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カントリーガール  作者: julie
Chapter. 4
18/46

田舎の少女と殿方の噂話

 ハミルトン家の子息、ラリーことローレンスは、シャーロットが出席した二度の晩餐会には姿を見せなかった。招待はされているが顔を出していないらしい。


「ローレンスは気まぐれな人だもの」

 パーラーで食後のコーヒーを飲みながら話しているとき、ドリスが得意げな顔で言った。


「気が向かないときは社交界に現れないのよね。ほら、わたくしの家での晩餐会には顔を出したでしょう? あの人、出るパーティを選んでいるのよ」


「そうかしら」

 イザベラが冷たい声で呟く。手にしているコーヒーのカップには、ミルクも砂糖も入れていない。よくあんな苦いものが飲めるわね。シャーロットは感心しつつ、自分のカップにたっぷりと砂糖とミルクを入れてスプーンでかき混ぜた。


「社交界では、根回しは珍しくないことですもの」

「どういう意味?」

 喧嘩腰で尋ねるドリスに、

「別に。ただ、ローレンスは状況を楽しむ人だってこと」

「何よ。そんなこと言って、わかった、あなた、ローレンスがわたくしにばかり優しくするから妬いてるんでしょう?」

「妬く?」

 イザベラは微笑んだ。

「好きなように思えばいいわ」


 やはりイザベラの方が一枚上手だ。ドリスがつんと顔をそらし、別の話題を口にするのを見ながら、シャーロットはイザベラに囁きかける。


「ね、あなたローレンスにあまりいい印象を持ってないの? 前もそのようなこと言っていたけど――」

 いい加減で不実な男性は好きじゃない。

「さあ」

 イザベラは肩をすくめた。

「誰が誰にどんな印象を抱くかは、人それぞれですものね」

 

 フェアな人だわ、とシャーロットは思う。ラリーのことをよく思っていないのなら、シャーロットに向かってあれこれ悪口を並べ立てることもできるのに、そうしない。他の社交界の人間とは違って、他人を貶めるような陰口を叩くような人ではないのだ。


 シャーロットはミルクで薄めたコーヒーを飲みながら、パーラーの炉棚の上に飾られた、オルモル製の時計に視線をやった。十時前。母のシルヴァートン夫人はというと、少し離れたソファで五、六人の友人と世間話に夢中。まだ当分腰を上げてくれそうもない。


「ところで、来週の舞踏会のことだけど、何を着るかもう決めた?」


 ドリスが艶やかな赤毛を揺らして言った。来週の金曜日の晩、アンダーソン家で舞踏会が開かれるという話は、シャーロットもすでに聞いていた。何でも、毎年恒例の大掛かりなもので、社交界の若者が全員招待されるのだという。


「わたくし、白いブロケード織りのサテンのドレスを用意したわ。レースとシフォンとリボンがたくさんついているのよ。裾にはピンクの薔薇の飾りが散りばめてあるの」

「素敵!」

 すかさず取り巻きの一人である栗色の髪の娘が相槌を打つ。ドリスは気をよくして続けた。


「あの舞踏会には、ローレンスも絶対に来るわ。本当に楽しみ。ローレンスはダンスがとても上手なんですもの」


 そう言うと、自分の華奢な手に視線を落とし、


「彼、わたくしにダンスを申し込んでくれるかしら?」

「もちろんよ!」

 栗色の髪の娘が請合った。

「この前のあなたの屋敷での晩餐会でも、彼、あなたにとっても親切だったじゃない。あなたのことが気に入っているのよ」

「そうね」

 ドリスはほつれ毛をさらりと後ろに払うと、


「本当、楽しい舞踏会になりそう。どこかの誰かさんは田舎者だから、舞踏会なんて初めてでしょうけど」


 取り巻き連中が一斉にシャーロットを見て笑う。


「気にすることないわ」

 イザベラがシャーロットにささやいた。

「ダンスの練習はしたのでしょう? 大丈夫よ」

 シャーロットは小さくため息をつく。


「イザベラはどうするの?」

「私は欠席」

 イザベラは肩をすくめた。

「アルマン氏は、私に出席してもらいたくないの」

「そうか、ヒキガエル氏は参加できないものね」

 シャーロットは呟いた。


「若者というには年をとりすぎているもの。で、あなたが若い男性と踊るのに嫉妬してるというわけね」

「キャサリン」

「ごめんなさい」

 シャーロットは謝った。

「でも、私もできれば欠席したいわ、舞踏会なんて」

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