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カントリーガール  作者: julie
Chapter. 3
16/46

田舎の少女と両親の弁明

「キャサリン」


 ベッドから滑り降りたシャーロットに、シルヴァートン氏は切り出した。


「コリンズから聞いたよ。お前が、死んだ母親のことを――私の前の妻の話を聞いたと」


 ずいぶん回りくどい言い方だわ、とシャーロットが思っていると、


「つまり、私はあなたの本当の母親ではないの」

 シルヴァートン夫人が口早に言った。


「これまで黙っていたことを許してちょうだい、キャサリン。あなたを騙そうと思ったわけではないのよ。これには訳があるの。聞いてちょうだい」


「キャサリン」


 シルヴァートン氏がシャーロットの目を見つめて言った。


「アイリーンが後妻であることを話さなかったのは、言えばお前が気にすると思ったからだ。いずれはきちんと話そうと思っていたよ。時期を見てね。だが、その前に知ってもらいたかった。アイリーンはたとえ血の繋がりはなくとも、お前のことを実の娘のように愛している。彼女が継母であることは、我々が親子として暮らしていくにあたって、何の妨げにもならないと」


「そうよ」


 シルヴァートン夫人は頷いてシャーロットの手を取った。


「確かに私はあなたの本当の母親じゃない。でも、あなたのことを実の娘のように思っているわ。キャサリン、わかってくれるでしょう?」


 目を覗き込んで尋ねられ、シャーロットは頷くしかなかった。頷く以外にどうすることができただろう。あなたを母親とは認めない、とでも言うのか? そんなことできるはずがない。


「では、もう何も問題はないわね」


 夫人は明るく笑って言った。


「私たち、お互いを理解できたんですものね?」


 シャーロットは曖昧な顔で父を見上げた。


「私もだ」


 シルヴァートン氏は言った。


「お前のことを心から愛しているよ、キャサリン。大切な娘だ。お前が行方不明になって十四年間、ずっとお前の消息を探していた。地方の保安官に問い合わせたり、田舎の新聞に投書したり、ありとあらゆる手を尽くしてね。あの恐ろしい列車事故のどさくさに紛れ死んでしまったのだと、回りの友人には言う者もいたがね。私は諦めなかった。お前に再会することなく病死したお前の母のためにも、必ずお前を見つけ出して幸せにすると、そう私は誓ったのだ。この十四年間、お前のことを忘れたことはただの一度もなかった」


 十四年間。


 シャーロットは父親の真っ直ぐな視線を受けて思う。


 十四年も私のことを探し続けてくれていた。ありとあらゆる手を尽くして。


 だが、十四年もかかるだろうか?


「アイリーンと再婚したのは、アイリーンならいつかお前が戻ってきたとき、お前の母親代わりになってくれると思ったからだ。戻ってきたお前に母親がいないせいで、辛い思いをしてもらいたくない。アイリーンは素晴らしい女性だし、父と母が揃っているまともな家庭をお前に用意していてやりたかった。社交界では、母親の役割というのが、娘にとって極めて重要なのだよ。キャサリン、わかってくれるね?」


「私のことを実の母親だと思っていいのよ」


 シルヴァートン夫人が思いやりに溢れた声で言い、シャーロットの手をそっと撫でた。


「血の繋がりがないことなんて気にしないで。これまで通り母と呼んでちょうだい。何も遠慮することはないわ」


 とても農場に帰りたいなどと言える雰囲気ではなかった。二人の大人に期待に満ちた視線を注がれ、シャーロットは仕方なく小声で呟く。


「お母様」


「キャサリン」

 両親が嬉しそうに微笑んだ。


 シルヴァートン氏が優しくシャーロットの肩を抱く。


「わかってくれると思っていたよ。さあ、今夜は三人で食事に出かけよう。レストランに予約を入れてある。たまには家族そろって夕食をとるのも悪くない」


 そしてそれきりになった。ウエイターがフランス語で話しかけてくる格調高いレストランで、家族三人で初めて食事をし、翌日からは再びほとんど顔を合わさない日々が続いた。シャーロットは相変わらず一人で食卓につき、家庭教師と使用人に囲まれて一日を過ごす。


 何とも釈然としなかった。結局言いたいことも言えずに流されて、うまく丸め込まれてしまったような気がする。


「一体、何が不満だというのです?」

 ブリジッドは尖った声で言った。


「あなたの本当のお母様は、あなたが行方不明になってすぐ亡くなられた。旦那様はあなたにショックを与えないよう、それを今まで隠しておられた。奥様は、血の繋がりのないあなたを本当の娘のように気にかけて、社交界でうまくやっていけるよう骨を折ってくださっている。お二人ともお忙しいのに、あなたのためを思って精一杯やってくださっているのですよ? 何が不満だというのです?」


 何が不満かですって? シャーロットは心の中で呟く。自分の存在が相変わらず不確かなことだ。お父様は私を愛していると言ってくれ、お義母(かあ)様も血の繋がりはなくても私を実の娘のように思っていると言ってくれた。だが、結局与えられたのは言葉だけ。ただ一度一緒に食事をしたというだけで、状況は何も変わっていない。


 前妻の面影を残した娘。本当のところ、シルヴァートン夫妻は私のことをどう思っているのだろう。

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