能面男、居候生活へ 27
そんな事でウダウダと考えている自分自身にも情けなくなってきてしまう。こう…ただ俺は、佳菜子ちゃんの笑顔が見たかったんだ…いや、もう何だかこれも言い訳に聞こえるな。
「ふぅ…」
何かこう、モヤッとする…外でも走るか?いや…日本と違って街灯なんて物が殆ど無い。月明かりだけで走るのは…道に迷いそうな気がする。それなら…槍の素振りなんかどうだろう?あれ以来まともに触ってないし、気晴らしに素振りをしに門の外には出れないだろうか?宿の主人に聞いてみる。
「門の外?まぁ出れると思うけど…俺は推奨しないな、危ないし。それに、何かあったらゼノ様やローザ様に何て説明していいか」
「門の外って言っても、そんなに離れないですよ」
「何か用事があるのか?」
「…ちょっと、素振りを。最近サボってたんで」
すると、宿の主人は顔を少し近付けてくると、
「…槍に布を巻いて、裏口から出た方が良い。君はルードを倒したとして顔も段々知られてきている。槍を持って表から出たら、何か討伐しに行くんじゃないかといちいち騒ぎになるかもしれないからね」
と教えてくれた…煩わしいな、全く。
「まぁほら、それだけあの野郎を嫌ってた奴が多いのさ」
と、フォローなのか何なのか分からん事を言って、それから裏口の場所と、あまり遅いと寝てしまうから気を付けてくれ、と教えてくれた。俺は頷いてから2階の自室に戻ると、念のために鎧を着込み、ハルバードを持つ。ハルバードは既に布を被せておいたまま置いておいたので、丁度良かった。
下に降りると宿の奥さんが手招きしているので、こっそりそちらに向かうと裏口があり、そこから外に出させてもらう。
「あまり無理しないようにね?」
と言って送り出してくれた。起きている時間なら、裏口をノックしたら開けてくれるそうだ。
そのまま、夜の闇に紛れて街門まで向かう…ちょっとワクワクしちまうのは、俺が中2心を忘れない、若さ溢れる青年だからだな!…そう思っておこう。
門には知った顔が眠そうに立っていた…24時間空いてるのか、凄いな。
「エクス、こんばんは」
「あっ!兄貴!こんばんは!」
いつから弟が出来たんだ、俺は。いや、慕ってくれるのは有難いんだが、ちょっとくすぐったい気分になる。
「大変だな、朝までか?」
「いえいえ、もうすぐ正門は下ろします。んで、どうしてもって時は格子越しに声かけて貰って、脇にある扉から入れます。外からは分かりにくい作りになってて、2人いる当直の門番しか開けられないんです」
「へー…で、もう1人は?」
「いま、飯食いに行ってます。俺は先に行ったんで、ちょっと腹いっぱいで眠くて…」
そうして、また欠伸をするエクスに、「またあのベテランさんに怒られるぞ?」と冗談めかして言うと、「それは嫌だー」とゲンナリしていた。
「ところで兄貴、どうしたんですか?こんな時間にこんな所で」
「いやぁ…こう、ちょっと体動かしたくてね、コイツを振り回そうと思ったんだ」
背中に背負ったハルバードを親指で指す。
「なるほどー…鍛練みたいなもんですか?」
「そんな大層なもんじゃないさ、ただ、思うままに振ったり突いたり、仮想敵を想像してみたり…かな?」
「へー…兄貴、槍術スキルはどのくらいなんですか?」
「…6だったかな?」
「じゃあ、結構ッスね」
「結構ってどのくらいだよ…」
「んー…兵士で言うなら、中堅クラスです」
「…微妙だな」
己を知り、ちょっと何とも言えない気分になっていた所に、もう1人の門番が帰ってきた。まだ見たことが無い人だが、俺より年上に見える。
「どうされました?」
「お帰りなさい。この人はほら、ルード斬り倒した」
「ああ、そうでしたか。それで、こんな夜に門に何か?」
「何か、槍の訓練したいから、外に出たいらしいです。問題ないですよね?」
俺が説明しなくても、エクスがしてくれる…楽だなぁ。
「ああ、構いませんよ、身元もはっきりなさってますし…ただ、あまり森の深くには行かないで下さい。最近、森の奥で魔物と思われる相手に襲われ、命を落とした若い冒険者がいましたので」
「大丈夫です、元々森の方に行くつもりはなくて、街道から少し離れた場所でやろうと思ってましたし」
「なるほど、では門が見える位の場所でお願いいします。それなら何かあっても加勢出来ますので」
門番の言葉に頷くと、エクスが外から分かりにくくしてあるという扉を開いてくれた。門番に頭を下げ、エクスには「じゃ、ちょっと気分転換してくるよ」と伝え、外に出た。
「じゃ、戻るときは門の格子越しに声かけて下さい、また扉開けますので」
と言って、扉を閉めた…凄いな、石積みの壁と同化して、本当に何処か分からない。技術に驚きながら、門から離れる。あまり見せられるようなものでも無い。
「本当に、月明かりだけだな」
辺りは暗いが、流石に暗さに慣れてきた…暗順応とかって言うんだっけな、確か。ハルバードを背中の留め具から外し、布を取り払う。
月明かりに照らされたハルバードの刃は、月明かりを反射させて淡く美しく輝いている。ルードを斬った時に無茶な使い方をしたが、刃零れ1つ無い。
「ふぅ~………」
ゆっくりと、息を吐く。槍術スキルの能力で、イメージは出来る。受けも避けも斬り、突き、鉤…大体出来たら、後は振る。頭の中にイメージしながら…相手がこう来たら、こう…そう避けるならこうして…何となくのイメージでハルバードを振るうが…何か違う。
「実戦経験と相手との打ち合いがほぼ無いのが問題なんだろうな」
イメージトレーニングは大事な訓練だが…やはり限界はある。そもそも、実戦あってのイメージトレーニングと思う。相手と打ち合いも無しに、イメージも何も無いだろう。
「どうしたもんかね…」
ハルバードを肩にかけ空を見上げていると、門の方角、まだ遠くから灯りが見えた。誰か来たのだろうか、多少警戒しながら見ていると…エクスが歩いてくる。肩に何か担ぎ持ち、もう片方の手には松明を持っていた。
「兄貴!」
「どうしたんだ?門番は?」
「実は、さっきの先輩が「気になるなら行ってこい、ついでにこれ持っていって稽古でもつけてもらえ」って、刃の潰してあるハルバードを2本持たせてくれました」
「そうか、それは助かる。正直、実戦や誰かとの稽古の経験が圧倒的に足りないから、相手をしてくれるなら」
ミスリルハルバードを地面に突き立て、エクスから練習用のハルバードを借り受ける。やはりミスリル製は普通の物より軽いらしく、練習用として渡された物はズシリとした重さがあった。
「コイツは…はは、これは明日は筋肉痛かもしれないな」
振ると、その重さがより分かる。長く伸ばされた鉄の軸棒の先に、小さめながら武骨な鉄製の斧と槍、それに鉤。そうか、そもそも俺はここから入ってないから駄目なんだな。
「どうッスか?いけそうですか?」
「分からない。ただ、振れるし…やってみよう」
向き合い、構える。正しい構えなんか知らんが、槍術スキルのおかげか、毎回しっくりくる構えがあるのでそうしている。エクスを見ると、俺と構え方が違う。俺は肩に乗せて、バットを振りかぶった時のような構え、一方エクスは、両手で持って槍先を此方に向け、少し上に上げて構える。槍か斧か、どちらを優先しているか、なんだろうか。
「では、行きます!」
エクスが先に動いた。踏み込みから、予想通りの突きでの攻撃だ。俺はその突きに対して体を捻りながら、持ち手より下側の軸で下から上に跳ね上げる。ボディが空いた所に目掛け、斧を思いっきり振り抜こうとするが、エクスはハルバードを縦にして防ぐ。金属同士のぶつかって火花が飛び散る中、俺に突きを弾かれたエクスは、態勢をすぐに立て直し、更に突きを入れてきた。
「うぉお!?」
何とか体を捻ってかわすが、そのまま速い速度で更に2撃、3撃と突いてくる。
「くっ!ぬっ!このぉ!」
何とか避けながら反撃の糸口を探す。体が動くのは、恐らく槍術スキルのおかげか。4撃目、更に来る突きを避けて…
「っらぁ!」
そのまま横薙ぎに払ってきた!?慌てて此方もハルバードの軸で受け止め…うぉっ!?手ぇ痛ぇ!?かなりの衝撃が手に走る。
「くそっ!防がれた!?」
「このぉ!」
受け止めたまま、タイミングを図って上に受け流す。
「うわっ!?」
押し切ろうとしていたエクスのハルバードはそのまま俺の反らした軸に合わせて上に滑っていき、俺の斧刃に引っ掛かる。感覚だけで、そのままハルバードを回し、持ち手より下側、石突き側でがら空きのエクスのボディに打ち付ける。
「ごふっ!?」
そのまま振り抜き、エクスのハルバードを飛ばし、振り下ろして…寸止めする。
「ま、参った!…げほっ」
「悪かった、大丈夫か?結構強めに入れちまった」
エクスに手を差し出すと、エクスはその手を掴んで立ち上がる。
「くそー…さっきのは俺の必殺のコンビネーションだったのに、初見で防がれた…」
「いや、マジで危なかった。恐らくはスキルの力が無ければ反応出来てない。俺も防御面での課題が山積みだ」
エクスは飛ばされたハルバードを拾いに行くと、戻るなり「もう1本お願いします!」と構えてきた。俺は頷き、同じく構え直す。こうして、エクスとの訓練は俺の槍術スキル鍛練は実戦形式の打ち合いによる、俺自身の経験を積む良い機会となった。
どれくらいの時間が立ったのか、もう何戦目かも覚えていない打ち合いを終えた。俺は途中から鎧の下の上着もトレーナーも脱ぎ、エクスも鎧の下の服を脱いで訓練をしていた。
「はぁ、はぁ…ち、ちょっと待った!」
俺はエクスを制す。仰向けに倒れ込んだまま、動けない…体力がすっからかんだ。エクスもエクスで、座り込んだまま立てないでいる。
「ぜぇ、はぁ…お、俺ももう…腕上がらないかもしれないッス…」
呼吸を整えて体を起こすと、遠くから灯りが近付いてくるのが見えた。
「…いつまでも帰ってこないと思ったら…」
先程いた、もう1人の門番だった。どうやら様子を見にきてくれたらしい。というか、その言い方だと、相当な時間訓練していたのだろうか?全然時間の感覚無くやっていたから、まるで分からないが。
「エクス…お前、業務に支障が出る程やってどうする…全く」
「うっ…す、すんません…」
そう言えばそうだった、エクスは仕事の途中で俺の訓練に付き合ってくれたようなもんだ…悪い事をしてしまった…
「すみません、俺がエクスを拘束していたようなものですから」
と、頭を下げると、門番さんは此方を見て
「そうですね。正直、門番兵の仕事に支障が出てしまうと、この国の安全が危うくなる可能性もあります。マガミさんには改めて気を付けていただきたい」
叱られてしまった…当たり前なのだが。俺は再度頭を下げると
「すいませんでした。仰る通りです、俺個人の事で、本当に申し訳ありませんでした」
と、お詫びをする。エクスも横で、「すいませんでした…」と謝っていた。
「はぁ~…今日は暇でしたし、もうそろそろ雪も降り出すような時期ですから、夜間は確かに暇なんですがね…兎に角、2人ともすぐに服を纏めて武器ももって、門の中へ。そのままでは風邪を引いてしまう」
俺とエクスは自分の服を拾うと、俺は地面に突き立てたミスリルハルバードと、訓練用ハルバードも持つ。エクスが「持ちましょうか?」と言ってきてくれたが、エクスも疲れているだろうから断っておいた。
そうして門の中に戻る途中、汗がだんだん冷えていくのを感じた。これは急いで門の中に戻って、せめて汗を拭かねば、間違いなく風邪を引く。
門の前に着いた時には、既に俺もエクスも汗が冷え、ブルブルと震えながら門の隠し扉を通って中に入ると、俺が泊まる宿の主人が呆れた表情で待っていてくれた。
「…絶対やると思ったよ…うちのカミさんに言われてよ」
と、もうもうと湯気の立つお湯の入ったバケツが1つ、足元に置かれていた。中には布が入っている。
「取り敢えず、体を拭きなさい。そちらの門番さんも、布は用意してもらったから」
俺とエクスは急いで鎧を脱ぐと、お湯に浸かった布を絞ってから服を脱いで上半身裸になり、冷たい汗を拭いていく。拭き終わると急いで服を着ていく。途中、「こんな夜中だ、誰も見てないからズボンも脱いで拭きなさい」と言われ、いそいそと脱いで拭いていく。流石にパンツまでは脱がなかったが。それから靴と靴下を脱いで拭き、今度は鎧の内側を丁寧に拭いていく。
「ふぅ…終わった…うぉお…寒っ」
全て終わり、布を軽く洗って絞る。お湯は、隠し扉の外に捨てた。
「はぁ…取り敢えず、俺は帰る」
宿屋の主人がバケツと布を持って帰っていった…本当に申し訳ない…更に、
「今、詰所の薪ストーブに火を入れてあるから、2人とも中で体を暖めなさい」
と門番さんに言われ、俺とエクスはすごすごと詰所に入り、小さめの薪ストーブの前で2人で小さくなって暖を取る。
「はぁ…やっちゃいましたね」
「いや、何か本当にすまない。俺に付き合わせて、エクスまで怒られてしまった」
「いやいや、俺こそ…本来ならば止める立場なのに…でも、嬉しかったッス、今や街の中で噂になってるような人と手合わせ出来て良かったッスよ」
「はは、大した事無かったろ?ルードだって、不意打ちのラッキーパンチみたいなもんさ、梁ごと切れるミスリルハルバードのおかげでもあるからな」
「でも、俺の必殺技の突きからの横薙ぎ、初見ですよね?あれ、あっさり防がれちゃったのは本当に驚きましたよ!初見であれ防いだの、最近だとアークさんって騎士の人だけですよ?」
「アーク、実は強いんだな」
残念イケメンなのに、とは付け足さなかった、友人の名誉の為に。
「え?まさか知り合いッスか!?」
「ああ、最近知り合った友人だ。近々、暇があれば飯食いに行く」
「うわー!いいなー!俺も行きてー!」
「ん?アークに会ったら聞いてみるよ、俺は構わないから」
「是非ともお願いします!」
それから、話はさっきの訓練になっていく。あの時はこうして、こう来たらこう返して、鉤で相手の武器を引っ掛け方や、もっと早く突きを出す方法、距離の稼ぎ方…兵士達が習う初歩を今更学んでいく。
エクスは多少抽象的だが、一生懸命に知り得る限りの色々な技術に関してを教えてくれる。俺は俺で、自分の中でゆっくりと噛み砕きながら知識を入れていく。実戦も大事だが、そもそもの知識が無い事には反射で対応出来ても、戦闘には生かせない。
「はー…なるほどなぁ…」
「兄貴、前いた世界じゃ武器での戦闘経験無いんスか?」
「無いなぁ…素手では昔は良くやってた方だけど、まぁそこまでだな」
「ほぼ素人って事ッスよね?…それで防がれたのか、あの連撃…くぅう…もっと鍛えなきゃなぁ…」
そう言うと、エクスは太い薪を数本、小さな薪ストーブに放り込むと
「じゃ、俺は仕事に戻ります!いい加減、先輩には休憩してもらいたいので!」
そう言って立ち上がり、詰所の扉を開いて…振り返って、
「兄貴は適当にいてもらって構わないんで!薪とか、その辺にありますから」
と言って走って行ってしまった…元気な奴だなぁ。言われた場所を見ると、確かに薪は置いてある。多いか、と言われると、心許ないが。しかし、薪ストーブか…たまにこの世界でも見掛けるが、やはり薪は売れるのかもしれないな…流石に、商売出来るほどは乾燥させる場所なんかも含めて無理そうなのでやらないが。
「ここの追加分位は取ってくるかな」
明日、正門が開いたら行こう。迷惑かけた分はせめて、少しでも役に立とうと思う。さて、後は…宿屋が開くまではいさせて貰うかな。それまで、さっきの戦闘訓練の事や教わった事を思い出していようか。そう思った矢先に…
「ぬぉああ!いっててて!?」
忘れてたよ…スキル頭痛。くっそ、マジかよ!また何か急成長したのかよ!?
槍術6→7
基礎戦闘術0→3
基礎戦闘術…?ああ、エクスに色々教わったからか。しかし、基礎も無かった奴が噂になって、大金貰ってて…ちょっと違うよなぁ。基礎あってこその、だと普通は思うんだが…なってしまったのだから、止めようが無いが。
しかし、やっと基礎を学んだくせに槍術7か…バランス悪いな。今後も、訓練は必要だな。
と、詰所の扉が開き、先程の門番が入ってきた。
「くぉお寒い…お、マガミさん、いらしたのですな」
「すいません、宿屋が開くまで行くところも無くて…あぁ、そうだ、今度薪を取ってきますよ、暖かい場所に居させてくれたお礼に」
「いや、いいんですよ、そんなの…ところで、聞きましたよ?エクスを圧倒してたって」
「圧倒?まさか…俺はそこまで技術も無いし、ルードだって不意打ちで倒したようなもんです。元の世界ではハルバードどころか槍も扱った事がありませんでしたし」
「ふむ…エクスは「圧倒された!兄貴すげぇ!」と言っておりましたが…」
「大げさですよ、体格差と槍術スキルですよ。俺は召喚者だからと上がりやすいので。それに、体力も筋力も足りていないですから」
謙遜ではなく、現実的な話。筋力に体力、技術、知識…俺にはまだ、足りない物があまりに多すぎる。1歩ずつ補わなければならないんだろうが、それでも気は逸る。
「うーむ、それでは…エクスと大差ない私ではありますが、多少なりともお話をしましょう。答えられる範囲でお答えします。これでも、昔はちょっと冒険者的な事もしておりましたので」
「そうなんですか?では…お言葉に甘えて…」
それから、彼の休憩が終わるまでの間、色々な話を聞き、質問し、俺に足りない知識を深めていく。そうして彼の休憩は終わり、エクスがまた戻り…そうして、夜は終わりを告げ、また何時もの朝が始まっていくのだった。




