田舎の少女と舞踏会の支度
だがそうはいかなかった。
「キャサリン、舞踏会用のドレスが届きましたよ」
翌日、シルヴァートン夫人が嬉々として、シャーロットの部屋にやって来た。
「ほら、見てごらんなさい。きっと似合うわ」
緑のリボンをかけた箱から出されたのは、白いレースで縁どられた、淡いペパーミント色のドレス。
「どう、清楚な感じがするでしょう? これに真珠のネックレスをつければ完璧よ。それで、ダンスは上達したのでしょうね? まだカドリールがうまく踊れないそうじゃないの。今週はダンスのレッスンの時間を倍に増やしますから、しっかりステップを身につけておくのよ。ワルツもポルカもギャロップもね。シルヴァートン家の一人娘として、ダンスの最中に転んだりして恥をかくようなことは避けてもらわないと」
結局それから一週間、シャーロットはありとあらゆるステップのおさらいをさせられた。ダンスだけではなく、一曲申し込まれたときの対応の仕方や、こまごましたマナー――手袋は食事のとき以外は絶対に外してはならないとか、ダンスの前は控え室に行って鏡と手鏡を使い、髪形が乱れていないかチェックすることとか――さらには、誰それにダンスを申し込まれても受けてはならないといった、パートナーに関する指示まで、シルヴァートン夫人によって詰め込まれた。
「レズリー家のマーチンとは踊ってはなりませんよ。それからミラー家のジェイコブともね」
夫人はきっぱりと言った。
「あの家の人たちはみな、新興の成り上がり者ですからね。そんな者たちにダンスを許したとなると、名門シルヴァートン家の名に傷がつきます」
一体何様なの? とシャーロットは内心思いながら、表向きはあくまで物わかりのよい娘らしく尋ねる。
「では、もし申し込まれたら何と答えればいいの?」
「あなたとは踊りたくありません、とおっしゃい」
「それでもぜひ、と言われたら?」
「ハンカチで顔を叩いてやりなさい」
舞踏会当日を、シャーロットは憂鬱な気分で迎えた。
「まああ、素敵よ! 本当に素敵だわ、キャサリン!」
舞踏会用のドレスに身を包んだシャーロットを見て、シルヴァートン夫人は大袈裟に誉めそやした。
「その淡いグリーンのドレス、あなたの金色の髪にとてもよく映えるわ」
そう言うと、シャーロットの本当の母親譲りの金髪に手を触れ、にっこり微笑む。感情の読めない笑み。実際のところこの人は、私のことをどう思っているのだろう。シャーロットは夫人の茶色い髪を眺めながら、複雑な気持ちで考える。
継母と、前妻の娘。
シルヴァートン夫人は笑顔で続けた。
「その青い瞳も、亡くなったお母様にそっくりよ。エリザベスはね、それは愛らしい方だったの。その愛らしさをあなたも引き継いでいるのね。でも、そんな話をしても仕方がないわね。さ、今夜は楽しんでいらっしゃい。それから、くれぐれもシルヴァートン家の名に恥じない振る舞いをね」
優しく肩を叩いて送り出される。