田舎の少女と恋敵
「あの女だわ」
ドリスはティーカップを両手で割れんばかりに強く握り締め、うなった。
「キャサリン。シルヴァートン家のキャサリンよ」
目をぎらぎらさせカップの紅茶を一口飲む。
「わたくし、見たのよ。ローレンスがあの子に、亡くなったお父様の髪を納めたブローチを贈ったのを。あんな形見分け、ごく親しい人にしかしないものなのに」
「あの娘の喪服があまりにみすぼらしいから、これでもつけて真面目に死者を悼めという皮肉だったのかもしれませんよ」
「やめて、お母様。あの子の喪服はみすぼらしくなんかなかった。それに、あんなに親しそうにローレンスと話をして。ローレンスは心に決めている人がいると言った」
ドリスは唇を噛み締める。
「よりによって、シルヴァートン家の田舎娘だなんて。許せない」
「シルヴァートンか」
レッドモンド氏は顔をしかめて葉巻を灰皿においた。
「十四年も前に行方不明になった娘をやつが今になって引き取ったときは、まさかとは思ったが。本当にその娘でローレンスを射止めるとは」
「お父様、ご存知だったの?」
「シルヴァートンが、ローレンスと自分の娘を結婚させようと企んでいたことは知っていた。だから、シルヴァートン家の使用人の一人を買収して、定期的に内情を報告させていたのだが。それによると、あの娘はいまだ自分が育った農場のことが忘れられず、ローレンスにも特別な感情を抱いてはいないと――」
「ふざけないでよ!」
ドリスは声を荒げた。
「あの田舎娘、そうやって純情なふりをして。ローレンスをうまくたぶらかしたんだわ」
赤毛を振り乱して父にすがる。
「お父様。わたくしがローレンスと結婚すれば、レッドモンド家にとってもプラスになる。それをあの子が後から割り込んできて、すべてめちゃくちゃにしてしまったのよ。あの子さえいなければ、ローレンスはわたくしのものだったのに」
「そうだ」
レッドモンド氏は頷くと、考えるように宙に視線をやった。
「あの娘さえいなければ」
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「キャサリン」
黒いボンネットを脱ぎながら、シルヴァートン夫人は弾んだ声でシャーロットに言った。
「まったく幸先がいいこと。ハミルトン氏が亡くなった。ということは、ローレンスが次のハミルトン家の主人になるということだわ。膨大なハミルトン家の遺産を、今やローレンスは好きにできるのよ。キャサリン、これはチャンスですよ。ローレンスは父親を失ったばかりで、きっと心の支えを求めている。あなたがうまく慰めれば、すぐにでも結婚を申し込んでくれるに違いないわ」
「お義母様、そんなことを言うのは不謹慎よ。ローレンスのお父様が亡くなったのに」
シャーロットは俯いて、膝の上で丸くなっている白い仔猫の頭を撫でる。
「キャサリン、おやめなさい。喪服に毛がつくじゃありませんか」
夫人が顔をしかめて注意した。シャーロットが屋敷で猫を飼うことに、夫人は絨毯に毛がつくと言って猛反対したのだが、シャーロットは無理やり押し切ったのだ。何もかも両親の思い通りにはさせない。仔猫はフラッフィと名づけ可愛がっている。
「ま、キャサリンの言うとおり、いま焦ることはないと思うよ」
シルヴァートン氏が笑って居間のソファに腰を下ろした。
「ローレンスはキャサリンのことをすでに相当気に入っているようだからね。ほら、そのブローチ」
指で示され、シャーロットは胸のブローチに視線を落す。墓地でローレンスにもらったものだ。精巧な銀細工で縁取られた丸い透明なガラスの奥に、金の絹糸のような輝く髪が一房、蔓に似た美しい模様を描いている。
――父の髪を納めたブローチです。
「故人の髪を形見分けとして贈るのは、肉親かよほど親しい人にだけ。ローレンスがお前に父の死を心から悼んでもらいたいと思っている証拠だ。彼がどれだけお前のことを特別に思っているかわかるというものさ。レッドモンド家のドリスなどもう相手にもならんね」
上機嫌で言い両手をこすり合わせる。
「さあ、今夜は久しぶりに家族揃って外食にしよう。レストランに予約を入れておく」




