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能面男、居候生活へ 16

遺品…そうか、冒険者はいつ何処で命を落とすか分からないもんなぁ…


「で?鑑定の仕事に興味あるのか?」


「いや、実はですね」


俺は、昨日ローザが言っていた物置の中身の事、ローザの断捨離…とは言っても伝わらなそうなので、使っていない物の処分なんかがあるかもしれないと伝えた。


「へぇー!あの冒険者ゼノさんの道具類やローザさんの!そいつは物によってはコレクターみたいな奴が高値で買い取るかもしれないな」


やはり、有名人の物には価値が付く。ましてや、この国で知らない人はかなり少ないであろう存在だ。付加価値の付いた物は古かろうが何だろうが価値はある。


「でもよ、お二人がいないと鑑定しようにもなぁ」


「ですね。ゼノはまだ寝てますし、ローザも恐らく寝てますから、また話しておきます」


「お、頼んだぜ!なんなら出張してでもやりたい位だからよ!」


そう言い残し、おじさんは出勤していった。出勤…そう、俺も今くらい日が上っている頃にはもう出勤して仕事をしていた…ああ、社畜から解放されるって、素晴らしいけど何かしないと不安になる…エリーや魔法研究所の連中の事を言えないな、俺。立派なワーカホリックだ。


「…そろそろ行くかな。御馳走様でした、今日も美味しかったです」


そう宿屋の奥さんに伝えると、魔法研究所にウサ子の引き取りへと向かった。




研究所で受付の子(前日の子とは違う。今日は休みらしい)に話をし、通して貰う。中では皆、何かの資料片手に忙しそうだ。受付の子に聞き、ルーシーの元に向かう。


「おはよう、ケンタロウさん!」


ルーシーはいつも元気だなぁ…そこには、ジェイクさんや知らない人達もいた。


「おう、おはようケンタロウ。師匠は?」


「おはようございます、まだグッスリでした」


「そうか、師匠も酒に弱くなったなぁ…昔は、樽1つ位軽く飲む人だったのに」


樽!?…規格外だぜ、ドワーフ…!


「ははは…で、ここの方々は?」


「おう、工房地域にいる職人達で、師匠の呼び掛けに答えてくれた中から更に専門的な奴らを集めた、精鋭達だ!」


そういうジェイクに「暇だったからな!」「精鋭じゃなくて、酒飲み仲間だろ!」等と声が飛び交う。ああ、職人さん達って雰囲気だ。嫌いじゃない、寧ろ大好きだ。


「じゃあ、設計図は…」


「もう見たし、新しく引き直したぜ」


1人の職人さんが答える。


「そんで、大体は頭の中に叩き込んであるぜ」


「上のポンプの方の鋳造は、もう設計図の写し持っていって製作に取り掛かってるぞ」


次々に教えてくれる職人さん達…仕事が速い。


「うちの母ちゃんがよ、この時期は井戸の水汲みが大変だって言っててなぁ」


「あー、うちもだ」


「うちはおっかぁも嫁さんも言ってる」


次々と喋りながら、素材を選り分けたりしている。


「ケンタロウさんのアイディアで1番思ったのは、小さい子供の転落が防げる事ですよ」


ルーシーが話し出す。


「少ないとは言っても、やっぱりそういう事故は起こってしまっていて…井戸にポンプを取り付けるなら、蓋をしてしまえますから安全になる、っていう風にゼノさんが仰られていたので…私が協力したい1番の理由はそれです」


俺も同意見だ。子供は、「ダメだ」と言われてもやりたがるし、興味を持つもんだ。興味を持ったら、大人顔負けのダッシュもするし、体力も無尽蔵かと思う程だ。小さければ小さいだけ、対象が安全なのか危険なのかの区別なんかつかない。怪我をして覚えていく物ではあるが、命の危険があるような場合は全力で、親が怒ってでも教えなくてはならない。

何というか持論ではあるが、何度言おうと子供の探求心は大人以上だし、何度注意をしても

その気持ちは止まらない。

子供を叩く、というのは無差別にして良いものでは無いが、命の危険がある行為、行動に対しては叩いてでも辞めさせ、「痛いじゃすまなくなってしまう。もう二度とお父さんやお母さんと会えなくなっちゃうよ?」と教えてやる方が、小さい子は覚えるし、「あ、これはやったらいけないんだ」と覚える…ような気もする、あくまでも俺の持論だが…まぁ、子育てした事も無い、まともな教育もされていない彼女いない歴があと数年で2桁になる奴に言われたくはないだろうが。


「そうだね、そういう事故は無くなれば良いと、俺も思うよ…と、ジェイクさんすみません、ちょっと別の用事がありまして…」


そうジェイクに伝えると、


「おぉ、これから先は俺達に任せておけ。後で師匠も来るだろうしな」


と、笑いながら送り出してくれた。さて、次はアーシャに会いに行って、ウサ子を引き取って…あ、診療所内って動物、いや、魔物は大丈夫なんだろうか?暴れたりしないだろうが、それは聞かないとな…普通はダメだろうけれど、何とか説明してみよう。

受付の人にアーシャの居場所を聞くと、エリーもいるという研究室を教えられた。受付の後ろ側にある左右の階段の右側を上がり、上がったら右を向いて通路真っ直ぐ…の、2つ目…ここか、扉をノックしてみる。


「はーい」


すぐに、誰かの声がした。中から話し声が多数聞こえており、恐らく和気藹々とした職場なんだろう。


「どちら様…」


扉を開けてくれたのは、アーシャでもエリーでもない女の子だった…あのー?もしもし?何で固まってるんですかね?…何で少し震えてんの…そんなに怖いか?いや怖いな、無表情のデカイ奴が突然来たらそうなるか。


「えっと、アーシャさんはいらっしゃいますか?」


おーい?…フリーズしてるな、完全に。そこまで恐怖を感じるかな?ちょっと傷付く。


「はーい」


声が聞こえたのか、奥からパタパタと走る音が聞こえる。


「どうしたの?…あ」


「おはよう、アーシャ。ちょっといいかな?」


「えと…あ、ちょっと待って下さいね…ねぇ、ちょっとどうしたの?」


アーシャは扉の所で固まっている子を揺すり、そして部屋に戻してから出てくる。


「あ、あの、おはようございます」


「うん。それでね?うちのウサ子、いるかな?」


「はい、連れてきてますよ」


「調子はどう?」


「えーっと、基本的に元気なんですが…」


何だ?何か気になった点でもあったのだろうか?


「その、あんまりご飯を食べないのと、ローザ様がいないとちょっと元気がなくて」


「そうなんだ…まぁ、まだ環境に慣れてなくて緊張してるのと、ローザには懐いてたから」


恐らく、緊張と警戒もあるのかもしれない。慣れない場所、慣れない人…動物は、そういうのはストレスになるのだろう。


「ふむ…中にいるの?」


「はい、連れてきましょうか?」


「そうだなぁ…おーい、ウサ子ー!帰るぞー!」


と、わざと大きめの声で部屋の中に問い掛ける。すると、部屋の中から「きゃっ!」「あっ!逃げちゃった!」とか色々と聞こえたと思ったら、アーシャの頭を「ぽいん」と踏み台にして、ウサ子が飛び込んできた。


「お待たせー、一緒に帰るか?」


飛び込んできたウサ子を抱き抱えてやってから聞くと、此方の質問に対しては服の中に潜り込んで少し開けた上着のジッパーの所からひょこっと顔を出し、鼻をヒクヒクとさせる。ここは自分の特等席だと言わんばかりの顔で。


「あたた…わぁ、召喚者さんに凄い懐いてる…!」


頭を踏み台にされたアーシャが、踏まれた所を軽く擦りながら俺とウサ子の姿を見て、感動の声を上げていた。


「こいつを最初に見付けたのは俺だし、暫く一緒にいたからね…放し飼いだったけど」


まぁ、その結果が痩せこけたゴブリン3匹との初戦闘になるのだが…流石にこれは黙っておこう。自慢するような事ではないし、そもそも俺の不注意でもあるし。ふと見ると、扉の所から複数の若い研究者達男女数人が此方を見ていた…いや、見世物ではないのだが。


「貴方達!何時まで研究をほったらかしにするんですか!?」


突然、部屋の中から良く聞いていた声が、聞いた事も無い位の鋭さと怒気を孕んで放たれる。その声に皆一様に「ビクッ!」と肩を竦め、すごすごと部屋に戻っていった。


「エリー、凄い迫力だったな」


「ここのリーダーですから…」


「良い友達だね」


「はい!最高のお友達です!」


出会ってから初めて、アーシャが俺に笑顔を見せてくれた。人懐っこい、小型犬のような可愛さがあった。


「あ、アーシャも!速く戻りなさい!」


声から分かる。珍しく照れてるな、エリー。


「エリー」


「はい?」


「ちゃんと家帰れよ?」


扉越しに、部屋の中のエリーへ一言声をかけて、返事を待たずに立ち去った。そのまま、受付まで一気に行き、診療所に見舞いに行くから、何かあったら連絡をくれと伝えて魔法研究所を出た。俺がいなくても、ルーシーやジェイクやその仲間達なら何とかしてくれそうだ…俺は、俺の思う事をしよう。

城も出て、今入院中の佳菜子ちゃんのいる診療所へと向かった。さて、ウサ子は突破なるか…?突破出来れば、後は佳菜子ちゃんにとって新しい癒しとなればいい…流石に預けられはしないだろうが、俺かローザが行けば済む話だ。何せ、今の俺は暇になってしまったから。そして、恐らくこれから忙しくなりそうだから。

診療所までの道のりは遠くはなく、突破口となる言い訳も思い付かないまま到着しまう。あーだこーだと考えてはいたが…もういい、正面突破するか。


「ダメっすかね?」


頼み込んでみる。つーか、衛生面やら健康面は、既に魔法研究所で確証は得ている。得ているが…通じるか?


「ああ、大丈夫ですよ、カナコさんの部屋だけなら」


通った…いや、いいの?そんな簡単に。


「今、ここに入院中の方で何か問題ある方はいらっしゃらないので。そもそも、カナコさんの部屋の中でだけなら問題ありません。ただし、何かしら問題が起きたら禁止とさせていただきます」


自分から頼み込んでおいてアレだが、衛生面とか大丈夫なんだろうか?不安になってくる。


「まぁ、その辺りは魔法医療や障壁等でいくらでも。魔法研究所のお陰です」


そうだったよ異世界、ここは異世界。魔法あるよな異世界。日本と比べて、便利なんだか不便なんだか。魔法研究所は一体何を研究しているのか、最初から分からなかったが、より1層分からなくなってくきた。

兎も角、首もとからぴょこんと顔を出したウサ子と共に、堂々と佳菜子ちゃんの病室へと行ける事が分かった。後は問題…ウサ子が暴れる?どうだろう、敵意が向けられればそこは動物…じゃない、魔物だ、反応はするかもしれない。そうなれば…俺が止めるしかないな。

佳菜子ちゃんのいる病室の扉をノックすると、中から「はーい」と声がした。佳菜子ちゃん、起きてたか。寝てたら引き返そうとも思っていたが。名乗ると「どうぞ」と言われたので、1度ウサ子に引っ込んで貰ってから部屋に入る。

佳菜子ちゃんはベッドの上で上半身を起こして座っていた。腰から下は掛け布団の下だ。


「おはよう、体はどう?」


「はい、痛いとか怠いとかは無いのですが、今日も少し歩いて分かりました、体力がかなり落ちてるのと、ダイエットに必要以上に成功しちゃってるなぁ…って」


確かに、佳菜子ちゃんは今でこそ肌の血色は良くなっているが、それでもこの世界に来る前とは違うのだろう。それに、腕は相当に細い。


「少しずつ、ゆっくり治せば良いさ。そうしたら、次はゼノとローザの家にお引っ越しだ」


「あ、聞いてたんですね、もう」


「同じ宿屋の隣の部屋だからね。それに、ある程度の部屋の目処とか、色々話はしたよ」


「…いいんですかね?私がお世話になっちゃって」


不安そうな佳菜子ちゃんに昨日の金持ち夫婦エピソードを、前に聞いたのも含めて伝えてみる。そら茫然とするわな。


「あの2人、そんなに偉い…人?なんですね」


「俺も最初は驚いたよ。森で暮らしてる老夫婦かと思ったら、国の重役だったとはね」


川に流された質素なシャツを慌てて追いかけてきたドワーフのお爺さんと、そのお爺さんを追いかけてきたエルフのお婆さん。まさか、その2人が質素なシャツを何万枚買おうが痛くも痒くもない程の資産家とは思わない、普通は。


「あと、呼び方が…」


「ああ、つい○○の人、って言っちゃうよね、俺らは」


「はい…それで、何か嫌な気分にならないかなぁって」


「まぁ…恐らく大丈夫だとは思うけどね。そんな事を気にするようなタイプじゃないよ、2人とも」


俺だって出会ってからそんなに経ってはいないが、それくらいなら分かる。あの2人は笑い飛ばすタイプだ…と、そろそろ出たくて仕方ないらしい。上着の中でモゾモゾしてるな。


「あ、あの!服の中で何か…」


「ああ、ちょっと待ってね」


そう言って上着のジッパーを少し下げ、「出ていいぞ」と声をかけてやる。すると、最初から定位置だったかのようにウサ子がひょこっと顔を出した。


「っ!!!?」


そら驚くわな、額に角生えたウサギなん


「か、可愛い~っ!!!」


角生えたウサギなんかでも関係なかったらしい、良かったな、ウサ子。軽く下から押してやると、心太方式で押し出されて佳菜子ちゃんのベッドに飛び乗った。


「ふぁあ…可愛いぃ…」


もうメロメロですね。角生えてようが魔物だろうが異世界だろうが、可愛いのは共通して女の子に好かれる…良かったなぁ、お前見た目は角以外愛らしくて。俺の考えている事を理解してるのかしてないのか、後ろ足で立ち上がって鼻をピクピクさせたり、スピスピさせたり、後ろ足で耳の裏を掻いてみたり…こいつ、自分が愛らしい存在だと分かっているんじやないか?

そして、ウサ子が何かする度に佳菜子ちゃんはウサ子の事をベタ褒めの嵐。連れてきて良かった、気が紛れるかな、これで。


「な、な、撫でてみてもいいですか?」


もう触りたくて仕方がない、といった雰囲気で、佳菜子ちゃんが聞いてきた。うーん、この姿はどう見ても高校生位に見えるな。


「大丈夫だよ。それと、ある程度の言葉は理解してるような行動取るから、聞いてみたら良いと思うよ」


「凄い…頭良いんだ、ウサ子ちゃん…あのね?撫でても、いいかな?」


すると、ウサ子自ら「ほれ、撫でても良いぞ」と言わんばかりに佳菜子ちゃんに近付いていくと、鼻をスピスピ鳴らした。


「あ、あの…」


「良いらしいよ」


「わぁ…!じ、じゃあ…触るね?」


恐る恐る佳菜子ちゃんが手を伸ばし、頭の辺りに軽く触れる。


「ほぁ…フワフワ…」


もう止められない!とばかりに、佳菜子ちゃんはウサ子を赤ん坊をあやすかのように抱き抱えると、優しくお腹やら頭やらを撫でていく。その度に「毛並みがフワフワだねぇ…」とか。「フカフカでモコモコだねぇ…」と、うっとりしていた。そして…最終的に、顔を埋めていた。猫吸い、犬吸いは見たことあったが、角生えた兎の魔物吸いは初めて見たな…いや、当たり前か。


「むむむむー…」


何か言ってる、衰弱して運び込まれた患者が、角生えた兎の魔物吸いしながら。特別な栄養素でもあるんだろうか?一方ウサ子は…ムズムズするんだろうな、微妙な顔してる…いや、こっち見られても困るんだが。もう少しワガママに付き合ってやってくれ。

それからまた顔を上げると、今度は顔を埋めていた箇所に頬を当てて、「暖かい…ふかふか…」と、悦に入っていらっしゃる御様子。ウサ子の表情こそ読み取れないが、「もう好きにして…」という諦めのようにも見えた。


「ふぁあ…可愛いなぁ…」


あれから暫く、佳菜子ちゃん的には普通の、ウサ子的には過剰なスキンシップは終わりを告げ、膝の上で撫でられ続けるに至っている。ウサ子もそれは満更でもないようで、目を瞑って、たまに鼻をヒクヒクさせながら気持ち良さそうに委ねていた。


「…気に入って貰えたようで何よりだよ」


佳菜子ちゃんによる奇行…もとい、過剰なスキンシップの終わりを待って、話し掛けた。


「最高です…暖か可愛い…」


俺の方は殆ど見てない。それはどうでもいいんだが、これは帰る時に面倒臭い事にもなりかねない。先が思いやられる…


「そういえば、ウサ子ちゃんの親はどうしたんですか?」


「分からないんだよ。まだゼノ達と出会う前に、森の中で襲われてね。それをかわしたら、でっかい猪…フォレストボアってのにまた襲われてね。木に突っ込んで気絶したんだけど、木を折る勢いで、その折れた時の破片で怪我をしたウサ子を見付けたんだよ」


「な、何だか凄い体験してますね…」


「まぁ、元々はこの世界でサバイバルしながら生きていこうとしてたから」


「ほぇ~…す、凄い…あ、それでその大きな猪は…」


「捌いて食べた」


「えっ?」


「捌いて極力無駄無く頂いたし、毛皮はゼノ達の家の敷地内の間借りしてる小屋の中にあるよ」


「そ、そうなんですか…す、凄いですね…」


それから、色んな話をした。サバイバル能力とサバイバル知識というスキルがある事、色々なスキルを覚えられ、俺は槍術スキルもある事、スキルを急速にレベルアップさせることも出来るが、頭に激痛が走るのでオススメしないとう事、サバイバル生活についての事…色々と。


「じ、じゃあ、その…劣化ミスリル?っていう金属の確認と、ゼノお爺ちゃんの作った物を卸しに来てなかったら…」


「あまり言いたくないけど、間に合ったかどうか…いや、間に合わなかったと思う」


「凄い偶然が重なって…私は助かった、助けられたんですね」


「そういう意味で、俺も佳菜子ちゃんも変な運の持ち主なのかもね。良いんだか悪いんだか…」


何時しかウサ子は佳菜子ちゃんの膝の上で眠っていた。俺も佳菜子ちゃんもそれに気付かない位に色々話をした。元いた世界の事も、此方の世界の知りうる事も。そうして時間はあっという間に過ぎていった。

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