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能面男、居候生活へ 4

「こんな凄いもの、流石にタダで頂くわけにはいきませんよ!」


「ああ、それはのぅ、元々買い手なんぞおらん武器なんじゃ。それに、工房の奥にしまっておいただけの物での…ちょいとな、昔にローザと一緒にやった実験でたまたま出来た試作品なんじゃよ」


「実験?試作品…?」


何だ、その怪しいワードの数々。


「ケンタロウ、お主…ミスリルという鉱石は知っておるかの?」


「名前だけは…彼方の世界での物語には出てきますが、そもそも魔法の無い世界なので」


ミスリル…魔法銀、ミスリル銀などと呼ばれる金属で、加工しやすく、金属とは思えない軽さで、魔法を通したり纏わせやすく、魔法職の武器や戦士職が魔法職からのサポートを受けての霊体への攻撃に用いられる。更に、アンデッドへの特効ダメージも期待出来る…らしい、知識先生ありがとう。


「本来ミスリル鉱石というのはの、得に魔力濃度の高い土地の地下、更に濃度の高くなる洞窟内の鉄や銀が変質した物なんじゃよ」


「鉄もですか」


「うむ、鉄の場合はさほど高値で取引されることはなく、見た目だけはミスリル銀に似ているが、性能は劣る劣化ミスリル、魔法鉄なんて呼ばれたりもするのう…銀の場合は元々の性質に魔力が加わり、純ミスリル、ミスリル銀と呼ばれて非常に高価で希少な物となるんじゃよ」


なるほどなぁ…魔力による変質か…日本じゃあり得んな。


「で、じゃ…実はの」


ゼノが言いかけた所に、遠くからローザがゼノを呼ぶ声が聞こえた。


「おっと、いかんいかん…ワシは薪を取りに来たんじゃった…風呂が温くなったかの」


「俺も手伝います、話の続きも気になりますし」


「うむ、薪をくべながら話すとしようかの」


薪置き場から薪を取りつつ、ローザとウサ子の待つ風呂の外へと向かった…薪のお風呂だったんだな、知らなかった。俺が借りた時も、ゼノが薪をくべてくれていたのだろうか…ありがたいな。




「で、何処まで話したかのう」


かなり温くなっていたらしく、ローザから何かあったのかを聞かれたので、事の経緯を話した後で、初体験の風呂釜の下に薪をくべながらゼノの話を聞く事にした…これくらいはさせて貰わないと申し訳ないからな。


「ミスリル銀の変質についてと、実験がどうの、という」


「おお、そうじゃったのぅ…そうそう、ローザと実験をした事があってのう」


すると、風呂の中、窓からローザが


「あなた、ミスリルで実験って…」


と声をかけてきた。


「うむ、人工ミスリル銀の実験じゃよ」


「えっ?人工…?確か、ミスリル銀は…」


「そう、ミスリル銀は魔力が濃い土地の洞窟にしか生まれないとされる希少なものよ」


ローザが引き継いで話をしてくれる。


「私達はね、ミスリル銀を私達で作り出せないか、という実験を行ったの。それが出来れば、希少なミスリル銀の量産が出来る…それは、国にとって財政を潤すどころの騒ぎではなく、国家間の勢力図を塗り替えるかもしれない、という実験だったわ」


そうか、希少で高性能のミスリル銀の装備で身を包んだ兵士が大量にいる国なんか、それだけで恐ろしい存在だ。それに、希少なミスリル銀の取引ともなれば、大金が動く…なるほど。


「ま、殆ど失敗したんじゃがの」


「そうね、マトモに成功といえるのは殆ど無かったわね」


「そうなんですか?」


「うむ…ミスリル銀を作り出す条件は、高い魔力濃度と、銀鉱石。それら2つの内、銀鉱石は掘り出せば用意は出来る」


「残る課題は魔力濃度…正直、どれくらいの魔力が必要なのか、まるで分かっていなかったのよ」


「で、どうしたかというと…強力な魔物は体内に魔石という、魔力の凝縮した石を持っておることがあっての、それにローザを初めとした魔法職複数人で魔力を更に流し込み、強制的に変質を起こすというものじゃな」


「なるほど、長い時間をかけて染み込む物を、一気に濃縮して送り込もう、と」


「そういう事じゃ…で、魔石も幾つか用意して、実験したんじゃが…」


「銀鉱石20個中、成功は半分の10個」


半分なら、かなり良い確率なのでは…


「残りは急激な魔力の流入に耐えられずに割れるか砕け散り、残る10個も何とかミスリル銀と言えるレベルの中でも品質は高くはなかった」


「その上、わざわざ冒険者達に犠牲が出てまでも採取してきてもらった魔石は魔力を失い粉末になり、私を含めた魔法部隊10人全員が完全な魔力切れで3日ほど寝込む者まで現れる始末」


「あー…かかるコストの割に、見合わなかった、と」


確かに、犠牲が出る上に製造スタッフは3日は動けないくせに、さほど品質の高くない物が生まれるに留まってしまうんじゃ…コストに見合わないな。


「そういう事。で、その時分かったのは、魔力量ではなくて時間が重要だったって事」


「ゆっくり、じっくりと魔力が染み込み、そうして放出したり、割れたりを繰り返して…漸く出来上がるのが、ミスリル銀じゃという実験結果が出た」


まるで煮物だな、とか思ってしまった、言わないが。


「で、魔法研究の施設は魔力濃度が濃いから、と暫く置いておいたのよ」


「結果、何とか1年で中品質くらいのミスリル銀が生まれ、それをワシが加工したのが、そのハルバードじゃ」


俺の背中に背負われたそれは、とても手が込んだ物だったんだな…何だか、更に申し訳ない。


「あら、あのハルバード、ケンタロウに?」


「うむ、角槍の柄が折れたらしくての。使う者もおらんし、あのまま埃を被らせておくよりはのぅ」


「そうね、いいと思うわ。刃の部分は人工ミスリル銀なんでしょう?」


「うむ、槍と斧の刃部分はそうじゃ。鉤や柄は、あの時に出来た魔法鉄なのかミスリルなのか良く分からんもんで出来ておる」


良く分からんもんで作られたもんを渡されたのか…ちょっとだけ貰った罪悪感が減った気がする。


「良く分からない物、といっても、強度や性能はそこいらの鉄より遥かに優秀だし、危険性は無いのよ?」


ローザが捕捉してくれた事で、やっぱり悪い気がしてきた。


「まぁ、結局実験は中止、冒険者達に報酬と見舞い金を出したりしていたら大赤字になってしもうたんじゃよ」


「まぁ、そんな中から生まれた物だから、気にせず使いなさい、ケンタロウ」


うーん、何だか素直に喜んで良いのかどうなのか、分からん話を聞かされたな…ただ、通常の金属製より良いというのは、背負っていても分かる。非常に軽く、振り回すのも楽そうだ。


「分かりました、ありがたく使わせて貰います」


今の俺には非常にありがたく、心強い武器だ。これ以上断るのも失礼だし、これから愛用させて貰おうと思う。

そんな事を考えていたら、ローザがそろそろ上がるから薪は足さないで良い、と言われたので薪を足すのを辞め、ゼノに誘われるまま2人の家にお邪魔する事になった…俺、薪を取りに行こうとして、結果的に薪を減らしたんだが…何をしてるんだが。


ゼノに連れられて家に入った俺は、そのままリビングで椅子に座らされ、お茶を出して貰っていた…あれ?俺、薪を取りに…いや、もう諦めよう。因みに、背負っていたハルバードも、ハンドアックスもケースごとベルトから外して玄関に置いてある。ナイフは別に邪魔にはならないからぶら下げたままだ。

ゼノは、俺にお茶を出したら「ちょっと座っとれ」と言って、自室に消えていった。


少しすると、風呂上がりのローザとウサ子がリビングに現れた。


「あら?どうしたの?」


本当にどうしたんでしょうね、俺。


「…ゼノに待ってろって言われたの?」


「はい、お茶も頂いてます」


「あら、そんなのはいいのよ、貰い物だから」


だが、紅茶といえば市販のペットボトルの午後からのか花の伝のあれ、自分で淹れるったって、殆ど淹れない上にスーパーの独自ブランドかなんかのやたら安い奴くらいなもんだが、いまゼノが適当に淹れてくれたこの紅茶は、間違いなく今まで飲んだ中でも最高級クラスに良い香りだし美味しい。

こんな貰い物とか…やはりローザはお偉いさんだったからなのだろうか。


「それね、町では割と良く安価で売られてるのよ。私は高級品に興味無いし、高い物を貰っても困るから丁度良いの」


これが!?これが良く見掛けて安価で手に入る異世界、どうかしてるぜ…と、紅茶を飲む俺の膝の上に、ウサ子が乗っかってきた。お前、驚くほど毛がふっさふさのフッカフカになってるじゃないか。ローザが丹念に洗ってくれたんだな、良かったな。


「ウサ子ちゃん、本当に珍しいわね。お風呂、凄く喜んでたわよ?大人しかったし、体を洗われると気持ち良さそうだったし、お風呂で桶にお湯入れてあげて、そこに入れてあげたら暫く気持ち良さそうに脱力してたわ」


「やっぱり珍しいですよね…俺も、前の世界にいた角の無いウサギも含めて、風呂好きのウサギなんか聞いた事無いですから」


「私も長い事生きているけど、聞いた事ないわね…新種なのかしら?」


新種かもしれない、世紀の大発見かもしれない生き物は、俺の膝の上で気持ち良さそうにウトウトしている。


「どうですかね…?そもそも、コイツを見付けた、というか襲われた時は、親もいなかったので…」


台所から自分とゼノの紅茶を淹れて戻ってきたローザが向かい側に座ると、興味深そうに


「あら?最初は襲われたの?」


と聞いてきた。


「ええ、森の探索中に草むらから。で、そのすぐ後にまさかのフォレストボアが突撃してきまして…」


「まあ!?怪我は!?」


「俺は必死で回避したら、フォレストボアはそのまま木に激突して瀕死に。木は倒れて、その時にコイツが足を怪我したんです」


「良く初めてで避けられたわね」


「運ですよ、たまたまです…で、倒れた木の破片が後ろ足に刺さって動けなくなってたので、コイツを連れて帰って治療して、フォレストボアは美味しく頂きました」


ローザは話を聞きながら、「運が良いのか悪いのか分からないわねぇ」と溜め息をついた。俺もそう思いますが、今のところは五分か、良い位かと。


「それで、怪我したコイツと暮らしてて、暫くしてコイツが治ったタイミングで、俺は風呂に入ったんですよ」


川辺の穴改め風呂である。


「何だか分かりませんが、全く拒否せず入ってきて、普通に体を洗ってやって…俺はこの世界の知識がないので、そんなもんなのかな、と」


「正直、私も初耳よ」


そんなもんじゃなかったな、このフカフカ。もふもふと撫でてやると、ぴょこっと耳が動いてから顔を上げ、満足そうに鼻をフスフス鳴らしてまた丸まった。お前の野生は恐らくもう無くなってしまったんじゃないだろうか。

そんな事を考えていると、ゼノが何か大きな木箱を抱えて戻ってきた。


「すまんのう、待たせた」


「ゼノ、まずはお茶でも飲んだら?冷めちゃうわ」


「お?淹れてくれたのか、ありがとう」


ゼノは木箱を床に置くと、ローザの隣に座って紅茶を一口。見た目には紅茶より緑茶か酒の方が似合いそうな無骨な見た目のゼノだが、非常に細やかで気が利くドワーフだ。紅茶を飲む仕草も、ローザのような気品さではない、また違った良さがある。


「あなた、何を運んできたの…そんな大きな箱」


ローザは最近、ゼノを名前ではなく「あなた」と俺の前で呼ぶようになった…恐らくは、そっちがデフォルトなんだろうな。つまり、俺にも気兼ねなくなってくれたのかもしれない。


「んん?あぁ、それは紅茶の後でな」


「ケンタロウも待ってるんじゃ…」


「いえ、今日は流石に薪取りは止めておきます。初めての戦闘で昂っていた気持ちよりも、あんな格好良いハルバード貰ったら、そっちの方に興味が惹かれて変な昂りも落ち着きましたし」


それから、膝に乗るふわっふわの毛玉を撫でながら、「こいつ、退いてくれそうも無いですし」とも伝えておいた。恐らく、コイツはもうマジで抱き抱えてやらないと動かない。


「それに、こいつ動かなそうですし」


「本当に、ソイツはケンタロウの事が好きなんじゃなぁ…」


恐らく、コイツは風呂の方が好きだと思いますよ?多分ですが。


「それじゃあ、ワシの持ってきた箱を開けるとするか」


ゼノが椅子から立ち上がり、抱えてきた木箱を開け、中身を出し始めた。


「鎧…ですか?」


「うむ、これをケンタロウにやろうと思ってのぅ」


「俺に?」


いやいやいや、ちょっと待ってくれ。居候させてもらって、ハルバードまで貰った段階でもう至れり尽くせりなんだ、その上鎧とか、至りすぎてるし尽くされ過ぎてオーバーキルなんだが。


「そんな…頂けませんよ、ハルバードまで頂いたのに…」


「いいんじゃよ、元々作りかけのもんに余った材料にちょいと足した程度のもんじゃからの」


「貰っときなさい、ケンタロウ。もう武具は作らないと言ったこの人の作った物だから、貴重よ?」


「それなら尚更…」


「ま、ケンタロウは遠慮がちな所があるからの、断るじゃろうとは思っておった」


日本人の美徳であり、世界とズレていたりする特有の性質でもありますので。つーか、ここまで誰かにして貰った事なんか、爺ちゃん婆ちゃん以外に記憶がない。荒れてる頃に鼻と左腕折れて、右手で鼻抑えながら、それでも鼻血ダラダラ流して左腕の服の袖を噛んで吊った状態で1キロ以上歩いて病院に行ったりするくらい、誰かに頼るのは苦手だし、やり方が分からない。


「で、の?ワシから頼み事があるんじゃ」


「頼み事?」


余程の事じゃなければやりましょう。俺なんぞに出来る事があるならば。


「お主の鞄、ほれ、背負い鞄あるじゃろ?馬鹿デカイ奴」


「ああ、ありますね。確かにアレは、俺も買った時にデカイなぁとは思いました」


リュックサックの事だろう。100リットルの容量は、購入時に「キャンプ用」とは書いておらず、「緊急時の避難に!」との謳い文句が書かれていた。単純な話、市販のビニールのゴミ袋45リットル2つ分より入るという事で、小学生くらいなら入れて運べるレベルだ。実際にはポケットが分かれていたりもするので、デカイ物を1つ丸々、とはいかないが、収容量は半端ではない。3桁リットル入るという謳い文句は伊達ではないのだ。


「アレにワシが受けた依頼品の数々を入れて、町に卸すのを手伝ってくれ。この鎧は、その背負い鞄の借り賃、といった所じゃ…どうじゃ?これなら納得行くじゃろ?」


いや、釣り合わないッス。あのリュックと交換した上で、俺一年タダ働きとかのレベルじゃないと釣り合わないッス。


「本来交換、とも考えたんじゃが、この先もケンタロウには必要じゃろうし、そもそもワシにはデカ過ぎて背負えん」


確かに、ゼノは150cmあるか無いか位の身長だ、あのリュックは確かにデカ過ぎる。


「私はあんな大きな背負い鞄を背負ったら立てないわね」


細身のローザじゃ確かに難しいだろうな…そもそも、力仕事に向いてなさそうだし。


「魔力で浮かせるにしてものぅ」


「嫌よ…しんどいもの」


夫婦の完璧過ぎる答えに、俺はもう反論の余地が無かった。


「分かりました…何か釣り合っていない気が今もしていますが…その頼み事、お受けします」


「そうか!良かった良かった!お主の体にある程度はぴったりになるようにこの鎧を作り直してしもうていたからのぅ、もし断られたらどうしたもんかと思うたわい!」


カッカッカ、と豪快にゼノが笑う。何で事前に作っちゃうの、そんな良さげな物を。善意で逃げ道塞ぐのは止めてくれ…只でさえ、人の善悪は対応の仕方が分からないんだから。

で、この鎧…どういう物なんだろうか、教えてサバイバル知識先…


「さて、コイツはのぅ…ワシ特製のスケイルアーマーじゃ」


サバイバル知識先生ありがとうございました、もう大丈夫そうです。


「鞣した大角猪(グレートタスク)の皮を2枚重ねにした上から、鎧竜蜥蜴(アーマードレイク)」の頑丈な鱗を張り合わせたもんじゃ。並大抵の金属鎧よりも軽く、頑丈じゃ」


コンコン、とゼノが鎧の表面を叩く…鱗が金属みたいな音してますけど、それ。つーか、聞いた事無い魔物の名前の羅列で、軽く混乱している。ヤバそうな魔物というのは分かるが。


「グレートタスクもアーマードレイクも、例の人工ミスリルの時に魔石確保の為に依頼して倒して貰った魔物の素材よ。冒険者の人達が、「素材なんかより遥かに高い報酬貰ったから」と固辞されたのよ。それでゼノが途中まで鎧にしていたって訳」


なるほど、つまり魔石がドロップする程にはヤバい魔物、と…


「途中から足したりしたが、やはり足りなくてのぅ…胴体も前と後ろを無理矢理紐で繋いでおるし、材料不足であとは手甲と脛当てしか作れんかったが」


いや、十分ですってば…鱗がまるで金属のような輝きをしているが、持つと金属より遥かに軽い…異世界には知らないもんがあるなぁ。


「グレートタスクの皮は耐水性にも保温性にも保湿性にも優れていて、上質のレザーアーマーに使われていたりするわ。アーマードレイクの鱗は火に強くて、当然ながら鱗だから水で錆びたりもしないのよ。余程の事が無ければ割れたり砕けたりしないから安心よ」


とんでもない物だった…これは、リュックあげるだけじゃ足りないぞ、確実に。


「ま、いくら良い物でも使わなければ意味がない…飾るようなもんでもないしの」


そりゃそうかもしれないが…貴族とか戦士とかは飾りたがるんじゃないかな、と。


「ゼノは美術品に興味無いからね」


「違うぞ、ローザ…ワシはな、絵とかそういうもんは芸術品でいいんじゃよ。ただな、素材や毛皮なんかの、本来の用途があるのに芸術品だと祭り上げるのが嫌いなんじゃ」


何だろう、少し分かる気がしてしまうような、何か分からないような…

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