第二話 なんでこんなめに……
は? なんだこれ? は?
いや本当にどういう状況?
あまりに神々しい黄金の剣は、何を間違えたのか俺の股間から――ドーンと顔を出していた。
間違いにも程がある。
というか本当に何かの間違いであってくれ!
剣の付け根のあたりまで光が走っているせいで、どう繋がっているのかは俺にもわからない。
ただ一つ言えるのは、俺の股間だけが神々しく輝き、その中心から黄金の刃が突き出している、という目を背けたくなる事実だけだ。
……演出だけなら勇者っぽい。
けど場所が股間なせいで、観客には完全に珍獣ショーにしか見えねえ!
実技場に沈黙が落ちる。
見物していた冒険者も職員も、誰もが言葉を失っている。
鳥のさえずりさえ止まったような気がした。
事実、俺の近くにいた女冒険者のカトレアと、受付嬢のリリアは無言のまま距離を取った。
……無言が一番きついんだよ、何か言ってくれよ。
が、その直後、時が動き出した。
「……な、なんだ今の」
「見間違いじゃねえよな……」
「股間から……まるで聖剣のようなモノが……」
「聖剣って言うか性剣なんだが……」
「誰が上手いこと言えと?」
「いや、上手くねえだろ」
ざわ……ざわ……と会場がざわつき始める。
観客の視線が一斉にこちらへ突き刺さる。
“聖剣”ならまだしも、“性剣”って言うなああっ!
顔が真っ赤になるのを自覚しつつ、俺は心の中で絶叫した。
なんだよそれ、恥ずかしすぎるだろ……!
俺はいったいどんな存在として見られてるんだ!?
頼む、誰かこの地獄終わらせてくれ。
顔から火が出そうになりながら視線を泳がせると、受付嬢リリアと目が合いそうになった。
いや、合いそうになった――が、彼女は即座に顔を逸らした。
「だ、大丈夫です! 見た目はアレですけど、きっと強力なスキルですから!」
そうフォローらしき言葉を口にしつつ、表情は明らかに正直あまり関わり合いたくないと物語っていた。
おい! 言葉と顔が真逆じゃねえか!
心の声が丸出しだぞ!
お前、それっぽい言葉を発しながらもコッソリ距離が離れていってるの俺気づいているからな。
そんな俺とリリアのやりとりに茶々を入れる観客たち「受付嬢まで避けてるぞ!」や「完全に他人のフリだな!」などライフがすでに赤ゲージの俺に追い打ちしてくる。
神様ぁぁぁ!
俺がいったい何の罪を犯したっていうんですか!?
異世界転移といえば──普通はご都合主義テンプレ展開だろ!?
最強スキル、美少女との出会い、ハーレム一直線……そういうのじゃないのかよ!?
なのに俺が授かったのは──
「股間から剣が生えるスキル」ってなんだよォォ!?
バカか!? どう見てもネタ枠だろ!
どんな顔して人前で使えっていうんだ!?
理不尽すぎる……神様、これじゃただの公開処刑です……!
あんまりだぁぁぁぁ!!
⸻
その時だった。場の隅から下卑た笑い声が響く。
「グハハハ! なんだそりゃ! 腹いてぇ! 新人芸かよ!」
出てきたのは、肩に鉄の棍棒を担いだ筋肉ダルマ。顔に傷、口元は黄ばんだ歯で不敵に笑っている。
見るからに性格の悪そうなゴロツキ冒険者だ。
俺のことを貶しまくった態度で俺を見下してやがる。
「おい、変態野郎! 俺と模擬戦しようぜ! ぶっ潰してやっからよ!」
やべぇ、ぶっ殺してやりてえ。
主人公に挑んで瞬殺されるためだけに生まれたような顔してるくせに調子乗りやがって!
模擬戦? するわけねえだろ、モブキャラが!
気安く話しかけんな、俺は主人公様だぞ!?
敬え!!
……まあ、股間から黄金の剣を生やす変態主人公だけども。
「いいぞやれ!」「笑わせろ!」
観客席が沸き立つ。完全に俺は見世物だ。
なんでこんな大勢の前で、股間から生えた剣をブンブンしてんだ俺……。
ふと気づけば、観客席の端にいつの間にか立っていた、渋い顔の男がいた。
腕を組み、場の空気を支配するような存在感を放っている。
誰だ? ただの酔っ払いにしちゃ威圧感がハンパないんだが……。
「……ちょうどいい。新入りの実力を測るには模擬戦が一番だ」
その言葉で観客が一斉にざわついた。
どうやら、ギルド実技場の教官ってやつらしい。
「いやいや! 俺、まだ鑑定しただけで。正式な登録証すら受け取ってねえんだけども!? わかる、まだ冒険者ですらないの!?」
抗議も虚しく、俺は実技場の中央に押し出された。
「さあ来いよ、変態剣士!」
「誰が変態だ、この野郎、ぶっ殺してやらあああ〜!!」