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カントリーガール  作者: julie
Chapter. 6
31/46

田舎の少女と両親の企み

「キャサリンは?」


 シルヴァートン氏は妻に尋ねた。


「ハミルトン家のローレンスと一緒です」


 シルヴァートン夫人が答える。


「そうか」

 シルヴァートン氏はパーラーのソファに腰かけ、微笑んだ。


「あれは、エリザベスの産んだ子だ。生きていればきっと美しい娘に成長していると思ったよ」


「でも、ひどい田舎者です」

「妬いているのか」

「まさか。ただ、気に入らないだけよ。実の母親のことなど覚えてもいないくせに、わたくしの顔を見ると戸惑った顔をするのよ、あの子。こんなに色々面倒をみてやっているのに、気分が悪いわ、エドマンド」

「そう怒るな」

「そりゃあ、あなたはいいでしょうよ。むかし愛した女の娘ですものね。顔もそっくりだし――」


「アイリーン」

 シルヴァートン氏は妻の手を取り言った。


「死人にやきもちを焼いても仕方がないだろう。今、私が愛しているのはお前だけだ」

「どうだか。それに、子供を産むことができない身体だと知っていれば、わたくしと結婚なさらなかったのでは」

「馬鹿なことを言うな」


 シルヴァートン氏は妻を抱き寄せ、自分の隣りに座らせた。

「わかっているだろう? 私があの子を引き取ったのは、シルヴァートン家のためなのだよ」

「わかってますけど」

 夫人は答えると、少し心配そうに眉を寄せ、

「もうそんなにお悪いの?」


「借金がひどくかさんでいる。投資にも失敗した。会社の金を使い込んだこともじきにばれる。破産は時間の問題だ。そうなればこの家も、先祖代々引き継いできた家具類も、せっかく買い集めた美術品も、すべて手放さなくてはならなくなる」

 シルヴァートン氏は苦い顔で言うと、すぐに笑顔を取り戻し、


「だが、キャサリンがうまくやってくれれば、我々は救われるのだよ」 


「ハミルトン家は、社交界一の資産家ですものね」

 夫人も頷いて相槌をうつと、心配そうな顔のまま、

「だけど、レッドモンド家の娘のドリスも、ローレンスの気を引こうとやっきになっているようですよ」

「レッドモンド家か」

 シルヴァートン氏は小さく笑った。

「なに、心配することはない。我々の方が有利だよ。何しろあの子は――キャサリンは、エリザベスの娘なのだから」

「だったらどうなの?」 


「ローレンスの父、アーネスト・ハミルトンが、かつて私の恋敵だった事は知っているだろう?」

 シルヴァートン氏は言った。


「若い頃、やつはエリザベスにぞっこんだったのさ。結局、エリザベスが一緒になったのはやつではなく、この私だったわけだがね。息子のローレンスが父親と同じ女の趣味を引き継いでいるのなら、キャサリンに目をつけないはずはないと思っていた」


「呆れた。そんなことまで考えてあの子を引き取ったの?」

「まあな。そして、その読みはあながち外れでもなかったようだぞ。今のところ、予想以上にうまくいっているじゃないか。毎週キャサリンを外出に誘いにくる」

 シルヴァートン氏はゆったり微笑んで、ソファから腰を上げた。


「何としてでもキャサリンを、ハミルトン家のローレンスと結婚させるんだ。あの子がローレンスと結婚すれば、ハミルトン家の資産が我が家に転がり込んでくるのだからな。借金は帳消しになり、破産も免れる」


「じゃあ、そろそろあの子にも、はっきり言った方がいいんじゃないかしら」

 夫人は、耳に留めた大きなルビーのイヤリングを揺らしながら言った。

「いつまでも子供のお付き合いを続けていないで、少しは積極的になってもらわないと」

「そうだな」

 シルヴァートン氏は頷いた。

「これは、あの子のためでもあるんだ。ハミルトン家の子息と結婚すれば、この先一生何ひとつ不自由のない生活がおくれる。あの子にとってもこれが最善の道だよ」


----------


「……親が犯した罪の報いは、巡り巡って子供に回ってくるというわけです」

 ローレンスは父親の枕もとの椅子に腰を降ろし、独り言のように呟いた。

「まったく、なんと理不尽なことか」

「何か言ったか?」

 寝台に横たわっていた父親が、掠れ声で尋ねかけてくる。

「おや、起きておられましたか、珍しい」

 ローレンスは口元に皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「カーテンをお開けしましょうか?」

「いや」

 父は閉じていた目をわずかに開き、頭を枕に預けたままローレンスを見上げた。

「難しい顔をしているな」

「悩み多き年頃なのでね。もてる男は辛いですよ」

「私に似たのだろう」

「あなたに」

 ローレンスは唇を歪めた。


「そうですね。おかげで大変なことになりそうです」

 囁くように言った。

「これは、あなたの罪だ、父上」

 返事はない。見ると、父はすでに目を閉じて、かすかな寝息を立てている。ローレンスはそっとため息をつき、シャーロットから預かった手紙と、懐中時計の包みを見下ろした。親の罪は子に報い。


 ローレンスは父の書き物机の引出しを開けると、新しい便箋を一枚取り出し、万年筆を走らせた。

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