田舎の少女と都会の公園
「うわあ、きれいねえ!」
シャーロットは歓声を上げた。日が沈んだ後の公園は、ガス灯の明かりが燦然ときらめき、宝石箱をひっくり返したようだ。ライトアップされた噴水のある広場や、レストランの回りは、中産階級の家族で賑わっていて、気さくな雰囲気が漂っている。
「本当、助かったわ。ありがとう」
池が見えるカフェテラスでお茶を飲みながら、シャーロットはため息をついてラリーに礼を言った。
「舞踏会で踊ることを考えると、朝から憂鬱で仕方なかったの。でも、あなたは大丈夫なの? 舞踏会に出ずこんな所にいても。ほら、お目付け役の……ジョーンズは」
「まいてきた」
ラリーは煙草に火をつけながら答えた。
「今頃かんかんだろうけどな。今夜は是が非でも俺とレッドモンド家のドリスを躍らせる魂胆だったらしいから」
「ああ、そっか、あの人レッドモンド家の」
「子飼いだからな」
ラリーは皮肉っぽい笑みを口元に浮かべる。
「まったく疲れる。うまく俺とドリスのキューピッド役を務めれば、レッドモンド氏から特別手当が出るんだろうよ。しかし、ハミルトン家の給料は、そんな臨時収入をよそからこそこそ貰わないとやってられないほど低いかね。父上は十分払っているはずなんだがな」
顔をしかめてぼやくラリーを眺めつつ、シャーロットはドリスの言葉を思い出す。ローレンスはわたくしにダンスを申し込んでくれるかしら? 自分がこんなところでラリーを独り占めしているのを見たら、ドリスは怒り狂うだろう。
「ドリスと踊るのがいやなの?」
尋ねると、ラリーは肩をすくめ答えた。
「別に。だが、たまには他人の思い通りになりたくない気分のときもあるのさ」
「おかしな人ね」
「その台詞は前にも聞いたな」
煙草をくわえたまま、ラリーは口端をわずかに吊り上げて笑う。
本当におかしな人だ。シャーロットはテーブルに頬杖をつき、ラリーの顔を見上げながら思う。この前レッドモンド邸の晩餐会で会ったときは、真っ白なシャツに黒の夜会服を一分の隙もなく着こなした、物腰柔らかな青年紳士だったのに。今、目の前にいるのは、灰色のフランネルのシャツをラフに引っかけた、どこか退廃的な雰囲気のならず者風の男。一番初めに出会ったときと同じだ。あまりの変貌ぶりに唖然としてしまう。まるで白馬の王子と盗賊の首領くらいの差がある。
だが、自分だって人のことは言えない。シャーロットはため息をつく。二つの顔を持っているのは私も同じ。相手によって態度を変えているのだから。ラリーの前では、農場にいたときの本来の自分そのままに、言いたいことを言っているのに、社交の場やシルヴァートン夫妻の前では、おとなしい令嬢をよそおっている。
都会にやってきてからの自分の存在が、いかにあやふやであるかを改めて感じ、シャーロットは憂鬱な気分になった。顔も知らなかった本当の両親に引き取られ、母親だと思っていた女性は実は父の後妻で、自分とは血の繋がりがなくて、自分は死んだ実の母親似。本当に、屋敷での自分の存在はどうなっているのだろう。