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はじまり

 密やかに囁かれる話だ。

 根も葉もない話だと一蹴する者もいれば、火のないところに煙はたたないのだと言う者もいる。


 ただの噂だ。

 いつどこで誰が言い出したのかも分からず、けれど消えてしまうことはなかった。

 面白半分で確かめようとする者もいれば、本当の話なら手に入れたいとものだと笑う者もいた。


 よくある言い伝えだ。

 真実か嘘かは、もはや問題ではなかった。

 長い長い時を経て残っているのは、誰かが手に入れたことがあるからだと言う者。

 存在するかどうか分からないなら作り出せば良いのだと言う者。

 どうしても手に入れたいその者たちには、時間があった。


 ヴァンパイアの寿命は長い。

 人間と比べると軽く倍以上ある。

 人間と友好関係が築かれてから、多くのヴァンパイアの生活は長閑のどかになった。

 有り体に言えば、かなり暇だ。

 やることがない──というか、やりたいことがない。

 矜持が高いので、いくら友好関係を築いたといえど人間なんぞのためにやりたくない。

 魔法の使い方やらを教えて欲しければ、血を寄越せ。


 人間の血はちょっと良い菓子だ。

 飲めば怪我や病気の治りが早くなったりするが、そもそもヴァンパイアは自己治癒力が高いし、魔法だって使える。

 だから、大昔の戦いでヴァンパイアにとって損のない人間を殺す方法として広がっていた吸血行為は、いつの間にかちょっと良い菓子を食べるような意味を持つようになった。

 

 人間によって血の味は違う。

 その事実を知ってしまっているから、もしかしたらと思うヴァンパイアが増えた。

 そうなると、人間から用意された血を無駄にすることなく手に入れて、合法内で密かに探す者の他に、人間を襲って血を奪おうとする者が出て来くのは必然だった。


 ヴァンパイアというだけで拒否は出来ない。

 この世界には人間とヴァンパイア以外の種族もいるから言えることだったし、それだけ長い時間を共に築き上げてきていたのだ。

 数は少ないが、ヴァンパイアと人間で結婚した者もいる。

 他の種族もだ。

 人間と確かに友好関係にあるヴァンパイアをはじめとした異種族からなる、治安警団に対ヴァンパイア部隊が出来たのは当然のことだった。


 捕らえられたヴァンパイアが言った。

 美味い血を探している。


 余計なことを、と一部のヴァンパイアが悪態をいた。

 そして、密かに探していた者も大胆に探していた者も静かになった。

 もちろん、表面上は。


 探しているヴァンパイアは、止まらなかった。

 止まる気が微塵もなかった。

 人間が死んでも何も問題はない。

 それを邪魔する同族や異種族が死んでも問題はない。

 問題なのは、自分ではないヴァンパイアに先を越されること。


 ヴァンパイアは長く生きるからこそ、寛大で博識な者がいる。

 そしてそれと同じく、矜持だけが高く浅慮な者もいる。


 密やかに囁かれた話だ。

 ただの噂だ。

 よくある言い伝えだ。


 惑うほどかぐわしく、舌がとろけるほど甘美な血を宿す人間。

 一滴でも身体に取り入れればどんな病も怪我もたちまち治る。

 喰らい尽くせば、不老不死になれる。

 ヴァンパイアは呼ぶ。


 【ロサ・ローズ】――〝極上の薔薇〟と。


「いやロサもローズも薔薇じゃん! 意味かぶってる!」

 トム・マーカーは思わず声を上げた。

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