能面男、居候生活へ 21
ウサ子に関しての事は話し終えた。次は佳菜子ちゃんの事だ。
「佳菜子ちゃん、さっきのスキルの話」
「あっ、そうでした。あのね、ローザお婆ちゃん…」
佳菜子ちゃんはヴェーリンク様から貰ったスキル「魔力の欠片」がどういったものなのか聞くと、ローザは少し考えた後で
「そうね…まず、ケンタロウもカナコも魔法は使えないわよね?」
「使えないな、そもそも魔法という存在が物語の中の産物だったから」
「そうですね、物語の中の魔法が使えたら…素敵かなー…って夢見た事はありますけど」
「カナコ、素敵な事になるかは分からないけれど、夢が叶っちゃうわね」
「へっ?」
「まず、この世界の種族の中に、魔力を初めから持って生まれる者がいるわ。勿論、無い人もいる。人間族は少ないわ、逆にエルフは精霊族の中でも特に持って生まれる魔力量は多い…それで、魔力を持った者達は鍛えるの。そうすれば魔力の総量も増えるし、使える力も強くなる…ここまでは良いかしら?」
俺も佳菜子ちゃんも頷く。まさか講義が始まってしまうとは思わなかった。
「で、実はね?種族によって使う魔力の属性、というのかしらね、その伸びに大きな違いが出るわ。エルフ族は大地の魔法や精霊魔法なんかが得意で、成長と共に鍛えなくても強くなるわね。逆に、火の魔法なんかは苦手で、ある程度使えるようになるにも結構大変なのよ」
「因みに、ローザはどうなんだ?」
「そうね、はっきり言ってしまうと、死霊術と呪術以外は大体自信あるわよ?魔力量だけで言うなら…そうねぇ、魔法研究所の所員全員上から下まで集っても、まず負けないわねぇ」
規格外とは思ってはいたが、自慢でも何でもなく、当たっているであろう推測で言えてしまう辺り、文字通りの桁違いなんだろう。今でも皆が敬い恐れる理由はそこにある。
「ローザお婆ちゃん、強いんだねぇ」
「まぁ、この国で魔法なら負けない自信あるわよ」
それはそうだろう、この国の国家機関であり魔法の研究に特化した…魔法のエリート全員より魔力量が多いんだ、勝てる奴を探す方が難しい。
「それで、カナコのスキルについてなんだけど…魔力の欠片っていうのは、まだ何の属性もついていない、魔力を操れる者の特性よ。本来は生まれつき現れて、成長や鍛練と共に成長するの。人間族は…正直言うと、そこまで成長しないわ」
「それって、例えばアーシャとかエリー位にはなれるって事かな…」
佳菜子ちゃんの挙げた例は分かりやすい。年も近く、同じ人間族だから。
「そうねぇ…実はね?あの2人はちょっと特別なのよ」
「特別?…何か、俺から見たら普通の女の子達だけど」
「男の子は気付かないのよ、女の子の些細な変化にも」
「そうですよ、真上さん。ちょっと髪型変えたとかも、女の子は気付いて欲しい物なんですよ!」
いや、何で俺責められてんの?というか、俺は自分にも他人にも深い興味が持てないから仕方ないでしょーが。この世界に来て少し良くなったけど、本当に人の名前と顔覚えるのが下手なんだよ…取り敢えず「ごめんなさい」と謝っておいた。これぞジャパニーズ処世術、取り敢えず争いは起こさず己が引いて済ませる。
「ま、それは置いておいて」
置かれた…いや、余計な事は言わない、飲み込む。ジャパニーズ社畜処世術。そんで倒れる人を何人も見たが。
「アーシャはね、人間族の中でも実は相当に強い魔力を持っているの。本人は昔それで気味悪がられて以来、引っ込み思案の子になっちゃったけど」
「む…気味悪がるなんて酷い!アーシャ、凄く優しい子なのに!」
佳菜子ちゃん、怒る。この子は友達の為に怒れる子なんだな、ちゃんと。
「ほら、ウサ子ちゃん起きちゃうから怒らないの。それにね、もうあの子は家族ごとこの街に引っ越してきてるから問題無いわ…次にエリーについて、ね」
「えと、エリーの耳をチラッと見て、本人に聞いた事があります」
え?佳菜子ちゃん何か知ってるの?やべぇな、俺…本当に周りを見てないわ。
「あら、聞いてたのね。彼女はハーフエルフよ。高い魔力を持っている。ハーフ故に人間族のように苦手な魔法も少なくて、ある意味理想系ね…だけど、ハーフ故にエルフ程長命ではないし、あまりに強力な魔法を使うと、使えてしまうけれど、…今は寿命を削ってしまうわ」
「そんな…」
寿命を削る…か、重いな。佳菜子ちゃんも絶句している。そうか、そういう一面もあるのか…と、突然扉が開く。
「だから私の研究は、魔法使用の負担軽減と、より良い魔法用補助具の開発なんです」
「エリー!?」
「すみません、ノックすべきでしたが…カナコ、私の事で気にしてそうでしたから」
「気にするよ、だって…こっちの世界で初めて出来た友達だもん」
「ありがとう、私もアーシャ以外で初めて秘密を話した友達だと思ってるわ。だからこそ、悲しませたくない」
うむ、美しい友情だ…俺にはそんな相手いなかったから、羨ましくもある。
「エリー、ごめんなさいね、貴方達の話題になったから、つい」
「ローザ様、おはようございます…それについては構いません、いつか話すつもりでしたから…ところで、何故そんな話に?」
あ、これ1から全部説明する事になる?また俺が説明する流れ?どうしよう、かいつまんで話すか?
「あー、それは」
「おはようございます…ってあれ?ローザ様に、マガミさん?」
アーシャもいたのか、じゃあ改めて…
「ひと、たくさん、びっくり」
「!!!?」
「えっ!?何!?誰ですか!?」
「えと、この子」
そうして佳菜子ちゃんに抱き上げられるモフモフ。
「えっ?えっ?ウサ子ちゃん?」
「わぁ…ウサ子ちゃん話せるの?」
あの…説明、していい?いや、何となく分かってた、ウサ子が人の気配増えたら起きるだろうし、念話にこの子らが反応するのも。だけどね?説明しようとしてたんだよ?この行き場の無い感情は…ローザ?なに俺の方見て笑ってんの?くそぅ、やはり人付き合いは難しい。だが挫ける訳にはいかない、俺が1番最初から関わってしまっているからな。
「あのー、マガミさんいらっしゃいます?お城の方がいらしてます」
まさかの看護士さん!話の腰ポキンポキンですけど!?ローザ、爆笑すんなし。そしてそんな俺よりウサ子に夢中なうら若き乙女達よ、まだギリお兄さん、一応ちゃんと説明しようと思ってたんだぜ?
「…いま、行きます…」
…もういいや、ローザ辺りに任せておくか。俺は立ち上がると、ローザにだけ「行ってくる」と指で受付方向を指差すジェスチャーをし、部屋から出た。
俺を受付で待っていたのは、兜を外して小脇に抱え、あとはキチッと鎧に身を包んだ騎士だった。身長は俺より少し低い位…180センチはありそうだ。長すぎない金髪のイケメン、女の子にモテそうだな。
「マガミ殿!」
声デカイな、おい。ほら、「院内ですよ」とか怒られてる…残念なイケメンか?まさか
「あー、どうも…それで、俺に何か?」
「はい、奴らの件が一応の決着が付きまして。今回、マガミ殿の功績と助力に感謝の意と、報酬が出まして。そちらを届けに参りました」
幾分小声で話す彼を、何処かで見たような…というか、報酬ってあれか、懸賞金がまとまったのか。
「それはわざわざ…お疲れ様です」
「いえいえ、我々こそ…本来貴方の手を煩わせてしまったお詫びもしなくてはならない、と思っておりましたし」
すげぇ真面目なんだな、彼は。首を突っ込んだのは俺だし、彼らの手柄を奪ったようなもんなのに。
「ところでマガミ殿、あれからお体は?」
「え?あれから?」
「えっ!?ま、まさか…私を覚えてらっしゃらないのですか!?」
そ、そんなにショック受ける?ごめんなさい、本当に記憶に…ああ、また大きな声出すから怒られて…何か申し訳ない。
「えっと、すみません…俺、人の顔とか名前を覚えるのが少し苦手でして」
「なるほど、それでしたら仕方ないですね」
カラッとしてるな、立ち直りが早いというか、強いというか。
「以前、ルードを倒されて少女達を救出なされた後、よろけられたのを覚えてらっしゃいますか?」
「…あぁ、あの時は初めての事で、記憶が曖昧ですが…確かにそんなような記憶が…あれ?まさかその時の…?」
「はい、支えたのが私です。名乗り遅れました、私、フォーテッド王国騎士団所属、アーク・エゼルベインと申します」
おお、何かこの世界の人がフルネームで名乗るの聞いたの初めてかも知れない。目の前の金髪イケメンのアークは、俺に手を差し出してきた。
「ああ、あの時はお世話になりました…ケンタロウ マガミです、改めて宜しくお願いします」
名乗って、握り返す。握手は異世界でも共通の友好の証だ。
「それでですね、此方がその報酬額になります」
そう言ってアークが腰から外した革袋を手渡してくれ…重っ!?え、いくら入ってんだよ、これ。
「いやぁ、渡せて良かった…私も、自分からまた会いたいと言い出してはみたものの、流石にそこまでの額を持ち歩くのは緊張しました」
やっぱり結構な額なんじゃないか…おいおい、俺だって持ち歩くの嫌だぞ、そんな大金。
「さて、それでは私はまだ任務もありますので、この辺りで失礼させていただきます」
「いやぁ、本当にお疲れ様でした、わざわざありがとうございます」
「いえ、またお会い出来て光栄でした。また今度は…時間があれば食事にでも行きましょう」
そう言い残し、アークは立ち去っていった。去り際もイケメンだったな、つまづいてなければ。しかし、何だか年も近そうな感じがしたし、いつかまた会えたら良いな…と、そろそろ病室に戻るか…革袋を腰のベルトに…あ、そういえば家の鍵とか付けたカラビナ付けっぱなしだな…もういらないんだし、後で処分しておこう。カラビナに革袋を付けて、と…重たいな、マジで。ズボン落ちたりしないだろうな…それだけは避けねば。
病室に戻ると、不思議な光景が広がっていた。アーシャ、エリーは固唾を飲んで、ウサ子を抱っこしたローザは真剣な顔で佳菜子ちゃんを囲み、佳菜子ちゃんは…手を合わせようとしているように両手の掌を向かい合わせて…その間に、青白い小さな光の玉が浮いていた…ウサ教の新境地かと一瞬思ったが、どうやら違うようだ。
「カナコ、ゆっくりと…息を吐いて楽にして…ゆっくりと煙が消えるように…イメージを消しなさい」
ローザの言葉に、佳菜子ちゃんはゆっくり息を吐いていき、それから後を追うように光の玉は消えた。
「ふぅ~…た、大変…」
佳菜子ちゃんの肩から力が抜け、だらんと落ちる。
「凄いよカナコちゃん!最初からちゃんと魔力を発現させられるなんて!」
アーシャがだらんと落ちた佳菜子ちゃんの手を握り、喜んでいる。エリーも「凄い事ですよ」と、褒めていた。
「あらケンタロウ、おかえり」
ローザが此方に気付いて声をかけてきた。先程の真剣な声とはトーンが違う。
「ただいま、何事?」
「先程、カナコがヴェーリンク様から頂いたという魔力の欠片の話をローザ様から聞きまして。ここにいるのは魔力を扱えるので、いっそ魔力を扱えるように講義と挑戦をしてました」
エリーが引き継いで説明してくれた。成る程、今のが魔法の第一歩なのか、初めて見た。当の佳菜子ちゃんは、うっすらと額に汗をかいている。生憎、手元には俺のハンカチしか無いが、手渡しておこう。
「あ、真上さん、ありがとうございます。洗って返しますね」
「いいよ、気にしないで。それより、魔法使えたね」
「はい!まだほんのちょっとですけど」
少し疲れたのか、そのままベッドに体を倒し、「ふぅ…」と息を吐いた。相当に体力を使うようだ。
「カナコ、お疲れ様。良く頑張ったわね。短時間で発現させる事が出来たのは素晴らしい事だわ。集中力も沢山使ったでしょう?」
「えへへ…ちょっと疲れちゃったけど、ローザお婆ちゃんの教え方が上手いから、出来ちゃった」
「凄いよ!カナコちゃん凄い!」
「アーシャもありがとう、応援してくれたからだよ」
「にへへ…」
「と、まぁ…いきなり魔法使用の第一歩を踏み出せてしまった、という事です。恐らく、ヴェーリンク様から頂いたスキル、というのが大きいのかもしれません。加護の力もあったのでしょう。勿論、カナコの実力もあります。高い集中力と想像力があるのだと思います」
見た目は冷静そうなエリーだが、興奮しているのか、いつもより喋っているし、頬も赤い。
「そうなのか…俺には魔法はさっぱりだから、皆にその辺りは任せるよ」
「で、ケンタロウ。貴方の方は何だったのかしら?」
「ああ、例の懸賞金、報酬として感謝と一緒に渡されたよ、アークって騎士から」
そう言って、腰の革袋を外すとローザに渡した。
「重いわね…これはちょっと、凄いわよ」
持った途端に落としそうになったのをアーシャがフォローして下から抑える。
「ほ、本当に重い…こんな大金、持った事無いです」
「…これ、どうするかなぁ…持ち歩くのもな」
受け取って、またカラビナに…カラビナ曲がりそうだな、止めとこう。
「確かに…持ち歩くのはあまりに危険かと思います」
エリーの言葉に「そうだよなぁ」と返すも、良い案は浮かばない。
「銀行とか、あれば良いんですけど」
銀行、かぁ…あれば確かに間違いはないよなぁ…ただ、カードとか無いし…
「ギンコウ?」
「ああ、えーっと…お金を預けたり、引き出したり出来る処で、そこが銀行券というのも発行して、お金として使用出来たりもする場所…かな?ざっくり言うと」
「あら、そういう施設なら、ギンコウではないけどあるわよ?」
ローザがさらっと言った言葉に、俺も佳菜子ちゃんも「えっ!?」と驚く。
「資産管理局っていう場所なんだけどね、主に貴族とかが使ってるわね。登録してお金を預けておける場所ね。国の管理している施設で、ある程度現金を持ち歩かなくても、大きな買い物の場合は、手数料かかるけど預けたお金から直接支払われるのよ」
何だその便利な場所。銀行とカード会社が一緒になったみたいな場所。国の運営なら安心も出来そうだ。
「行ってみる?後で」
ローザの言葉に頷く。この重さの物を持ち歩くのは、シンプルにしんどい。
「因みに、専用のカードみたいのは…」
「いらないわよ、そんのもの。身分証で対応出来るもの」
あれ?身分証の魔法作ったの、ローザだよな?確か…おいおい、とんでもないお婆ちゃんだな。
「ああ、資産管理局のシステムは私じゃないわね。私の作った物の応用と、干渉をしないような物にしたのよ。別の、もう死んじゃったけど、魔法研究所の初代副所長がね」
どちらにしてもすげぇな、魔法研究所。頭の良い連中が集まってるんだな。エリート、というか、俺らの世界で言うところのトップクラスの大学というか。チラッとエリーとアーシャを見ると、誇らしげだった。うん、誇っていいと思う、マジで。
しかし、魔法を覚えた佳菜子ちゃんに念話が使えるウサ子、お金を預けたり引き出したりもカードのように使うのも魔法…いやぁ、異世界だな。こうなると、俺も…と一瞬思うが、恐らく向いてないだろう。集中力はあるだろうが、想像力がほぼ無いだろうからな。
◆
ウサ子と佳菜子ちゃんの魔法について、随分と
話が盛り上り、尽きない勢いだった。主にアーシャとエリーと佳菜子ちゃんが。たまに質問が翔び、ローザが答える。俺は…聞いていた、ただ聞いていた。
ただ、如何せん佳菜子ちゃんに疲労が見えてきていた。何か、眠そうな目をしている。ローザも気付いたのか、少し気にしているようだ。目が合うと、小さく頷いていた。
「2人とも、ちょっとストップ」
アーシャとエリーの一方的な会話になりつつある所に割って入ると、2人とも不思議そうな顔で此方を見てきた。
「佳菜子ちゃん、初めての事で疲れてるだろうし、そもそも入院中だから」
俺の言葉にハッとした2人は、慌てて「ごめんなさい…」と佳菜子ちゃんに謝っていた。うんうん、2人とも良い子なんだな。佳菜子ちゃんは「ううん、大丈夫」とは言っていたが…やはり少し無理をしているように見える。
「ほらほら、後は私に任せて…3人とも外に出なさい」
そうローザが言うと、佳菜子ちゃんは俺を呼び止め、「あの、ウサ子ちゃん…」と聞いてきた。まぁ、気にはなるか…ウサ子をチラッと見ると、まっすぐ俺を見ながら
「うさ、かなこといる。かなこおつかれ、うさまもる」
との事。佳菜子ちゃんには「だってさ」と答え、ウサ子には「任せたぞ」と言って部屋を出た。外では2人とも少し落ち込んでいる。
「私、つい楽しくて…」「カナコちゃん、体悪くならないといいけど…」と反省する2人に、
「別に病気ではないから悪化は無いさ。ただ、彼女はまだ体力が普通の人より少ないから、疲れやすいんだよ。次から気を付ければ良いさ、友達なんだろ?次は気付けるさ」
と、一応年上としてフォローらしき事はしてみる。社畜時代は後輩のフォローなんかをしてやった事もある。あくまでも、自分の仕事を早く進ませる為の言葉ではあったが、まさか死んでからそれっぽい事を言うのに役に立つとは思わなかった。今回は流石にそういうスケベ根性というか、自分の為というのは無いが、これで彼女達がまた笑顔で佳菜子ちゃんと仲良く話している姿は…こう、ほっこりする。もしいたとするなら…妹とかってこんな感じなのかなぁと。妹とその友達たち、の方が正しいかな。
俺のフォローは上手く行ったらしく、2人とも「今日は研究所に戻ります」と言って帰っていった…いや、家に帰れよ?研究所泊まるなよ?10代からワーカホリックなんて、お兄さん流石に許さんよ?




