着っと」
「ケンタロウ、ゼノ、先に行ってて。外出許可を貰っておくわ」
「分かった、ありがとう」
ゼノと2人で奥に進み、佳菜子ちゃんの病室の前に着いた…ノックをすると、久しぶりの聞き慣れた「はーい」という声を聞いた。
ガチャ、と扉を開けて「おはよう」と声をかけた…固まってる。
「具合はどうじゃ?」
ゼノの質問に
「え?あ、はい、うん…良いよ、ゼノお爺ちゃん」
と答える佳菜子ちゃん。対してゼノは「そうかそうか、なら良いのじゃ」と、見たこと無い位のニッコニコっぷりである。そして、俺には
「あ、え?あの、暫くは来れないって…」
と、パニックになっていた。ウサ子も「うさもきいた」と言っている。
「そうなんだけどね…佳菜子ちゃんのさ、部屋の家具を手に入れるのに、佳菜子ちゃんの協力が必要になってね」
「あ、そうなんですか」
「ほら、身長に合わせたり、ね」
「確かに…」
そこに、ローザも部屋に入ってきた。どうやら外出許可が出たようだ。
「と、言うことなんだけど、どうかしら?」
「が、外出ですか?あわわわ…ね、寝癖直さなきゃ…」
佳菜子ちゃんがわたわたと動いたので、うさ子が慌てて俺の所にジャンプしてきた。
「ゆっくり準備なさい…ほら、男共は外に出た出た」
追い出された。いや、そりゃそうか。ゼノと2人、受付で待つことにした。




