能面男、居候生活へ 23
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城に革袋を返却に行く途中、ローザは「そう言えば貴方、買いたい物があるんじゃないの?」と言われ、頷くと「革袋は私に任せなさい」といって、ローザ1人が城に向かっていってしまった。メインストリートの交差点、噴水前で1人腰掛け、考える。
この世界にこれから住むのだが、自分は知らない事が多すぎるなぁ、と。仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでも…と思う。
学ばなければいけないなぁ、と思うが、そうなれば結局頼るのはゼノとローザになってしまうのだろう。それもまた仕方ない、となってしまうのだが、やはり住む場所を提供して貰い、食事も出して貰い…世話になりっぱなしだと思ってはいる。
じゃあ何かプレゼントでも…と思うが、
「いや、あの2人、そもそもすげぇ金持ちだしなぁ」
と、自分の予算なんかでは到底安物しか買えないし…とも思う。俺が社会人になれた切欠でもある爺さんと婆さんは、「お前がくれたなら何でも嬉しい」と言ってくれたが、ゼノやローザも喜んでくれるのか…恐らく、喜んではくれる気もする。そもそも、人からのプレゼントを露骨に嫌がるような性格ではないだろうと思う。
「取り敢えず…無難な物を選ぼう…」
俺はそうして一旦宿に戻り、自分のドでかい鞄を持ち出し、マーケットへと向かうことにした。
「色々あるんだな~…」
改めて、随分と色んな物が売られている…食料品は元より、雑貨、衣服、食器…兎に角雑多に、色んな店がある。屋台も多く、日本のアメ横を更に広くゴチャッとさせた感がある。歩いていると、1つの屋台が目に入った。
店番は…お婆ちゃん1人で、売り物は…飾り気もなく、単色の多い…これ、マフラーとかか。そういう物を売っているようだ。
「すみません、この商品を少し見させて頂いていいですか?」
店番のお婆ちゃんに話し掛けると、ゆっくり此方を見てから、ニッコリと笑い
「ええ、ええ、どうぞ。お若い方にはつまらない物かもしれませんが…」
と、言ってくれた。若い、か…確かに、お婆ちゃんよりは若いか…1つ、淡い紫色のマフラーを手に取ってみる…暖かい。
「すみません、これって…羊の毛ですか?」
「ええ、そうです…ワシらはこの街から離れた山の上で暮らしておりましてな…羊の毛刈りを行った時に、こういう物を作って売りに来るのです」
「へぇ~…この色は?」
「花や葉などで着色しております…」
全て自然由来…か、色合いもとても素朴だが綺麗で、良い物に思える。
「あの、ですね…これって、お婆ちゃん1人で?」
「ええ…孫が手伝ってくれたりはしますが、基本は1人ですねぇ」
「そうなんですか…あの、この薄紫のマフラー1つと、このショール…この緑と、薄紫のを1つずつ下さい」
「はいはい…えっとね、4400オウカになります」
「はい…えーっと確か…これが10000か…はい、これで」
こっそり資産管理局の受付の人に聞いておいて助かった、硬貨の価値。すると、お婆ちゃんは少し困ってしまっていた…どうしたんだろう?
「ごめんなさいねぇ…お釣りがちょっと無いんだよ…」
「なるほど…じゃあちょっと待ってて下さい」
そう伝えて、適当な店舗に飛び込み、両替をお願いしてみると、両替をしてくれた。屋台のお店だとお釣りが無い場合も多く、両替はしてくれるという事だ…助かった。
1万オウカを1000オウカ9枚と100オウカ10枚にしてもらい、またお婆ちゃんの待つ屋台へ。
「あらおかえり…何だか手間をかけさせちゃったわねぇ…」
謝るお婆ちゃんに「大丈夫ですよ」と伝え、先程選んだ物をもう一度…とも思ったが、良く見ると靴下やらもある。どれもしっかりとした編み方で、暖かそうだ。
「すいません、さっきのマフラーとショールの他に…この緑と薄紫と赤と黒の靴下と、この膝掛けもください」
「あらあら、そんなに沢山…いいのかい?」
「ええ、とても暖かそうなので」
そう言い、改めて会計をしてもらう。ちょっとゆっくりなのはご愛嬌、最終的に7000オウカになるらしいので、敢えて細かい1000オウカ6枚と100オウカ10枚で支払った。お婆ちゃんは「わざわざ細かいのを用意してくれたのかい?」と言っていたが、「いや、たまたま余所で買い物して、細かいのがこうなりました」と伝えて、買った物をリュックに入れて立ち去った。
「100%ウール、しかもすげーしっかりとした手編み、自然由来の染め上げ…日本じゃ幾らになるか分からんな…」
正直、日本の金銭感覚でいると、この辺りの屋台やお店の商品は…安く感じる。勿論、大金を手にした事による気の大きさもあるんだろうが…だろうが。
「さてと、他にも見てみるか」
見て回るだけで1日過ぎてしまいそうな程の店が、屋台が並ぶこの場所で、この世界に来て買い物を楽しめるようになるとは、正直思っていなかった。そもそもが、サバイバル生活をするつもりでいたのだから、街にいることが今更ながら信じられない。
「巡り合わせなんてのは、分からないもんだな」
本当に、世の中分からないものである、異世界だけど。
一頻り買い物を済ませた俺は、まずは宿屋に戻った。カウンターには宿屋の主人ではなく奥さんが立っていた。カウンターに腰掛けると、「ちょっと待ってね、まだ作ってる最中なんだ」と言われた。いや、飯じゃなくてですね。
「あ、いや、違うんですよ」
そう言うと、奥さんは不思議そうな顔で俺を見るので、新しく買ったバスケットを渡した。作りも素材も大きさも、大体同じものを選んだつもりだ。
「あらわざわざ…ありがとうねぇ」
嬉しそうな顔をしてくれている。そもそもが俺がダメにしたようなもんなので、
「いえ、丁度同じような物が売っていましたので」
と伝え、宿の自室に戻ってリュックを下ろす。中から渡さない物を選んで再度入れ直すと、改めてリュックを背負う。
「さて、行くか…起きてるかな?」
まぁ、もしまだ寝ているようなら明日にでもするか。
診療所に来る前に、美味しそうなリンゴが売っていたので、3つ程買ってから来た…果たして、起きているだろうか?
「さっき起きたので、遅めですがお昼を出して…もう食べ終わってるんじゃないかしら?」
看護士さんの話を聞いたので、安心して病室をノックすると、中から「はーい」という佳菜子ちゃんの声と、「けんたろ」という念話が飛んできた。
扉を開けると、佳菜子ちゃんはウサ子を撫でながらぼんやりとしていたようだ。
「おはよう、体調は?」
「えっと、少しだけ頭の奥がぼんやりとしてますけど、体は平気です」
「そっか…ところで、さっきここに来る前に買ったんだけど、食べられる?」
リンゴをポケットから取り出すと、佳菜子ちゃんが
「わぁ!リンゴ!美味しそう…」
と言ったのが聞こえたので、ついでに買っておいた小さなナイフを使って皮を剥く。
「わ、真上さん…上手いですね」
「何かね、割と得意なんだよ、リンゴの皮剥き」
そう、俺のあまり表に出ないが出した所で「へーっ…」で終わる特技の1つ、リンゴの皮剥きが途中で切れずに、長く作れるという技だ。同様に桂剥きなんかも出来たりする、料理出来ない俺の持つ謎の特技だ。
リンゴの皮を剥き終えたら、今さっき佳菜子ちゃんのお昼のパンの乗っていたお皿を借り、その上で半分にし、更に四等分に切り分け、芯と種を取り除いて…
「はい、どうぞ」
と、切ったリンゴを乗せた皿を渡し、俺はトレイに直接皮を置く。すると瞬間からウサ子がシャクシャク音を立てて食べ始めた。
「ウサ子、剥いた果肉もやろうか?」
と聞くと、「これも、おいし」と言いながら、凄い速さでリンゴの皮が無くなっていく様を見ながら、取り敢えず剥いて芯と種を抜いた物も置いてやると、皮と果肉を交互に食べていた。お前は相変わらず器用だな。
「甘くてシャクシャクで…美味しいです」
「それは良かった。まだあるからね」
「わぁ…幸せです」
甘味少ないもんなぁ、入院中は。美味しそうに食べる2人を微笑ましく思いながら、リンゴを剥く手は止めない…思い出すなぁ、入院した婆さんに剥いてやったリンゴ。あの時は、皮と芯と種は処分したんだったな…看護士さんに聞いて、ビニール袋に入れて燃えるゴミのゴミ箱に…等と懐かしい思い出を思い出していたら、ゴリゴリ音がする。
「ウサ子、そこは美味しくなくないか?」
「ううん、おいし」
まさかの芯や種まで食らい尽くすとは思わなかったぜ…お前がいると、野菜クズとか出なさそうだな。それから佳菜子ちゃんの方を見ると…食べ終わって他ので無言でリンゴを乗せていく。
「え!?あ、いや、あの…ありがとうございます」
そのまま、顔を真っ赤にしてシャクシャク食べ出す佳菜子ちゃん。何も気にしないで、沢山食べたらいいさ。何せ、それでもまだ細すぎると思っているし、俺は。わんこリンゴはあっという間に終わりを告げ、流石に2個食べたらお腹いっぱいらしい佳菜子ちゃんは満足げにしていた。その膝の上で、ウサ子も満足そうにしていた。しかし、良く食ったな、ウサ子…捨てにいくゴミの少ない事…後で看護士さんに頼むか。
「さてと」
俺は背負っていたリュックを下ろすと、中から靴下を4つと薄紫のショールを出し、佳菜子ちゃんに渡す。
「えっ、あの…これ…」
「色が気に入るか分からないんだけどね、たまたま見付けた屋台のお婆ちゃんが作ってるらしくて、何とウール100%で植物で着色してるらしいんだ」
「あの、そ、そうじゃなくて…」
「佳菜子ちゃん、中庭に出る時寒そうだったからさ。足元も、見た目はアレかもしれないけどかなり暖かいと思うよ。ショールも、触った感じはめちゃくちゃ暖かそうだったからさ」
「…何から何まで…本当にありがとうございます…」
ジワッと涙ぐむ佳菜子ちゃんに、ウサ子が「かなこ?かなし?」と聞く。あのな、そりゃセンス的に悲しくなるセンスかも知れんけどな…言ってて自分で悲しくなるわ!
「違うの…真上さんが優しくて、嬉しいんだぁ…」
そう言って、優しくウサ子を撫でる。
「ところで佳菜子ちゃん、メインイベントはまだ控えていてね?」
「えっ?」
そう、実は商業地域の色んな所で聞いて、色々と巡って…見付けて、値段聞いて「ヒェッ…」となりながらも、身分証使って購入した、隠し球がな!
リュックの中から、珍しくこの世界では高級であろう紙の袋に包まれたそれを渡す。
「えっ!な、何か凄く高級そうですけど!?」
うん、高いです。驚きの55万オウカしました。高い買い物なんか、生まれてこの方したのはキャンプ用品まとめ買いの時位で、スーツも安い時を狙って買いに行ってた位だからな。いやぁ、手が震えた震えた。
「ま、まぁ、ほら、開けてみてよ」
「は、はい…き、緊張で手が…ふ、震え…」
と、マジで震えながらも、ソッと丁寧に包みを開いていく佳菜子ちゃん。俺ならバリバリー!と破いてしまいがちなのを、丁寧に開けている姿は…ガサツな俺とは真逆なんだなぁと思ってしまう。
「わ、わ、こ、これ!あ、え!?」
包みを開けた佳菜子ちゃんの語彙力よ、何処へやら。中から出てきたのは、純白のドレス…では勿論無く、白に青い魔法の紋様が施されたローブだった。
「す、凄…き、綺麗…」
「きれいなふく」
ウサ子も良い反応だ、買って良かった。
「魔法を使えた記念にね、魔法職専門店で見付けたんだよ。佳菜子ちゃん、こっちの世界で上着を持ち込めてなかったから。色々聞いて頼んだら、保温と防汚、防水に保冷効果まで付けられるって言うから、全部乗せてみた。これで冬も夏も雨でもこれで過ごせるかな、と」
モテない三十路手前、女の子にどういうプレゼントがいいか分からない結果、やたら機能的な魔法職装備品をプレゼントするという行動に出る。装飾品とか考えたけど…まるで分からんかった。せめてこの世界で少しでも過ごしやすくなればいいなぁ、と願いを込めて。
いやぁ、あの魔法職専門店はいいお店だった。魔法研究所員御用達、とか書いてたから、後でアーシャやエリーという知り合いの魔法研究所員や、初代所長のローザに聞きますね?と言ったら、「ローザ様のお知り合いですか!?でしたら当店も最高級の品物を御用意させて頂きます!」と大慌てだったな。
研究所員御用達は本当だったらしく、俺がいる時に顔は見たことのある研究所の人間が訪れていた。そうして出てきた白いローブに、あれやこれやと色々注文付けて、完成したのがプレゼントしたローブだ。
ここに防御力やら魔法耐性効果もあるのは、後で伝えよう。
「で、でも、こんな…こんな凄い物…い、いただけませんよ!私、まだ働いてもいないから、お返しも出来ませんし!」
「貰ってもらえたら嬉しいし、そもそも…俺には着れないからね。ローザはもっと良いのを持っているだろうし、恐らくアーシャには大きいしエリーには少し小さいし、そもそもあの2人にいきなりあげたらおかしい。それに…これはあの懸賞金で買ったんだ。だからさ、君は寧ろ受け取る権利があると思うよ」
正直、サイズは少し大きめで、身長だけは何となく分かっていたので何とかなった。これで佳菜子ちゃんが今の3倍以上ふくよかになったら厳しいだろうけど…恐らくそれは無さそうなので平気だろう。彼女、恐らく太りにくい体質みたいだし。
「…」
佳菜子ちゃんは俺の言葉に黙り込んでしまう…あまりに高そうな物だから、引いてしまっただろうか。ヤバいなぁ、女の子の気持ちなんか俺には分からないぞ。
…とすぐに佳菜子ちゃんの瞳から、ポロポロと涙が溢れ出した。
「か、佳菜子ちゃん?や、やっぱり押し付けがましかったかな?」
「い、いえ…私、嬉しくて…この世界に来て、酷い目にあってたのに…いまはこんなに優しい人達ばっかりで…真上さんは、ずっと私の事を気にかけてくれて…」
ポロポロと零れ落ちる涙は、止めどなく溢れて、止まらない。俺は…佳菜子ちゃんの背中を優しくさすってやった。こんな子が、こんな優良い子が、最初は辛い目にあってたんだ
、取り返す位幸せや楽しさ、嬉しさがあってもいいだろう。
「かなこ、いま、うれし?」
「うん…今ね…とっても、嬉しいの…」
「そう、なら、うさもうれし」
優しい子の涙は、暫く流れ続けた。嬉しいと喜んでくれるなら、俺はそれで良い。誰かに贈り物を贈ってここまで喜ばれるなら、贈った甲斐もあるというものだ。俺は誰かに贈り物をされても、勿論嬉しいしありがたいと思うが、こうも素直に感情が出ないし、ここまで感情が動かせない。だからこそ…ここまで喜んでくれるなら、俺はそれで良い。
暫くして、泣き止んだ佳菜子ちゃんは「あの…色々着てみても?」と言ってきた。「勿論」と返すも、外に出るべきか迷ったが…そもそも、外にでてないと着れないような物もないので、その場に留まることにした。
佳菜子ちゃんは色々迷った挙げ句に、まず靴下から履く事にしたようだ。一度足を掛け布団から出し、最初に薄紫の靴下を選んでいた。
「わぁあ…凄い暖かい…それに、何だか履き心地も気持ち良い…」
それは恐らく、あのお婆ちゃんが丹精込めて、着る人の気持ちになって編んだからだと思う。そうじゃなきゃ、こんなに丁寧に編むのは難しいはずだ。恐らく織り器を使ってはいるだろうが、本当に丁寧な作りだと思う。
「ち、ちょっとおっきいですけど、でも凄く暖かい…」
「爪先が?」
「えと、全体的に…」
「それ、多分もう少し体が元に戻れば解決するよ、きっと」
「そ、そうですね…うわぁ、本当に暖かい…」
次に、ショールを羽織る。するとすぐに佳菜子ちゃんは
「凄い!暖かい!」
と、喜んでくれた。屋台のお婆ちゃん、ありがとう…贈った相手は喜んでくれたよ。
「私、この部屋でも夜に目が覚めて体を起こすと、やっぱり寒くて…これがあれば、暖かくていいですね!」
と、ニコニコ大喜びだった。そしてメインイベント、ローブの出番である。佳菜子ちゃんはベッドから起き上がると、自分が掃いていた靴以外に用意されている、簡素なサンダルを履く。その時も、
「贅沢な事を言ったらいけないんですが、やっぱりサンダルが冷たくて…でも、靴下のおかげで暖かいです」
と、終始ニコニコしっ放しだ。そして立ち上がり、ローブに袖を通すと…固まってしまった。
「か、佳菜子ちゃん?」
「こ、こ、これ…このローブ…す、凄いです!着たら分かったんですけど、着た瞬間、この暖かいお布団の中にいるみたいで…全然寒くないです!」
そりゃ凄い、室内とはいえ、常に布団の中位暖かいとか…とんでもないな、自分が買ったんだけど。
「凄いなぁ…こんなに凄い物をプレゼントされちゃうなんて…もう、どうやって返せば…」
「元気になって、この世界でやりたい事を見つけたらいいさ」
そう言うと、佳菜子ちゃんは「んんん…」と困ったような、何だか良く分からない声を上げて…そして、抱き付かれた…いや、え?何で?
「ご、ごめんなさい、少し…このままでいさせて、下さい…」
「え?あ、うん…どうぞ」
と、意味不明な事を口走る俺だが、頭の中が突然の事で真っ白になりつつあるんだ、許してくれ。
佳菜子ちゃんの心音が聞こえる…それ以上に、俺の心音もうるさい程に聞こえる。
「ドキドキ…聞こえます」
「その、お互い様、だよ」
抱き付いたままの佳菜子ちゃんの、肩辺りに手を置くと、ビクッと震えた。一度離し、それからゆっくりと手を置き…そのまま置いていた。何度も言うが、ここで抱き締められるほど、俺はイケメンムーブは出来ないんだ。




