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カントリーガール  作者: julie
Epilogue
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epilogue

 ローレンスは一命を取り留めた。


「今朝、見舞いの花が届きました」

 ハミルトン邸の自分の部屋のベッドの上に上半身を起こし、にこにこ笑いながら言う。


「誰からだと思います?」

「さあ?」

「イザベラ・ローズデイル嬢からですよ。カードも一緒に」

 枕もとのテーブルに置いてあった花模様のカードを手に取って、

「これは、もう一度やり直すチャンスをもらえるということでしょうか?」


「それはイザベラに直接訊くのね」

 シャーロットは答えた。「絶対安静の期間がすぎたら、会いに来てくれるかも」

「そんな。今の私に大それた期待をもたせるようなことを言わないで下さい」


 これでローズデイル嬢が来てくれなかったら、ただでさえ傷を負って痛む胸が、張り裂けて死んでしまいますよ、と、ローレンスは悲しげな顔をする。


 結局、絶対安静の期間が過ぎて、ローレンスがベッドから出られるほど回復するまでに、イザベラは二度見舞いにやってきて、その間にジョーンズはハミルトン邸を去り、レッドモンド氏は夫人とドリスを連れてどこかへ引っ越して行った。ローレンスを撃ったシルヴァートン氏は警察に拘束され、夫人は屋敷に閉じこもったまま社交界に姿を見せない。


 イザベラの婚約が解消されたというニュースが社交界を騒がせたのは、それからしばらく後のこと。ヒキガエル氏は猛然と抗議したそうだが、ローズデイル家の大伯母様こと老ジョセフィンが「まあ、娘っ子に振られたくらいでみっともないね。それじゃ、私が代わりに嫁いでやろう。私もイザベラと同じ、名門ローズデイル家の未婚の女だよ。年齢的にも私の方が、ちょうどいいと思わないかい。それとも何かい、かつて社交界一の美女で鳴らしたこの私では、まさか不服とでも言うんじゃないだろうね!」と睨みを効かせて(おど)し迫ったため、命からがらフランスへ逃げ帰ったらしい。


「ヒキガエル氏が身を引いてくれてよかったわ」

 シャーロットはクッキーをかじりながら晴れ晴れと言う。お見舞いにきたイザベラを引き留めて、客間で二人でお茶を飲みながらの会話。


「あの大伯母様のお婿(むこ)さんになるのなら、別に反対しないけど」

「キャサリン」

 イザベラは困惑顔で苦笑して、


「それにしても……驚いたわ。まさかあなたがローレンスの妹だなんて」

「私もびっくり。あとね、イザベラ」


 シャーロットも困ったような笑顔になると、イザベラの耳元に口を寄せ、


「あなたがお義姉さんになってくれたら、もっとうれしいんだけどな」


 言葉の意味を考えたイザベラが、


「何言ってるの」

 と頬をバラ色に染め、天井――二階に視線をやると、


「私も、あなたが妹になってくれるならうれしいわ」

 と囁き返してくれたのは、二階の自室で療養中のローレンスには秘密だ。話そうものなら、怪我の予後もかえりみず、階段を駆け下りてきて、その場にひざまずきプロポーズしかねない。まだできるだけベッドの中で過ごすよう、医者にきつく言われているのだから。


 でも、きっと大丈夫。イザベラが見舞いに来てからのローレンスの回復ぶりは目覚ましいと医者も目を見張るほどだ。まだ安静にとは言われているけれど、ベッドから出てロジャーやシャーロットと自室でお茶を飲むこともできるようになった。ついには「退屈です」とぼやいて新聞と煙草を欲しがるようになり、シャーロットは屋敷中のシガレットケースを隠さなくてはならなかった。


 そして。


「どうしても田舎に帰りたいのですか?」


 ローレンスはティーカップを置き、困った顔でシャーロットに尋ねた。


「あなたが望むなら、いつまででもこの屋敷にいていいのですよ。この家の財産だって、好きに使ってくれてかまわない。あなたは私の妹で、ハミルトン家の娘なのだから」


 シャーロットは首を横に振った。


「それはあなたのものよ、ラリー。私、農場の家に戻りたいの」

「……どうしても?」


「ごめんなさい。でも、もうすぐ小麦とトウモロコシの刈り入れ時だし、ジャガイモやカブやニンジンも掘らないといけないし」


 ローレンスは小さくため息をつくと、すぐに安心させるようにちょっと笑って、


「大丈夫、ハミルトン家の血を引いているからと言って、あなたを無理やりここに縛りつけるつもりはありません。それに、あなたは十五年前にも一度行方不明になって、こうして都会に戻ってきたのですから。また戻ってきてください、絶対に。ロジャーも一緒に。つまらないお家騒動に巻き込んで大変な思いをさせてしまったけれど。あなたは私の妹で、ロジャーは私の命の恩人です。年に数回でもいい。せめて、便りを。そして、困ったことがあればいつでも頼って。ハミルトン家の当主として、兄として、どんなときもあなたたちを歓迎しますから」


「ありがとう」

 シャーロットは身を乗り出して、ローレンスの頬にキスをする。


「ラリー、ラリーも絶対うちに遊びにきて。今度は私が田舎のいいところ、たくさん案内してあげる。一緒に近くのクリークで泳ごう」

「楽しみにしていますよ」


 ローレンスはシャーロットの頭を優しく叩いて、傍らに立つロジャーを見上げ、


「ロジャー。キャサリンをよろしくお願いします」

「ああ」

 ロジャーは頷いた。「約束するよ」


 ローレンスの部屋を出てドアを閉めると、シャーロットは結局身に付かなかったダンスのステップをでたらめに踏んでくるくると回った。そうしてロジャーの方を振り返ると、ずっと言いたかった言葉を、晴れやかな笑顔とともに、ようやく口にすることができたのだった。


「おうちへ帰ろう!」

happy epilogue

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