田舎の少女と青年紳士の洞察
「それで、お嬢ちゃんの方は最近どうなんだ? 父親のシルヴァートン氏と、継母とうまくいってるのか?」
ラリーが強引に話題を変える。シャーロットは目をそらした。
「あんまり考えないようにしているの。相変わらずほとんど顔を合わせないし」
「ふうん」
ラリーは怪訝な顔をする。
「まあ、夫人の方はともかくとして、シルヴァートン氏の方はどうなんだ?」
「それこそ全然会わないわ」
シャーロットは首を横に振った。
「社交界に家族で出るとき以外はね。仕事が忙しいって聞いてるわ。お義母様とはたまに話をするけど」
「そうか」
ラリーはウイスキーのグラスを弄びながら考え込む。
――シルヴァートン家といえば、最近あまりいい噂を聞かないぞ。
この前の晩餐会で、ジョシュアが言っていた言葉を、ラリーは思い出していた。
――ここ一年ほど、事業があまりうまくいっていないらしい。
あのあと気になって色々と調べてみたところ、たしかにシルヴァートン氏の鉄道ビジネスはここのところうまくいっていない。その上さらに調べると、シルヴァートン氏は会社の金を使い込み、投資にも失敗して大赤字を出し、多額の借金を抱えていることがわかった。社交の場ではおくびにも出さないが、実際のところシルヴァートン家は破産寸前だ。お嬢ちゃんは何も知らされていないらしいが。
それと、もうひとつわかったことがある。ラリーにはこちらの方が気になった。
シルヴァートン氏は、長いあいだ行方不明になっていた娘であるキャサリンの消息を、もう何年も前から知っていたのだ。彼女が田舎の農夫の家庭で育てられているということも。知っていてこれまで彼女を引き取らずにいた。シルヴァートン氏はすでに再婚していたから、先妻との間にもうけた子供を今さら屋敷に呼び寄せて、いらぬ波風を立てたくないと考えたのかも知れないが。なら、何故今になって突然彼女を引き取ることにしたのか。
子供を産むことができない後妻。キャサリンがただ一人の娘。
だが、そんな事はずっと前からシルヴァートン氏にもわかっていたはずなのだ。
お嬢ちゃんの話を聞くかぎり、父親としての愛情から引き取ったとはどうにも思えない。滅多に顔を合わせないというし、夕食も一緒にとらないという。どうかするとお嬢ちゃんは両親と一緒にいる時間より、俺と過ごす時間の方が長いんじゃないかと思うほどだ。そう、それも奇妙なことだった。もし、シルヴァートン氏が一人娘のことを気にかけているのなら、娘がこうもしょっちゅう若い男に誘われ、二人きりで出歩くことを許すだろうか。いくら相手が名門ハミルトン家の子息とはいえ――
いや、だからこそ、か?
ラリーは思わずグラスを取り落としかけた。
「どうしたの?」
手紙の続きを書いていたシャーロットが驚いて顔を上げる。
「いや、なんでもない」
ラリーは首を横に振り、グラスに残っていたウイスキーを一息に飲み干す。
多額の借金。破産の危機。行方不明だった一人娘。
そういうことか。
頭の中でこれまで気になっていた事柄がすべて繋がった。
ラリーは胸の奥で低く毒づく。
父上、まったくあなたのせいでややこしいことになる。
空になったグラスをテーブルに置くと、ラリーは煙草に火をつけながら言った。
「早く手紙を書いてしまえ」




